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南千住の「素盞雄神社」で夢のような風景に出会った 写真で見る美しい日本の春の風景 「おうちで花見」 

素盞雄神社

街道沿いの桃源郷

まだ自動車の無かった江戸時代にはそれなりに情緒も雰囲気もあったであろう「大きな街道」も、現代では無数の大型トラックや車やバスが行きかう、ただ騒々しくて無粋で情緒もへったくれもない「大きな道路」でしかないのは皆さんもよくご存じの通り。

日本橋を起点に、江戸と各地を結んだ東海道、中山道、日光街道、奥州街道、甲州街道のいわゆる五街道は言うに及ばず、数多存在する「~街道」と名のつく道(脇街道・脇往還)も現代の都市部においては、よほどのことでもない限り、ただ車やバスやバイクや自転車などで通り過ぎるだけの「便利な通り道」に過ぎず、ことさら感激したり、感動したり、目を見開かされたり、心を動かされたり、なんていう「イベント」とは、ほぼ無縁であるに違いない。そこには、どこにでもあるような大型スーパーや小売店、飲食店などが並び、どこにでもあるような「普通」の風景が広がる。

例外といえば、「重伝建」に指定されている「妻籠宿」や「馬籠宿」などに代表されるような歴史的、伝統的な建物が並ぶ昔ながらの町並みが続くエリアだろうか。又は、町並みとまではいかなくとも、重厚で立派な伝統建築物が残っている場所。そして、江戸時代またはそれ以前から存在していた神社仏閣など。

雨の奈良井宿
中山道「奈良井宿」と東海道「関宿」

すぐそばを通る街道(通り)の喧騒が嘘のような、静かで落ち着いた雰囲気に包まれている境内。思わず感嘆のため息をついたり、はたまた拍手でもしたくなるような緻密で美しくて壮麗な建物。そんなものもあるにはあるが、やっぱり普段使いの道路には滅多に感動はなく、思わず知らず、立ち寄ってみたくなる、なんて経験もそうそうあるものじゃない。

素盞雄神社

そんな「思い込み」が覆された。

それは、浅草から足立区方面へ向かって走っていた時の出来事だ。旧日光街道を北上し、あしたのジョーで有名な「泪橋」を過ぎてJR貨物線と常磐線、東京メトロ日比谷線の下をくぐり、日光街道(現在の国道4号線)へとぶつかる場所で、突然ある光景が目に飛び込んできた。

由緒正しいことがひと目でわかる佇まい、鳥居とその前に掲げられた提灯。そして両側に咲き乱れる白やピンクの花。その日は天気がよく、抜けるような青空であったこともあり、その美しさに思わず目を見張った。そう、それはまるで一目ぼれのような感覚。目にした瞬間恋に落ちてしまったような衝撃だった。

その日の目的の場所に行くまでにまだ少し時間的な余裕もある。その神社の訪問を即決した。

素盞雄神社

改めて神社の前に立つと、その美しさにしばし見とれてしまう。最初に目に飛び込んできた時には気が付かなかったが、両側に咲く花は、どうやら桃の花の様だ。鮮やかな紅色や淡いピンク色、目を見張るような白色をした可愛らしい花を咲かせる桃の木が、門の両側のみならず、前方に広がる境内右手側にも鳥居の先に続く参道の脇にも幾本も並んでいる。それらは時折吹き抜ける春の風に、さわさわと揺れている。

小鳥の声が聞こえ、鈴が鳴る。

そこはまるで夢の世界の様だった。

ふと後ろを振り返ればそこには国道があり、煙を上げてトラックが行きかっている。騒音があたりを包み、甲高い轟音が耳をつんざく。

しかし、神社の方に目をやると、その騒音も轟音もどこかに消えて、心がスーッと優しく穏やかになるのだ。とげとげしい感情が、ふーっと丸くなる。鳥居をくぐり境内へを足を踏み入れると、穏やかさはさらに増してゆく。左手の方に進んでいくと右側に本殿があり、左側に手水舎がある。そしてそこにも桃の木が幾つも並び、可憐な花を咲かせている。日の光がさらさらと降り注ぐ中、ただただ夢見心地で花に包まれる。普段の生活では、「ドリーミー」な感情とは一切無縁で、「夢」もどこかに忘れてきたような「現実的」な時間だけを暮している中で、こんな感情が胸の奥にまだあったのかと驚くほどに、心は夢のような空間に浸り込む。「桃源郷」なんてものは、遥か遠くの、どこか異国の地にあるのかと思っていたが、こんなすぐそばにあったのだ。

素盞雄神社

それは時間にしてわずか十数分のことだろう。天気や温度や湿度や光や花の咲き具合や訪れた時間、様々な要因が奇跡的に重なった、刹那的な美しさだったのかもしれない。まさに「夢」を見ていたのかもしれないが、その美しさは今も心の中に残り続け、時々「現実」を忘れさせてくれるのだ。

素盞雄神社

素盞雄神社

素盞雄神社

素盞雄神社

素盞雄神社

素盞雄神社

素盞雄神社(すさのおじんじゃ)とは

JR/東京メトロの南千住駅からほど近い場所にある素盞雄神社(東京都荒川区南千住)は、創建795年(延暦十四年)とも伝えられる歴史ある古社で、南千住をはじめ、三ノ輪から三河島、町屋にいたるまで、近隣一帯の六十を超える地域の「総鎮守」として地元の人々に親しまれ、大切にされている神社です。御祭神は「素盞雄大神(すさのおおおかみ)」と「飛鳥大神(あすかおおかみ)」。

すぐそばに日光街道があり一日中車が走っていますが、鳥居をくぐって一歩境内に足を踏み入れると、外の喧騒がうそのように落ち着いた空気が流れています。古くから疫病除けのご利益があるとされ、安政年間に江戸でコレラが流行した際には「疫除守」を求める参詣者が集まったと伝えられています。

一年を通してとても気持ちの良い「気」に満ちている神社ですが、特に春の時期には美しい桃に花に彩られた素晴らしい光景が広がります。その美しさはまさに夢のような風景。状況が落ち着いたら是非、足を運んでみてはいかがでしょうか。

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JAPAN WEB MAGAZINE Tomo Oi

浅草在住。ウニとホヤと山と日本酒をこよなく愛しています。落語好き。

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