幸手の夕暮れ
秋の空の移ろいやすさは女心にたとえられるが、春の空もなかなかのもの。さんさんと日光が降り注いでいたと思えば、灰色の雲がいつのまにやらやってきて雨を降らし、そうかと思えばまたお日様が顔を出す。
今年の春も、突然の驟雨に仕方なくビニル傘を買った、なんていう人が幾人もいることだろう。せっかく傘を買ったのにもかかわらず、ほどなく雨は止んでしまい、今度は買った傘を持てあましたりして。
そんなある春の午後、埼玉県幸手市で巡り合った夕暮れの風景。少し前まで雨を降らしていた分厚い灰色の雲が、地平線間際で薄くなり、夕方の太陽の光が雲の隙間から差し込んだ。雲は燃え上がるように黄金に染まり、瞬きのたびにその形を変えていく。透き通ったその端は、まばゆいばかりに光り輝く。まさに「神々しい」という言葉が当てはまるような光景。
人は、あまりに突然、美しいものに巡り合うと動きが止まってしまうらしい。コンビニの袋をぶら下げたまま、しばらくそこに佇んだ。
駐車場に入ってきた車のエンジン音でふと我に返り、おもむろにカメラを取り出して何回かシャッターを切る。その合間も、雲の形はめまぐるしく変化していく。
それは命あるもののように、くねりながら形を変える。さながら「黄金の龍」のように、縦横無尽に空を駆ける。