鳥取県倉吉市 「耳」の夕暮れ
公開日: 2015年10月30日 | 最終更新日 2022年10月18日
タイトルを見て、「なんのこっちゃ」と思われた方もいるに違いない。
ご存じのように、日本各地には様々な珍しい地名、面白い地名、不思議な地名がある。ウェブサイトやテレビ、雑誌などで難読地名、面白地名が特集されることもあるし、実際に車やバイク、自転車で走っていて、道路標識やカーナビの表記などに変わった地名を見つけたことがある人も多いだろう。
於尋麻布(おたずねまっぷ)、母子里(もしり)、妹背牛(もうせ)、老者舞(おしゃまっぷ)、馬主来(ぱしくる)、珸瑶瑁(ごようまい)、尾別(おっぺつ)、尻労(しつかり)、笑内(おかしない)、女遊部(おなつぺ・おなっぺ)といったアイヌ語由来とされる北海道や東北の難読地名をはじめ、木葉下(あぼっけ) 、五十子(いかっこ)、大豆谷(まめざく)、安食卜杭(あじきぼっくい) 、青鬼(あおに)、沼垂(ぬったり)、城之古(たてのこし)、上昆子(かみびりこ)、魚躬(うおのみ)、戸破(ひばり)、竹生野(たこの) 、小黒飯(おぐるい)、木知原(こちぼら)、小土(こひじ) 、赫夜姫(かぐやひめ) 、小入谷(おにゅうだに) 、 浮気町(ふけちょう)、顔戸(ごうど)、鶏冠井(かいで) 、柴島(くにじま)、高向(たこう・たかぶく)、淡河(おうご)、觱篥(ひちりき)、といった地元の人でなければ中々読めないような、アナウンサー泣かせであるに違いない地名、「接待」「途中」「快楽」「上」「水」「酢」「鼻毛」「牛糞の鼻」といったような読み方は難しくないけれど、なぜこんな地名が付いたのだろう、と不思議に思うような地名も沢山ある。
勘のいい方は、もうお分かりだろう。タイトルの耳、これは鳥取県倉吉市中部にある地域の名前だ。耳取(みみどり・みみとり)、耳ケ吠(みみがほい)、耳切、耳谷(みみがい)、耳塚(みみづか)、耳成山(みみなしやま)、耳原(みのはら)、耳ほげなど、「耳」がつく地名は日本各地に点在しているのだが、「耳」一文字の地名はとても珍しく、手元の文献やインターネット等で調べた限りでは、全国でもこの倉吉市だけ。その地名の由来はさだかではないのだが、古事記に書かれている神沼河耳命、神八井耳命、または手研耳命に由来しているのではないかとも推測されている。
一説には、「耳」という言葉は、「身」に由来しているといわれ、「身」は「み」、すなわち「実」「水」「海」「霊・魂」という霊的なものに繋がる言葉に関係しているという。その霊的なものを聞き取る器官、「み」を「身」の中にいれる器官、ということで「み+み」=「みみ」になったともいわれているのだ。
地名としての「耳」も、単に「珍しい地名」「変わった地名」という言葉だけでは片づけられない、なにやら特別な意味がありそうだ。
今日の一枚はそんな「耳」で出会った夕暮れの風景。雲間から光が射して、幾重にも連なる山々のシルエットを浮かび上がらせる。光は、この地の謂れにも繋がるような神々しさを放ちながら、一帯を包み込む。それは、それほど信心深い訳でもない一人の人間が、神の存在を思わず感ぜずにはいられないほどの美しさだった。