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行田ゼリーフライ

行田ゼリーフライ

謎の食べ物

ある物を人が判断する時、「その物」がもし目の前にはない場合、人は大抵、音を聞いて、もしくは字面を見て、その単語を自分の頭の中の知識と照らし合わせ、それが何であるかを判断するだろう。こと、食べ物はそうであるに違いない。例えば、初めて行った町の食べ物屋さんに入って見るメニュー。それを食べたことがなくとも、「ジューシー豚丼」などとあれば、「ジューシー」な豚肉の丼ものと察しがつくだろうし、「カツラーメン」とあれば、カツの入ったラーメンかな、「牛乳味噌カレーラーメン」なら、牛乳と、味噌と、カレー味の混じったラーメンかな、と普通に想像するだろう。勿論、聞いたことのない食べ物なら、それが一体何かわかるはずもない。「へしこ」と聞いても、へしこを知らない人にとっては、音だけでそれが何か想像できず、「ガタタン」、「おきゅうと」、「まま寿司」などとあっても、知らなければ、字面だけでそれが何か判断はしにくいだろう。

そして。日本各地の食べ物、郷土グルメの中でも特にB級グルメ、ご当地グルメなどと呼ばれるものの中には、それぞれの単語の意味はわかっても、二つ三つ組み合わさることによって、何なのか想像がつかないものとなる名前を持つ食べ物が幾つもある。「トルコライス」、「バクダンおにぎり」、「クリームボックス」などなど。トルコもライスもバクダンもおにぎりもクリームもボックスも耳なじみのある単語だが、それらの単語同士がふっついた途端、知らない人にとっては、それは突如謎の食べ物と化す。今回ご紹介する、「ゼリーフライ」もまさにそれだ。

ゼリーフライ

皆さんは、「ゼリー」と聞いてどんなものを思い浮かべるだろう。オレンジ?ワイン?はたまたこんにゃく?色や形や味は様々なれど、大抵の方が思い浮かべるのは、あのプニプニ、プリプリ、ぷるんぷるんとした弾力性のある透明がかった食べ物だろう。美しく透き通ったヒンヤリしたそれを、スプーンですくって口に運ぶのを好物としている方も少なくないに違いない。食欲のない夏ばてしているような時でも食べやすく、ちゅるんと身体の中に滑り込んでいく。どちらかといえばヘルシーな食べ物。

もう一つ。「フライ」と聞いて思い浮かぶものは何だろう。エビフライ?アジのフライ?カキフライ?おそらく、埼玉県北部の方を除いた(後述)多くの方が、様々な具材をたっぷりの油で揚げた、時に胃や身体に多少の負担をもたらしながらも、それ以上の美味しさと喜びを与えてくれる、ジュワーっとカリカリさくさくな衣のついた食べ物を思い浮かべるに違いない。こちらはどちらかといえば、がっつりとしたカロリーたっぷりの食べ物だ。

では、「ゼリーフライ」と聞かされたらどうだろう。

「ぜ、ゼリーのフライ???」頭の中には、さくさく衣をまとったぷるんぷるんのゼリーという、思わず知らず異世界の未体験ゾーンに突入してしまう不思議な物体が思い浮かんだのではないだろうか?もしくは、正反対ともいえるあまりの異質な食べ物の組み合わせに、思考がしばしストップして、何のことやら想像すら付かないような方もいるかもしれない。「ゼリーフライ」。一体、どんなものなのだろう。

ゼリーフライとは

人口720万人あまり(全国5位)を数える埼玉県は日本の都道府県の中では最多の39の市を抱えるが、そのうちの一つが県北部にある行田市だ。人口は85,000人ほどで、埼玉古墳群や忍城など歴史的な見所もあるこの町のご当地グルメ、それが、昨今B級グルメ好きな人たちの間でも話題の「ゼリーフライ」だ。

いきなりの種明かしだが、ゼリーフライは一言で言ってしまえば、写真でもお解りの通り、「コロッケ」のようなもの。少なくとも、その名の「フライ」の部分に関してはそれほど間違ってはいないのだ。では、肝心のゼリーとは?

これも同じく早々に種明かしをしてしまうと、好奇心旺盛の新鮮なB級的驚きを期待していた方にはいささか期待はずれな答えだが、いわゆるぷるんぷるんのゼリーとは何の関係もない、「銭」が訛ったものといわれている。その見た目が小判型をしていることから、銭型のフライ→銭フライ→ぜにフライと変化していつしか現在の様にゼリーフライと呼ばれるようになったといわれている。

不思議で斬新な名前の種明かしがされたところで、一番肝心の謎がまだ残る。ゼリーフライとやらは、一体どんな味がするのだろう。

おからとポテトのハーモニー

というわけで、気になるゼリーフライと会うために早速埼玉県行田市に足を運んでみよう。東京からなら、行田市まで電車で1時間半~2時間ほどだ。JR高崎線の熊谷駅から秩父鉄道に乗り換え、持田駅または行田市駅まで出て、そこを拠点に巡るのが解りやすいが、JR行田駅でレンタサイクルを借りるのも一興。忍城などを巡りつつ、目当ての店を探そう。

ということで、忍城に程近い、その所在住所もずばり「本丸」にある一軒のお店に入って、ゼリーフライを注文した。ほのかな甘い匂いの漂う小綺麗な店内で待つこと数分。ゼリーフライがお皿に乗せられて目の前に運ばれてきた。

ソースにくぐらせてあるのだろう、揚げ物らしからぬ艶やかでしっとりとした見た目。形は、その名の由来の通り、小判型だ。一般的なコロッケを少しだけ縦方向に伸ばしたような厚みのある楕円形。どうやらパン粉はつけてない素揚げのようだ。箸を入れると、すっと割れた。中は里芋のように少々灰色を帯びた乳白色。

箸を入れた感触はポテトコロッケのようだ。衣がカリッとしていない分、よりスムーズに箸が入る。一口大に切って、おもむろに口の中へ。揚げたてなので、中はアツアツだ。口の中に飛びこんだゼリーフライの一片は、ホクホクと崩れ、それとともに独特の甘みが広がる。これはただのソースの甘みではない。見た目はお芋のようだが、これはおからだ。おからの甘み、豆の上品な甘みが、芋の甘み、ソースの濃いしっかりとした甘みと合わさって、いい具合の甘みとなり、まろやかにふくよかに口の中に広がる。おからのぽそぽそした感じもなく(あれはあれで好みだが)、しっとりぽっくりほくほくといった感じだろうか。ポテトコロッケよりもなおスムーズな印象だ。聞くとゼリーフライには、お芋とおからの他に、ニンジンやネギなんかも入っているという。

ヘルシーで甘くて食べやすく、これは子供のおやつにぴったりだ。勿論、揚げ物である以上、例によってビールにもぴったり。タンパク質系の強すぎる旨みではないので、お茶にも普通にあうかもしれない。これだけでは主食には少々物足りないかもしれないが、子供からお年寄りまで、オールマイティに対応可能な万能おやつ、おつまみといったところだろうか。中身だけなら、歯のない乳児も大丈夫かもしれない。具材に肉が入っていないので、ベジタリアンにもOK。ソースに浸すことで、余計な油も落ちているので、ヘルシーでダイエットにもぴったり。斬新な名前のこの「ゼリーフライ」、ありそうで中々ない、様々な条件に対応可能という中々スーパーな食べ物だ。

ゼリーフライ事始

昭和の初期頃には既に食べられていたというゼリーフライは、行田市持田にあった店「一福茶屋」の主が日露戦争に従軍した際、現地で食べた野菜まんじゅうにヒントを得て作り出した食べ物といわれている。その後、次第に市民権を得、市内の人々に愛される食べ物となったのだという。不思議なことに、行田地域以外にはあまり普及しなかったこのゼリーフライだが、行田市では現在も30軒ほどのお店が、このゼリーフライを提供している。

また、行田市及びお隣の熊谷市を含む埼玉県北部エリアには、単に「フライ」と呼ばれるまた別の食べ物があるのだが、それはまた改めてご紹介しよう。

   

ゼリーフライのレシピ

ゼリーフライに限らず、ご当地物は、その場所で頂くことこそ「キモ」だが、行田まで中々出かける機会のない方に、ここでは家庭でも簡単に作れるゼリーフライのレシピをご紹介しよう。行田に出かける前に試してみてから、機会が出来たら現地で本物を食するもよし、行田で本場のゼリーフライを食べた後に家庭で再現してみるのも勿論おすすめだ。

材料(7~8個分)

作りかた

1.じゃがいもは茹でて、フォークやマッシャーなどでつぶす。野菜はみじん切りに。

2.ボールに入れたおからに、つぶしたじゃがいも、野菜を入れ、卵、塩、胡椒をして良く混ぜる。

3.小判型に成形する。水分が足りなくてうまくまとまらないようなら牛乳または水を少々足して固さを調整する。

4.160度(中温)で2分から5分ほど揚げる。

5.ウスターソースと中濃ソースを混ぜたものに、くぐらせて出来上がり。

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行田ゼリーフライ / かねつき堂

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Japan Web Magazine 編集部

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