弘前城跡の桜の絶景と花筏の風景
東北随一の桜の名所「弘前」の桜
岩手県北上市の北上展勝地(北上市立公園展勝地)、秋田県仙北市の角館と共に「みちのく三大桜名所」の一つとして知られる青森県弘前市の弘前公園(弘前城跡)の桜。「日本一の桜の名所」と絶賛する人もいる弘前の桜は、例年であればゴールデンウィークあたりが見ごろとなりますが、今年2023年は各地で記録的な早さの桜の開花と満開時期を迎えた関係で、弘前でもとても早く桜が咲きました。実際に弘前を訪れた方はもちろんのこと、ニュースなどで映像をご覧になってご存じの方も多いかもしれません。
令和5年度弘前さくらまつりの会期も、2023年4月21日(金)~5月5日(金)の期間で予定されていましたが満開の時期がだいぶずれてしまい、お店や宿泊関係などの地元の方々も、ホテルやツアーを事前に抑えて桜の鑑賞に出かける予定であった方々も、随分と「拍子抜け」したのではないかと思います。「自然と天候」が要因なので仕方のないことですが、それにしても年々と開花と満開の時期が早くなる感じがありますね。
ところで、弘前の桜がなぜこれほどまでに有名になったか、その理由を知っていますか?
「桜前線が沖縄から次第に北上し、東京などで見ごろを過ぎてしまってから遅れて満開の時期を迎える青森という場所柄、なおかつ満開の時期がゴールデンウィークに重なるというタイミングもあり、少しでも桜を長く楽しみたい人々が、各々の居住地で桜を楽しんだ後にさらに連休を利用して青森までやってきて桜を楽しむから必然的に人が増える」という側面もありますが、それを差し引いても(例えば、仮に東京や大阪などの大都市と満開の時期がかぶっていたとしても)弘前の桜はやはりその美しさで有名になるであろうと確信できるほどに、実際の弘前の桜は特別なのです。
お城のお濠や壮麗な門、そして天守(櫓)などの伝統と歴史ある建築物をバックに、より桜が「映える」(はえる、もしくは「ばえる」)というのも勿論ありますが、弘前の桜の美しさの最大の理由、それは桜の花の「ボリューム感」なのです。
初めて弘前の桜を目の前で見ると誰もが驚く、その「たわわ」ともいえる桜の花の重厚感・重量感は圧倒的。通常の桜の2倍はあろうかとも思える花の量で眼前に迫ってきます。遠くから見た時にはもちろん、ほんの目と鼻の先で見た時の「上品なゴージャス感」。「華やか」でありつつも、桜の「淡い」花びらの色がゆえに「過剰な感じ」は決してなく、あくまでおしとやかで品がある。純粋にひたすらに美しいのです。
弘前の桜がきれいな理由 弘前の桜が美しいのはリンゴのお陰?
では、なぜに弘前の桜はこれほどまでにボリューム感があって特別に美しいのか?弘前の桜は他の地域の桜と品種が違うから?
弘前公園となっている弘前城跡には、確かに寒緋桜やエドヒガン、ベニシダレ、八重紅枝垂、オオヤマザクラ、大寒桜といったように様々な桜の品種が見られます。その数50種類2600本ともいわれますが、いわゆる「日本の桜の木」として一般的によく見るソメイヨシノも多く植えられています。そして、このソメイヨシノの花のボリューム感、花びらが集まってまるで桜色の「まり(毬)」のようにも見える存在感がすごいのです。初めて目にした時には、何らかの理由で花の量が実際よりも多く見える「錯覚なの?!」とすら思えるほどのこの圧倒的な雰囲気、実は弘前の名物、青森の特産品が大きく関わっています。
それは「リンゴ」です。
弘前公園の桜は、リンゴの栽培に用いられる「剪定技術」や「肥料のやり方」を応用した方法で手間暇かけて管理されているのです。元来、桜は「切ってはいけない木」とされてきました。「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」なんて言い回しもあるほど。桜の木は菌に弱く、剪定したところから菌が入って樹勢が弱まったりそこから腐って枯れてしまったりしやすいのだそうです。
そんな「切ってはいけない木」桜ですが、ある時、弘前公園の桜の中で、樹勢の弱っていた桜の古木を、リンゴ農家でもあった公園の管理人が、このままどちらにしても枯れてしまうならと、イチかバチかで、リンゴの木を剪定する方法で剪定したのだそうです。管理人は、サクラの木もリンゴと同じように剪定できるかどうかは、確信がなかったそうですが、剪定した古木は、次の年には驚くべき回復力を見せ、美しい花を咲かせたのでした。それから剪定方法や肥料のやり方などに試行錯誤が重ねられ、改良が加えられていきました。
こうして、いつしか弘前公園の桜の木々は、単に樹勢を回復するだけにとどまらず、花も増え、より見事に咲くようになっていきました。今では「弘前方式」ともいわれる、「桜の木をリンゴ栽培の技術を応用して剪定し、肥料を施す」というやり方で管理されている弘前公園の桜は、一般的な桜の花芽の数が3~4個程度なのに対して、5~7個もの花芽という多さで花を咲かせ、ほかにはない重厚感あふれる美しさを醸し出して、地元の人々のみならず全国各地から訪れる人々の目を楽しませているというわけです。
もう一つ、桜の花が増えたことで生み出された弘前城跡の有名な景色があります。それが「花筏」。皇居のお濠の桜(千鳥ヶ淵の桜)を初めとして、水辺に咲く桜であれば、満開になった後に散った花びらが水面に浮かび、一面桜色に見える光景が生み出されるわけですが、弘前城の桜は花のボリュームが多いことにより、「花筏」と呼ばれる水面が桜色に染まる光景も圧巻なのです。
という訳で、弘前城跡(弘前公園)の桜と、花筏(花いかだ)の絶景をお届けします。
弘前公園(弘前城跡)の桜の風景と花筏
弘前城のお濠の花筏
弘前城 三の丸追手門と桜と外濠(外堀)の花筏の絶景
現在、弘前城では本丸東面の石垣の積直し工事が実施されています。石垣工事のために2015年度に曳屋が行われた「天守」は、2024年度に石垣の積直し工事が終わった後、2025年度に元の位置に曳戻される予定。ということは、この景色(天守が現在の位置にある状態)が見られるのもあと少し。次の桜の時期はもちろん、それ以外の季節でも、今しか見れない「特別な弘前城の風景」を見にぜひ弘前に足を運んでみてくださいね。