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からすみ

からすみ

木曽路名物

取材で日本各地をめぐっていると、「自分の常識」は必ずしも「人の常識」ではない、という事を強く思い知らされることが度々ある。それは特に食べ物でよく経験することなのだが、今回ご紹介する「からすみ」もまさにそれだった。

「からすみ」と聞くと何を思い浮かべるだろう?人それぞれイメージする形や食べ方、好き嫌いに多少の差があっても、大方の人は「本物ならば大変値の張る「酒飲み御用達」の高級な酒の肴」「オレンジがかった褐色の美しいねっとりとしたボラの卵から手間暇かけて作られる」三大珍味の一つ「カラスミ」を思い浮かべるのではないだろうか。ところが。岐阜のとある町で入ったスーパーに売っていた「からすみ」は違っていた。

からすみ

写真のようなパッケージの、小豆色や白色や抹茶色の物体が、お菓子コーナーにてんこ盛りに積まれて売られていたのだ。商品名のタグには「からすみ」と大書してある。そして、それぞれの色の山に、抹茶味、あずき味と、それぞれの味が書いてある。持ってみるとずっしりとして、羊羹のような感じだ。

原材料を見ると、米粉、砂糖、小豆、塩というこれでもかというくらいにシンプル。少し様子を見ていると、地元の人らしき買い物客が、一本、二本と買っていく。気になるので、一本買ってみよう。白砂糖、抹茶、小豆、黒糖、ゴマ、クルミ、桜など様々な味のからすみがあるが、とりあえず小豆味を購入した。

からすみ

からすみの名の由来

「からすみ」と聞けば即座に珍味の方のカラスミをイメージする身にとっては、なぜ木曽路のお菓子が「からすみ」と呼ばれるようになったか興味あるところ。調べてみると全く異なる両者には共通点があった。それはその形。ボラの卵で作られるカラスミが、その形が唐の墨(唐墨)に似ていたことから名付けられたように、このからすみもまた唐墨に似ているという事で同じ名が付いたという。素材や作り方や味は全くの別物でも、名前の由来は同じというわけだ。

そのほかに、ボラの卵で作られるカラスミにあやかって、この菓子をからすみと名付けたという説もある。江戸時代に、ボラの卵のカラスミは、珍味としてのみならず、子宝の象徴として珍重されていた。とはいえ、海のないこの地にあってカラスミはたやすく手に入るものではない。桃の節句にカラスミをお供えしたいがカラスミは容易に手に入らない。せめて、カラスミに似たものを、と考案されたのが、この菓子のからすみだという。子供の健やかな成長を願って、カラスミに似せて菓子を作り、それを「からすみ」と呼び、いつしかこの地に伝わる菓子となった、というのだ。

いずれにしても、これで、からすみが珍味と同じ「からすみ」と呼ばれるようになったのも納得。さて、気になるのはやはりその味だ。

パッケージから取り出して切ってみる。粘度は、見た目も似ている外郎(ういろう)と同じくらいだろうか。ややもっちりとしているような感もある。本物の唐墨というものを間近で見たことがないので、全体の形が唐墨に似ているのかどうかは判別がつかないが、珍味のカラスミにはあまり似ていない。切ってみるとその断面は富士山のような形だ。可愛らしいといえば可愛らしい形だ。

からすみ

その一片を口の中へ運んでみる。もちもちっとした食感が旨い。適度な甘さと小豆の味。熱い緑茶がよく合いそうだ。王道の和菓子、といった感じだろうか。ほっとする味というか、安心する食味だ。今でも、中津川市周辺では手作りのからすみを近所におすそ分けする習慣もまだ残っているそうで、そんな話から伝わってくる温かみがまたいいなあと思う。地元の人々に愛され、大事にされているお菓子なのだ。

もし、中津川周辺を通りかかることがあったら、是非地元の菓子店やスーパーのお菓子コーナーを覗いてみてほしい。そして、そこにからすみが置いてあったら、試してみてはいかがだろう。素朴で、何の変哲もないといえばそうかもしれないが、どこか懐かしくて、安心する時間を提供してくれる、そんな菓子だから。ちなみに、日にちが経つにつれ固くなるが、電子レンジで温めるとまた元に戻るそうだ。

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木曽路の銘菓。岐阜県(東濃地方)のほか、長野県の南木曽町、大桑村と下伊那郡根羽村、さらに愛知県奥三河周辺でも作られている。

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Japan Web Magazine 編集部

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