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牛骨ラーメン

牛骨ラーメン

鳥取のご当地ラーメン

「こんにちは」と声をかけながら店内に入ると、とたんにおしゃべりが止んで、そこに居た中年の女性三人組が一斉にこちらを向いた。しばしの沈黙。重たい空気が流れる。知らない町にやってきた開拓時代の西部のガンマンがその町の酒場に初めて入った時もこんな感じだったのだろうか。少々薄暗い店内。蛍光灯の「じじじ」という音の聞こえてきそうな昭和の香りのする鄙びた雰囲気。しゃべっていた女性達は食事の器を前にしている訳でもなく、ただおしゃべりに興じに来た近所のおばさんにも見える。時間は午後3時。おやつの最中だろうか。場違いな時間に来たかなと躊躇が頭をかすめつつ、気を取り直して「食事は出来ますか?」と少しばかり余計丁寧に尋ねると、そのうちの一人が思わぬ優しい笑顔で、「どうぞどうぞ」と席を勧めてくれた。

牛骨ラーメン

ラーメンといえば何味を思い浮かべるだろうか。塩味?しょうゆ味?みそ味?今や国民食とも言えるほどに、日本中に店があり、多くの人たちに消費されているラーメン。それぞれの土地柄や郷土性、県民性などを出しつつ、様々な味、様々なダシで取ったスープで日々お客を楽しませている。毎日の様に食べる方も少なくないだろう。そのラーメン、動物性の材料で取ったダシというとご存知の様に二つに分かれる。そう、豚骨と鶏(がら)だ。勿論、純粋に一種類の材料ではなく、両方を混ぜたり、さらに野菜、魚介なども入れる店も多いから、二つに分けられるというのも少々乱暴だが、主流は豚骨か鶏かだろう。ここで、ふと素朴な疑問が湧き上がる。なぜ、牛はないのだろう?当然、鶏や豚と比べたら高いから、というのがすぐ思い浮かぶ答えだが、豚骨の様に、牛も骨を使えばいい。それなのになぜ、牛骨ラーメンは余り聞かないのだろう?日本に牛骨ラーメンを食している地域はないのだろうか?

さて、そこで登場するのが鳥取県だ。テレビ等のメディアでも何度も取り上げられているので、ご存知の方も少なくないと思うが、鳥取のご当地ラーメンは牛骨をベースにスープを取る。そう、「牛骨ラーメン」である。全国的に見ても、鳥取県の、特に中部地域と、山口県下松に少しあるぐらいで、牛骨ベースのラーメンというのは非常に珍しい存在なのだ。

牛骨ラーメンの由来

鳥取県は大山を抱え、広大で豊かな自然の中、牧畜業、とくに牛の生産が盛んな地域だ。元々、この地方には良質な牛が古くから農耕用や食用に飼われていたという。そんな事情から他の地域よりも牛の骨が比較的手に入りやすかった。牛骨はかつては、ただで手に入ったというのだ。

そんな手に入りやすかった牛骨を使って鳥取県内の店がラーメンを作り始めたのがおよそ50年ほど前。米子に伝わった満州料理をヒントにしたとも言われている。今や、中部地域を中心に鳥取全域に牛骨ラーメンを出す店がある。そもそも地元の人たちはラーメンといえば牛骨スープのラーメンが当たりまえと思っている人も少なくないという。鳥取で生まれ、今や全国区のラーメンになるべく、東京銀座にも地元出身のお店が開き、着々とその名が浸透しているのが鳥取発「牛骨ラーメン」なのだ。

牛骨ラーメン

牛骨ラーメンの特徴

しばらくすると、先ほど注文をとってくれた女性が、おだやかな笑みを浮かべて、ラーメンを運んできた。お盆には小鉢が二つ乗っている。「サービスですよ。」と言いながらテーブルの上に置いた。見ると、ポテトサラダが入っている。もう一つはナスの煮しめだ。ラーメンを頼んだのに、こんな素敵なおまけがついてきた。思わず、にっこりしてしまう。

田舎に行けば行くほど顕著だが、よそ者に対する警戒心は、自己防衛と自己保守の賜物に他ならない。都会と違って、人間が少ないからこそ、外部のものには警戒心を抱く。考えてみれば当然の事だ。もちろん、ここらあたりはそこまで田舎ではないが、それでも場違いな雰囲気の人間が場違いな時間に突然入ってきたので、いささか警戒したのだろう。しかし、一瞬の警戒心が解けた後の心地よさは、不思議だ。気まずさが一気に家庭的な雰囲気へと変貌する。先ほどの沈黙の後、こちらが注文する頃には再び会話を始めていた女性達は、今もにこやかに談笑している。ラーメンを運んできてくれた女性もその輪にまた加わった。親戚のおばさんの家に遊びに来たかのような空気が流れる。なんとなく、居心地がいい。ほっとする。

さて、おまちかね牛骨ラーメンの味である。名前はどこかで聞いていたが、食べるのは初めての事。丼から漂ってくる香りは、テールスープのようないい香り。アツアツのスープをレンゲなどは使わずに丼から直接飲み干すのが正統、といわれる牛骨ラーメンの作法(?)にのっとって、丼から直接スープを味わってみる。

「!!」

熱い。

スープの表面が脂でコーティングされているから、冷めないのだろう。通常のスープよりも熱い。しかし、それに馴れると、牛の骨で取ったダシならではの、独特の香りと甘み、芳ばしさが一気に口の中一杯に広がった。どこか懐かしくてどこか新鮮な味。普段食べなれている、鶏や豚骨、魚介系のダシの味とはまた違う。ありそうで無さそうな、知らないようでいて知っているような、そんな味だ。牛丼やスキヤキは基本的に砂糖が入っているし、焼肉は塩やその他の調味料で味がつけられていて、中々牛肉そのものの、純粋な旨みというか香りを味わう事は少ないが、まさにこれが牛のスープの香りだろう。浮いている脂ほどにはあぶらっこくもなく、意外にもさっぱりしている。しょうゆ味が絶妙にマッチする。コクがあるのにクリアという不思議な感じだ。

この後、ラーメンがあっという間になくなってしまったのは言うまでもない。付け合せの小鉢もとても美味しかった事も付け加えておこう。

山陰の小京都と言われる美しい町、倉吉を始め、琴浦町、湯梨浜町など鳥取県内各地に牛骨ラーメンを食べられるお店がある。近くを通る際には是非一度足を運んでみていただきたい。

牛骨ラーメン
牛骨ラーメン
牛骨ラーメン

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牛骨ラーメンの食べられる店

Japan Web Magazine 編集部

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