たたみいわし
公開日: 2013年4月1日 | 最終更新日 2014年6月6日
直火でさっと炙るとぱちぱちっと小さな粒が弾けるような音がして、芳ばしい煙が辺りに立ち込めた。香りが脳のスイッチを入れる。転瞬、甘い海風が吹く。軽やかな潮の香は鼻腔を暫しくすぐってふんわりと中空に消えてゆく。薄い煎餅のような食感は、ふくよかな官能を纏って、体の中に進入してくる。それは、ぱりりと砕け、そしてはらはらと浸潤してゆく。二秒逡巡しながらも、300の目は吸い込まれる。声の無い叫びは、目くるめく落日に繋がっていた。恋は残り香こそ狂おしい。部屋に微かに漂う炙り香は、首の周りにまとわりつくようにたゆたい、海馬を撫でて、そして消えていった。
海の恵み~たたみいわしで至福の時を
たたみいわしは、新鮮な生のシラス(主にカタクチイワシの稚魚)を板状に平らに並べて天日で干したもの。ハガキ大の大きさの木枠に、丁寧に洗った生のシラス(または茹でたもの)を紙をすく時のような要領で均等に入れ、水を切ってから簾の上にひっくりかえして並べていく。天日にあてて、からっと乾燥したら出来上がりだ。しらすを乾燥させる際に、かつては畳表に使われるイグサの上に干していたことから、「畳いわし」と呼ばれるようになったとか。主に静岡や神奈川の沿岸部で作られる特産品で、「海の恵み」そのものといった品。「潮の風味」「魚の旨味」をダイレクトに感じられる食べ物だ。
たたみいわしの食べ方
たたみいわしの食べ方は至ってシンプル。直火でさっと炙って、そのままお酒のつまみに。醤油や、唐辛子をかけたマヨネーズにつけても美味。炙ったものをちぎってご飯の上に乗せ、醤油を少したらしてお茶漬けにするのもおすすめだ。
そのほか低温で揚げて大根おろしと共に頂くのもおいしい。変わったところでは、トーストしたパンにバターを塗って、海苔と炙ったたたみいわしをのせ、最後にちょっと醤油をたらす。香ばしさの中に、しらすの旨味が入り混じり、それがバターを塗ったパンに絶妙にマッチする。炙る際には、火が強すぎるとあっという間に焦げてしまうので、要注意。
美味しい上に、カルシウムも豊富で、栄養満点、酒にもご飯にもとってもよく合う海の恵み「たたみいわし」で至福の時を!
たたみいわしを購入する
たたみいわしは、スーパーやデパートの鮮魚コーナー、または海産物・鮮魚加工品コーナー付近においてあることが多い。普段買い物をしているお店の、例えば「しらす干し」が売っているあたりをチェックしてみてはいかがだろう。静岡や神奈川のしらす加工メーカーもたたみいわしを直接販売している。ネットでの購入も可能だ。