雪の中から現れる富良野線
公開日: 2015年2月17日 | 最終更新日 2015年5月12日
朝から降り続く雪はいよいよその激しさを増して、容赦なくすべてのものを包み込む。白銀というよりも鈍い灰色に近いその風景は、美しいというよりも冷淡だ。命が徐々に縮こまっていくような、色が次第に消えていくような、淡々とした非情さと冷たさが混じり合う。
雪は、信越の豪雪地帯のように重さを感じる雪ではなく、風が吹くと空に舞って一面真っ白の世界になってしまう、気温が低い地域ならではの軽いものだが、その軽ささえも、後から後から落ちてくる、圧倒的な量の前になすすべもない。
光もない。音もない。
そんな中、ゆっくりと富良野線の線路を越えると、突然踏切が鳴り始めた。
ふと、この雪の中、一体どんな風に汽車がやってくるのだろうと、車を路肩に止めて線路の方を見る。
本州の幹線のように、汽車はすぐにはやってこなかった。降る雪と風で線路に響く音も聞こえない。ややもすれば、踏切の音さえ、風雪にかきけされてしまいそうだ。10秒が、1分にも2分にも感じる。時間が止まっているかのようだ。
もう行ってしまおうか、と思った次の瞬間、灰色のカーテンを切り裂いて、突如汽車が姿を現した。それは見慣れた汽車の姿ではなく、まるで立体感を感じさせない不思議な光景。正面から数メートルだけその姿を見せて、後方部分は降る雪と自身が巻き上げる雪で隠されている。まるで、二次元の世界から、平面の汽車が移動してきたかのようだ。
それは映画のワンシーンのように、スローモーションで動いていく。汽車が遅いのか、意識が早いのか。夢の中にいるような現実感のない時間が過ぎていく。
時間にして数秒だろうか。真っ白な喧騒の後、世界はすぐに元の冷たい静寂に戻った。舞い上がった雪煙は、降る雪にまみれて消えていく。
何事もなかったかのようにすっと立つ木をしばし眺め、そっとその場をあとにした。
降り続く雪はいよいよその激しさを増して、容赦なくすべてのものを包み込む。まるで世界のすべてを、飲み込んでしまうかのように。