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美味しい三重にでかけよう 「赤福餅 編」

一般的に、食べ物の味は素材の良し悪しはもちろん、例えばそれが出来立てかどうか、手作りかどうか、さらにはそれを頂く環境や雰囲気など、様々な要因に大きく左右されるのは、グルメな方ならずとも多くの方が経験的にご存じの事だろう。

もちろん、白身魚や肉、そして多くの発酵食品などのように、ある程度時間を置いて熟成や発酵させた方が、アミノ酸やその他の旨味成分が増えて美味しくなるものもあるが、こと、料理や菓子など、人の手が加わったものほど、出来立てかどうかや、それを頂く場の雰囲気などが、その味に大きく関わってくる。

ところで、皆さんは「赤福餅」を召し上がったことはあるだろうか。

一般には単に「赤福」とも呼ばれて、中京圏や関西圏を中心に、日本全国で広く親しまれているこの餅菓子は、今更説明するのが憚れるほどの有名菓子だ。

三重県伊勢を代表する銘菓であり、お餅の上にこし餡(こしあん)をのせただけという、シンプルながら独特の形をしている。その名前は「赤心慶福(せきしんけいふく)」という、「赤子のような嘘偽りのない、ありのままの心」を意味する「赤心」と「人の幸福に慶びを感じる」という「慶福」が合わさった言葉から二文字をとって名付けられたと言い伝えられる。

その歴史は古く、誕生は今から約300年前の1707年(宝永4年)。人によっては馬鞍を連想するかもしれないその形は、伊勢神宮の神域を流れる「五十鈴川」のせせらぎをかたどったものといわれ、餡につけられた三筋の形が清流を、白いお餅が川底の小石を表しているという。

その昔は伊勢神宮のすぐそばにある本店のみで販売されており、もっぱら神宮を参拝する人々の名物となっていたが、輸送状況などが格段に良くなり、なおかつ製造~包装技術なども向上した今日では、本店のみならず、名古屋駅をはじめとする数多くの鉄道駅の売店や百貨店、港や空港、SAなどで購入可能となっている。

好きな人にとっては、色々な場所で購入できる、というのは嬉しい反面、中にはイメージが先行して、各地に存在するそのほかの「名物」同様、あちらこちらで買うことの出来る「普通」の有名菓子、と誤解して食わず嫌い、買わず嫌いの方もいるのではないだろうか。

そんな方にも是非おすすめしたいのが、「赤福餅」を本店で味わう、という体験だ。

赤福本店は、伊勢神宮内宮前に広がるおはらい町の中ほど、五十鈴川に架かる新橋のたもとにある。見るからに重厚で、歴史の長さを感じさせるその建物は、眺めているだけでもほれぼれとする美しい木造建築。入り口には、「創業」「宝永四年」という文字に挟まれる形で、金色の「赤福」の文字が大きく書かれた看板が掲げられ、その下に「名物あかふく」と書かれた暖簾が下がる。いずれも右から左に並んだ「右横書き(旧仮名遣い)」だ。

ちなみに、本店で頂く「赤福餅※」とそのほかの売店などで土産物として売られている「赤福餅」の何が違うのか。その最大の違いは型で作っているか、手で作っているかだ。そう、本店のものは、店内で手作りされているのだ。その味わいの詳しくは後述するが、本店では手作りの出来立てを食べることができるので、餅の柔らかさと餡の食感が売店等で購入するものと異なるのである。

さて、本店の建物の中に入ると向かって右側に朱塗りの竈が三つほど並んでいる。この不思議な形をした竈は「三宝荒神(さんぽうこうじん)」と呼ばれるもので、かつて、伊勢神宮参拝の際に、足の弱い婦人らに愛用された三人乗りの馬の鞍「三宝荒神」を造形化したものという。本店で食べることの出来る赤福餅のセットについてくる番茶はこの竈で沸かした湯を用いているのだそうだ。

向かって左側では、江戸や明治の頃の商店の支払いカウンターはこんな感じだったのだろうなと思わせるような旧来のスタイルで赤福餅の箱詰めを売っている。売り子さんのスタイルは、昭和初期頃の感じだろうか。いずれにしても、店内の雰囲気と合わさって、いかにも「いい感じ」なのだ。

カウンターで注文したら、空いている場所を探して奥に進む。電灯がいくつかぶら下がっているお店の中は、自然光が取り入れられており、現代のギラギラした人工光に疲れた目にはほっとするちょうどよい明るさ。人がリラックスするためには、明かりがとても重要だというが、この少し暗いぐらいの明るさが、なんともいえず心地よい。

入り口付近には腰かけスペースが広がっているが、店の奥の方に進むと、五十鈴川に面した小さな庭を見ることの出来る座敷が広がっている。運よく、店がそれほど混んでいなかったら、是非とも座敷に座ってみよう。

席に着くと、ほどなくして注文したセットが運ばれてきた。注文したのは赤福の「盆」と呼ばれる、赤福餅二個に番茶がついたセットだ。

赤福餅そのものは、何度も食べたことがあるので、その形は見慣れているが、質感というか、見た目の感じがまず違う。餡の表面がつやつやとしているのが目を引くのだ。形状も手作りであることが一目でわかる様な、いいバランスの形だ。機械的な、全てがきちんと揃った形状が醸し出す美しさもあるとは思うが、やはり人間の目には、微妙にアンバランスというか、揃っているようでいて揃っていないくらいがちょうどいい気がする。「絶世の美人」といわれる人たちも、顔の中心線で左右を比較すると決してシンメトリーにはなっていないというが、やはりちょっとずれているものにこそ、絶妙のバランスがあるのだ。

それでは手作りの出来立て赤福餅を早速味わってみよう。セットには、箸が添えられているので、そちらで頂く。箸で食べるのは、昔はお餅が食事であった頃の名残だとか。想像していたよりもさらに柔らかい餅を、箸でそっとやさしく持ち上げて口に運ぶ。

「!!」

なんというスムースな柔らかさだろう。持ち上げる際に意識はしていたものの、口の中に入れると、思っていたよりもなお柔らかいのだ。その柔らかさは、まさに搗き立てのお餅そのもの、といった感じだ。今までに幾度となく頂いた赤福餅とは別物だ。ここまで柔らかくて、程よい甘みで、餡がしっとりとしている、という食感は初めてだ。長年の経験から「先入観」や「思い込み」はよくない、というのは頭では分かっていたつもりだが、それでも「赤福餅」を少々あなどっていた自分に気が付かされる。それほどまでに衝撃的に旨いのだ。

少々驚愕しながら一個目をぺろりと平らげ、その幸福な余韻を楽しみながら番茶でのどを潤す。この番茶は、三重県産の「伊勢茶」の無農薬で栽培した茶葉を使用しているといい、赤福餅に合う様に特別にブレンドした茶を赤福本店で焙じて出しているのだそうだ。お湯は、先ほど見かけた竈で沸かしたもの。このお茶がまた、「ちょうどよく」赤福餅を引き立てる。濃すぎず、薄すぎず、香りが立ちすぎていることもなければ、渋すぎることもない。いい感じの味わい加減で、赤福餅の美味しさを引き立てているのだ。

お茶を何口か飲んだら、2個目を箸で持ち上げる。先ほどよりも慎重に。そして先ほどよりも、もの惜しげに。運ばれてきた際には、「2個も食べられるかな」なんて思ったが、今となってはもうあと3、4個食べたい、とさえ思っている自分に気づく。普段、甘味をあまり食べない人間でもこうなのだから、甘味好き、和菓子好き、餅好き、スイーツ好きの諸氏ならば、2個ではとても足りないだろう。

それでも、やはり物事は「もう少し~~したい」「もっと欲しい」というくらいがちょうどいい。二個目の赤福餅を、ゆっくりと大切に味わい、庭を見ながらほっとして、風を感じながら目をつむり、江戸の昔に思いを馳せる。

赤福餅2個と番茶がいざなってくれる、しばしの幸福の時間。柔らかな癒しの空間。

是非一度、あなたも体験してみて欲しい。

食べ物の味は、「出来立て」「手作り」、そして「雰囲気」で、二倍にも、三倍にもなる、ということをあらためて感じることができるだろう。

※本店以外でも、「盆」は、伊勢、鳥羽、二見の各直営店と名古屋の百貨店(2店舗)で頂くことができる。

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Japan Web Magazine 編集部

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