阿蘇山
公開日: 2008年12月4日 | 最終更新日 2019年10月2日
阿蘇の風景
夕暮れの阿蘇・草千里。先ほどまで大型バスで大挙してやってきていた観光客や修学旅行生はもう居ない。
一人、水辺にぼんやりと佇んでいると、風が草の香りを運んできた。
鏡面のような水面は空の色を映し込んでいる。まるで、世界の全てが止まってしまったかのようだ。辺りをただ静寂だけが支配する。
美しさの向こうにあるもの、それは胸が締め付けられる懐かしさであったり、おぼろげな切なさであったり、心が透き通る清々しさであったり、はたまた眠りの合間にある躍動であったり。
いずれにせよ、完全な均衡と完璧な振動の前で、人は立っていることしか出来ず、呆然と端然と颯爽と淡々と、あるいは飄々と莞爾と炯炯と漫然と、ただ光の粒がきらめきを伴ってこちらにやってくるその出現点を眺むるだけだ。
迫り来る光香の放埓。めくるめく煌めきの情動。それは例えるならば、まばゆく光りながらすうっと消えてしまった夢の中の森に似て、圧倒的な存在感と無限の虚無感の融合のようである。
幻想がリアルを引きずっていく。現実が崇高を湛え始める。
現世(うつしよ)と隠り世(かくりよ)の境の川はかくあらんと。
目を閉じても汚れは消えずとも、純化の始まった時の狭間で正形を失った膨体は少しずつ少しずつその堆積をまして千切れ飛んでゆく。
一秒ごとに明度は増して、一秒ごとにパルスは増して、継続的な哀しみは、断続的な透過へと変わってゆく。
少しずつ薄くなり、少しずつ薄くなり。
光は現れ消えてゆく。
漣のように寄せては返す。
永遠の連続と消失のポイント。
空気が色を持ち始める。
パースペクティブは遼遠か。それとも全てはそこにあるのか。
目を見開いても、そこにあっても、心はそれを見ないのか。
郷愁と勇烈と虚脱と哀調を相伴し、その瞬間の為に呼吸は続く。
美しいノスタルジーは浅薄な空気と混合し上へと昇ってゆく。
秋の空は気清し(けぎよし)。天空の随意に(まにまに)。
世界最大級の楕円形陥没カルデラを持つ山、阿蘇山は九州火の国肥後の国熊本に聳える活火山だ。今なおその感情昂然と、思い気まぐれに沸っする活火山である。およそ9万年前に噴火した際には、その火砕流は九州のほぼ半分を埋め尽くし、富士山の山体とほぼ同じ600立法キロメートル以上に及ぶ噴出物が九州全土に降り注いだといわれる。その広大さは現地に足を運んでみるとよくわかるだろう。驚くべきことに、南北25km、東西18kmという巨大なカルデラの中には国道が通り、鉄道が走り、農地が切り開かれ、人も住んでいるのだ。現在のあまりに平和で穏やかな風景に、かつてここも火口だったといわれてもすぐ信じられないかもしれない。しかし、9万年前には、火山灰は遠く北海道まで降り注ぎ、溶岩流も九州からさらに海を越え山口県まで流れ走ったという。壮大な風景、雄大な自然。ただそこにいるだけで地球の息吹を肌で感じることができる。
Memo
一般的に呼ばれる「阿蘇山」という山は実はなく、阿蘇山は正式には阿蘇五岳とよばれる高岳(1,592m)、中岳(1,506m)、根子岳(1,408m)、烏帽子岳(1,337m)、杵島岳(1,270m)の総称だ。このうち中岳は現在でも活発な活動を続けていて、車やロープウェイで近くまで行き、火口を実際に目で見ることができる。巨大なスケールで繰り広げられる雄大な全体的光景もさることながら、火口部の荒々しい迫力には圧倒され、ただ息を飲む。エネルギッシュな地球の鼓動を目の当たりにする瞬間だ。火口の周辺及び山腹にある避難用のシェルターが、噴火がすぐ身近なものであることを教えてくれる。
火口周辺は有毒な火山ガス(二酸化硫黄・SO2)が流れており、厳重な注意が必要だ。喘息、気管支疾患、心臓疾患、体調不良の人は生命に関わることもあるので、火口周辺は立入禁止となっている。
また、阿蘇を訪れたなら、阿蘇山周辺に湧く火山の恩恵「温泉」の存在も忘れずに。阿蘇内牧温泉や阿蘇赤水温泉、烏帽子岳周辺には垂玉温泉や地獄温泉、そして外輪山北の南小国町には黒川温泉などの温泉が湧く。
地獄温泉
阿蘇山へのアクセス
阿蘇山へはやはり車が便利。そのまま火口そばの駐車場まで行くことができる。(ガスの状態などによっては火口付近はしばしば立ち入りが規制されるので注意。)所要時間は、熊本ICから約1時間、益城熊本空港ICから約1時間20分、阿蘇くまもと空港から約1時間、熊本城から約1時間30分、熊本新港から約1時間40分。行楽シーズンには、市街と阿蘇方面を結ぶ道路が渋滞するので時間的余裕を。
または熊本駅から阿蘇駅まで、産交バスの九州横断バスもしくはJR九州で。阿蘇駅から阿蘇山西駅までは産交バス阿蘇登山線で行くことができる。頂上火口付近へは阿蘇山西駅から火口縁の火口西駅まで、高低差108mを所要時間4分で結ぶ阿蘇山ロープウェーで。
そのほか、観光ヘリコプターで大空から眺める阿蘇山の遊覧飛行もおすすめだ。
Japan web magazine’s recommend
阿蘇山・中岳(なかだけ) DATA
- 場所: 熊本県阿蘇市
- 交通(公共交通機関で): JR豊肥本線阿蘇駅から産交バス阿蘇山西駅行きで40分、終点でロープウェイに乗り換え4分、火口西駅下車すぐ
- 交通(車で): 熊本ICからR57、阿蘇登山道路赤水線経由、山上方面へ約80分 / 大分・別府から車で約120分
- 駐車場: あり1日410円・120台
- 期間: 通年
- 時間: 夏季期間:3月20日~10月31日 8:30~18:00(17:30 ゲート閉門)
- 時間: 秋季期間:11月1日~11月30日 8:30~17:30(17:00 ゲート閉門)
- 時間: 冬季期間:12月1日~ 3月19日 9:00~17:00(16:30 ゲート閉門)
- 休み: 無休(天候や火山活動の状況により入山規制あり※要確認・立ち入り規制時は入山不可)
- 料金: 普通車通行料 600円 / 阿蘇山ロープウェイ料金(往復) 大人(中学生以上)1000円、小人(小学生以下)500円
- 問い合わせ: 阿蘇山ロープウェー Tel:(0967)34-0411
- HP: 阿蘇山ロープウェー
- HP: 阿蘇市
阿蘇山
+-で地図を拡大縮小