日本の揚げ物 その魅力
公開日: 2020年4月23日 | 最終更新日 2024年1月3日
キスの天ぷら
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日本の揚げ物料理をもっとよく知ろう!
今や世界中で大人気の日本食。寿司やラーメンは言うに及ばず、牛丼やお好み焼き、カレーライスに豚の生姜焼き、枝豆などなど、ありとあらゆるジャンルの日本食が、海外の日本食を愛する人々の目と鼻と舌と耳を魅了しています。中でも寿司と並んで人気なのが天ぷらをはじめとする揚げ物です。エビや野菜、鶏肉、豚肉、牡蠣に鯵、ポテトにメンチにカニクリーム、色々な衣をまとった様々な食材の「揚げ物」の美味しさは、いとも簡単に文化の違いや言葉の違いを超えてしまうのです。
揚げたて熱々を「ふはふは」言いながら、食べるあの感覚。「さくっ」と「かりっ」と揚がった食材たちからあふれ出てくるあの旨味。皆さんの中にも「揚げ物大好き!」「揚げ物命!!」という方は沢山いらっしゃるのではないでしょうか。
もちろん、「油で揚げる」という非常にシンプルでわかりやすい調理法で作られる「揚げ物」は世界の各地に数多くあって、それぞれの土地柄、お国柄を反映した「美味なる揚げ物料理」が沢山あります。そもそも日本食の揚げ物も、「天ぷら」という言葉がポルトガル語由来であることからも明らかなように、海外から入ってきた料理の影響を受けて出来上がったものが多いといわれます。海外から入ってきた調理法や食材が、日本の調理法や固有の食材とふれあい、混じり合い、日本の風土の中で改良され、工夫され、さらに数多の調理人のひらめきや試行錯誤も加わって、そうして出来上がってきたのが今ある日本の魅惑の揚げ物料理たちなのです。
「食材を油で揚げる」という調理は、科学的に見れば、食材の水分と熱せられた油が入れ替わり、食材の余分な水分が抜けて美味しさがギュッと詰まった状態です。さらに、衣がある天ぷらやフライなどは、衣の中で食材が「蒸される」状態になることにより、食材の旨味が逃げないままに、程よく加熱された状態となるのです。
だからこそ、適温で、ちょうどよい時間加熱調理された揚げ物料理は、中はふっくらジューシーで旨味たっぷり、外側はかりっとさくっと心地よい歯ごたえで、得も言われぬ美味しさを醸し出すのです。または、(天丼やタレカツ丼のように)かけられたタレやソースの旨味と食材の美味しさが絡み合って、時に叫びたくなるほどに、いやまた悶えるほどに、重層的な「美味」のハーモニーが体の中を突き抜けていくのです。
また、別の側面として「油で揚げる」という調理法だからこそ、引き出される旨味、美味しさというものもあります。例えば、山菜の苦味。そのままや、茹でただけでは苦くて食べにくいものも、油で揚げることにより、一気にそれは「旨味」という名の魅力に変化するのです。「ふきのとう」に、「コシアブラ」「タラの芽」。衣をつけて油で揚げて、塩か天つゆをちょんとつけて「ハフハフ」と頬張る時に感じるあの幸せ!山菜好きの方なら思い出しただけで、思わず悶絶してしまうのではないでしょうか。「揚げ物」には、食材の味わいを最大限に引出し、風味を引き立て、例えそれが「苦味」「アク」だとしても、「旨味」へと変化させてしまう、という「力」もあるのです。
日本の揚げ物料理の歴史
日本で揚げ物料理が食べられるようになったのは、奈良時代頃といわれます。大陸から渡ってきた調理法が広まったといわれますが、当時は油などが高価であったこともあり、一般の人達が口にできるようなものではなかったといいます。一般の庶民も口にできるようになったのは江戸時代以降のこと。世の中が平和になり、流通網も発達したことにより、油や食材も入手しやすく、値段も手ごろとなり、江戸前の天ぷらも次第に広まっていきました。ごま油に加え、安価な菜種油が流通するようになったのも揚げ物が広まった理由の一つとか。当初はもっぱら屋台(天ぷら屋台)で提供されていた天ぷらは、現在のファーストフードのような位置づけの食べ物であったようです。
日本の揚げ物 様々な揚げ物料理
一口に「揚げる」といっても皆さんもご存じの通り、日本の揚げ物料理には色々な調理法があります。さらにはそれぞれの揚げ物料理に用いられる食材の豊富さにより、バリエーション豊かな味わいの揚げ物料理の数々が存在します。
というわけで、今日は、日常的に見かける揚げ物料理から、日本各地に存在するご当地揚げ物料理、郷土料理まで、様々な日本の揚げ物を並べてみましょう。もう、次の食事には思わず「揚げ物」が食べたくなってしまうこと請け合いの、魅惑の日本の揚げ物料理の数々をどうぞ。
白エビの唐揚げ
白エビの唐揚げ
白エビの天ぷら
富山を訪れたら是非とも食べたい味覚の一つが、油で揚げた「白エビ」です。鰤、ほたるいかと共に、富山の名産として知られる「白エビ」は、名前の通り透き通った白っぽい色をしているのが特徴で、その美しさから「富山湾の宝石」なんていう呼び名もあるほど。もちろん、見た目が美しいだけではなく、味も最高で、地元富山では刺身や寿司、昆布締め、汁物などで食されるのですが、特におすすめしたいのが、この衣をつけて油で揚げた「白えびの唐揚げ」もしくは「白エビの天ぷら」です。かりっとさくっとした心地よい食感と、得もいわれぬ甘み。かつては出汁で使われることも多かったというだけあって、極上の旨味を伴なった迸るような美味しさが口の中一杯に広がるのです。
山賊焼き(山賊揚げ)
山賊焼き(山賊揚げ)
長野県の松本市や塩尻市など、いわゆる中信地方と呼ばれる地域で親しまれているのが山賊焼き(山賊揚げ)です。ニンニクやタマネギなどが入った醤油だれにつけこんだ鶏のもも肉に片栗粉の衣をつけて油で揚げた豪快な食べ物です。料理法や味わいとしては唐揚げに似ているのだが、大きな塊のまま揚げてあるので、外はかりっとさくっとしていながら中は肉汁たっぷり、じゅわっとジューシーなのが特徴。「山賊」なんて物騒な名前がつけられた由来としては諸説あるが、「山賊といえば、他人から金品を”取り上げる”」ことから「取り上げる」=「とりあげる」=「鶏揚げる」にかけた、なんていう説もあるのです。
薩摩揚げ(さつま揚げ)
大陸から伝来した食べ物が、琉球から薩摩を経由して広まったといわれる「薩摩揚げ」。ご存じ、おでんなどにも欠かせない、魚のすり身に塩などを加えて形を整えて油で揚げた魚肉練り製品、魚肉加工食品の一種です。食べ物の名前にもなっている地元「薩摩」や沖縄では「つけ揚げ・チキアーギ・チキアギ」という呼び名が一般的。関西では「天ぷら」と呼ばれることも多いといいます。
そのままや、からしやショウガをつけて醤油で、または醤油と砂糖と酒でさっと煮て食べるのが好き、という方も多いでしょう。うどんにトッピングするよ、という人もいるかと思います。単体では勿論、他の食べ物と合わせても、それらとうまく絡み合い融合しながらも、さりげなく自己主張し、きちんと存在感はある、そんな食べ物なのです。
主な原料となる魚はイワシやサバ、カツオにほっけなど。枝豆やキクラゲ、玉ねぎ、タコ、ジャコなんかが入ったものもあります。専門店などでは「棒天」「野菜天」「ごぼう天」などの定番のものに加え、レンコンの乗った「れんこん揚」など、色々な形をしたものもあって、見た目にも楽しいのです。
カキフライ
カキフライ
揚げ物の中で、これほど好き嫌いの別れる揚げ物もないのではないでしょうか。嫌いな人は、「苦いし、なんか独特の臭みがあって嫌だ。食感も苦手。」といいます。しかし、好きな人にとってみればこんなに心惹かれる揚げ物もないでしょう。「ジューシーで海の香りがあって旨味も強くて、もう蕩ける!こんなに旨い揚げ物、ほかにある?!」となるのです。旬の季節になるとそわそわ。スーパーなどで加熱用や生食用の美味しそうなカキのパックを見るたびにどきどき。揚げ物屋の前を通るたびに心は激しく揺さぶられるのです。
そうして、いざ、カキフライが盛られた皿を目の前にした瞬間と来たら!からしをつけて、ソースをかけて、パクリ。生で食べても、鍋で食べても美味しい牡蠣。それでもやっぱり、さくっと油で揚げられたカキフライの濃厚なうま味を口にすると、あらためて気付かされるのは「揚げ物料理」の偉大さなのです。
鯛カツ
鯛カツ
刺し身で食べても美味しいタイをすり身にして衣をつけて揚げてしまったのが、福井県小浜の名物「鯛カツ」です。「元の魚が美味しいからといって、すり身にして揚げてもおいしいとは限らないよね」と思いながら「ぱくっ」と食べてみると!さすがというかやっぱり美味しいのです!
もちろん、刺身などで食べるタイの味とは異なるのですが、鯛の旨味がありつつも衣がつけられ油で揚げられたからこその香ばしさや風味。「一つの食べ物」として完成した美味しさを持っているのです。丼に盛ったご飯の上にのせた「鯛カツ丼(若狭鯛カツ丼)」やバンズで挟んだ「鯛カツバーガー」なんていうのもあります。
ウツボの唐揚げ
ウツボの唐揚げ
高知・土佐久礼の「久礼大正町市場」で出会ったのが「うつぼの唐揚げ」。「海のギャング」なんて呼ばれて漁師やダイバーに嫌がられるウツボも、かりっとさくっと油で揚げられてしまっては見る影もなく、ただ美味しい食べ物となって人々を喜ばせる存在に。うつぼは唐揚げのほか、タタキや刺身、鍋などでも食されており、「ブリブリ」とした食感と旨味はあの「乱暴者」のイメージからは想像もできない上質なものなのです。
とり天
とり天
大分の名物・郷土料理として知られる「鶏天」は、鶏のもも肉やムネ肉、ささみなどに小麦粉と卵の衣をつけて油で揚げたもの。いわば鶏の天ぷらです。醤油やニンニクなどで下味がつけられているのは「唐揚げ」と同じですが、衣が違うので唐揚げとはまた異なる美味しさを楽しめる料理です。食べる際には、カラシを酢醤油に溶かしたものにつけて食べるのが定番。店や家庭にもよるが大分名産のカボスもよく用いられます。
栃尾の油揚げ
栃尾揚げ
初めて見る人は大抵驚くであろう大きな油揚げが「栃尾の油揚げ」。新潟県の長岡市栃尾の名物です。その特徴はご覧の通りの大きさ、分厚さ。通常の油揚げの数倍はあろうかという厚みなのです。カットした一個一個がそのまま「おいなりさん?」と思ってしまうようなしっかりとした重量感。地元では単に「油揚げ・あぶらげ」と呼ばれるこの大きな栃尾の油揚げは、ネギやかつお節を乗せて醤油をかけて頂くのが大定番。
この栃尾の油揚げ、お店で購入もできますし、居酒屋などでも提供されていますが、出来れば揚げたてのアツアツを食べてみて頂きたいのです。人によっては、「今までこんな油揚げ食べたことない!」と驚くことでしょう。「こんな美味しい油揚げがあったのかーっ!」と感嘆することでしょう。今まで食べてきた油揚げの概念ががらがらと音を立てて崩れ去っていくほどに、その美味しさに感動することでしょう。豆(豆腐)の旨味と油の香ばしさ、「かりっ」とした外側、ふわりと「ジューシー」な内側の食感、甘みやら「熱」やらが、こんがらがりながら口の中一杯に広がっていく幸せ。舌をやけどしながらも、心は思わず叫ぶのです。「うまいーっ!!」と。
そのほかの「揚げ物」料理たち
海老フライ
がんもどき
レバーフライ
アジフライ
ハムカツ
味噌串カツ
トンカツ
野沢菜の天ぷら
小鮎の天ぷら
海老の天ぷら 大葉の天ぷら
天ぷらの盛り合わせ ずわいがに アスパラガス 椎茸
野菜の天ぷら かぼちゃ ししとう
ビスケットの天ぷら
餃子の皮のチーズ包み揚げ
桜エビのかき揚げ
蓮根のはさみ揚げ
天ぷら、唐揚げなど、日本の揚げ物料理に用いられる様々な食材
魚介類
アジ、キス、サヨリ、イワシ、サンマ、サバ、鯛、フグ、穴子、カサゴ、ノドグロ、カレイ、タラ、サケ、マス、エビ(車エビ、大正えび、ブラックタイガー(ウシエビ)、アマエビ、桜海老、白エビ等)、イカ(モンゴウイカ、ケンサキイカ、スルメイカ等)、タコ、カニ、ホタテ、ハマグリ、小柱(バカガイ)、牡蠣、白身魚や青魚のすり身、ウニ、海苔、アオサ、モズク、アユ、稚鮎、イワナ、ワカサギ、メヒカリ、シシャモ、シャコ、シラウオ、ウツボ、ギンポなど。また、タラやフグの白子、骨、エビの頭など。
肉類
牛肉、豚肉、鶏肉、馬肉など。
野菜・根菜類
レンコン、さつま芋、山芋、ニンジン、タマネギ、ネギ、ナス、カボチャ、シシトウ、ゴボウ、ジャガイモ、トウモロコシ、ショウガ(紅生姜)、ニンニク、ピーマン、オクラ、ブロッコリー、カリフラワー、アスパラガス、パプリカ、トマト、ズッキーニ、三つ葉、シソ、パセリ、枝豆など。
山菜類・きのこ類
フキノトウ(蕗の薹)、ワラビ、葉ワサビ、ヨモギ、カンゾウ、トリアシショウマ、コゴミ、ゴマナ、シオデ、タラの芽、イタドリ、コシアブラ、アザミ、山うど、山フキ、根曲り竹、タケノコ、ツクシ、行者にんにく、シシウド、リョウブ、ニリンソウ、ミツバアケビ、十文字シダ、ニワトコ、ユキツバキ、ユキノシタ、ウバユリ、カタクリ、セイヨウタンポポ、ウルイ(ウリッパ、アマナ、ギンボ、山かんぴょう)、しめじ、シイタケ、舞茸など。
その他
豆腐(豆富)、モチ、パン、餡、まんじゅう、ビスケット、せんべい、麩、玉子、もみじ、干し柿、リンゴ、カステラ、アイスクリーム、など。