干し柿
公開日: 2009年11月4日 | 最終更新日 2019年6月3日
天からの恵み「柿」
柿の学名は「Diospyros Kaki」。Diosとは「神の」「神聖な」、pyrosは「小麦」「与えられる物」という意味で、「Diospyros」=「神から与えられた食べ物」というような意味となる。柿は、「柿が赤くなると医者が青くなる」と言われるほどに滋味に富んだ果物で、実だけではなく葉にも殺菌作用、抗酸化作用など様々な効能、作用があり、昔からお茶や寿司(柿の葉寿司)などに利用されてきた。美味しい上に、栄養価に富み、かつ利用価値も高い「柿」はまさに天の恵みの様な食べ物なのだ。今回は、そんな柿の実で作られる極上の甘み「干し柿」に焦点をあててみよう。
砂糖よりも甘いもの
「砂糖」が一般の人々の手には中々入らなかった時代から、蜂蜜と共に庶民の貴重な甘味源であったもの、それが干し柿だ。軒下などに吊るされて、寒風にさらされ天日を浴びて、水分が抜けて甘みがぎゅっと凝縮された干し柿は、甘いイメージのある熟れたメロンやぶどうよりもなお甘く、糖度は実に40~70パーセントにもなる。これがどれほどの甘さかと言うと、実に練り羊羹と同じ糖度なのである。ものによっては砂糖のおよそ1.5倍にもなる糖度を持ちながらも、けっして嫌味のない、品のある甘さ。そんな干し柿は、和菓子の世界で「甘み」の基準にもなってきた。
「渋」が「甘」になるメカニズム
一般的に、干し柿は、渋柿を干して作られる。渋柿が干されてあれ程までに甘くなるのだから、甘柿を干せばさぞや、となりそうなものだが、実際はそうではない。それはなぜか。実は渋柿の方が甘柿よりも甘いのだ。糖度計で計測すると、メロン14~18、ぶどう17に対し、渋柿は乾燥前でも糖度20以上を持つのである。ただ、お茶などにも含まれるタンニンが水溶性の状態で多く含まれる渋柿は、そのままでは渋みが勝ってしまい、その甘みを十分に感じることができないと言うわけなのだ。しかし、渋柿を乾燥させることにより、脱渋反応と呼ばれるタンニンが水溶性から不溶性へと転じる変化が起きる。具体的には柿の水分が抜けてタンニン成分が凝固し、私達の舌にある味蕾細胞よりも大きくなることによって、タンニンが細胞に感知されなくなり結果渋みを感じなくなる、というわけだ。この渋柿の渋みを取る方法は、乾燥させる以外に、昔から行われている方法として、焼酎につける、湯につける、米や米ぬかにつけるなどという方法があり、さらに現在では、炭酸ガスや硫黄、遠赤外線などを使用した方法も用いられている。
干し柿の効能
カリウム、カロテン(カロチン)を豊富に含む干し柿。カリウムは血圧を下げ、カロテンは体内でビタミンAになり、目や粘膜、皮膚の健康を保ち、成長を促し、病気の回復や風邪の予防に役立つ。元々栄養価の高い柿が、干し柿になることによってさらに栄養価が高まるのだ。干し柿の効能として、高血圧、脳卒中などの予防、二日酔い、むくみ、腹水、発熱性疾患の軽減などが言われている。とはいえ、何事も行き過ぎは禁物。特にビタミンAは過剰摂取すると倦怠感や睡眠障害、食欲不振、頭痛、皮膚あれなどを引き起こすので、気をつけたい。