日本の調味料「魚醤・しょっつる・いしる」
公開日: 2008年11月12日 | 最終更新日 2023年9月29日
多彩なる日本料理・日本各地の食べ物
Contents
素晴らしき発酵の世界
殊に食に限っての話だが、人類の英知が生み出した最高にして最大の発明(発見)、それは発酵食品ではないだろうか。私達の日々の生活に欠かせない、味噌に醤油に酒に酢に鰹節に納豆、チーズにワインにパン。全て微生物や酵母、酵素などによって発酵して得られた飲食料、調味料である。それらは多分に、最初は偶然の産物によって生成されたのであろう。ただ何も知らずに置いておいた、運んでいた、発酵した状態のものをたまたま発見したなどなど。
海外の例をあげれば、例えばチーズやバターがそうだ。冷蔵庫もない時代、人々は様々な工夫をしながら保存したり輸送したりしていた。紀元前20世紀頃、ヤギの乳を動物の胃袋を干して作った皮袋に入れ運搬していた際に、ラクダの歩みと共に揺られ、分離した乳脂肪が皮袋内の発酵微生物によって発酵し出来たのがチーズやバターの原型だといわれている。
気象条件、温度、湿度、素材の具合、その他諸々の条件がある一定の状態になった時、食べ物は腐敗せずに発酵(腐敗と発酵のメカニズムはほとんど変わらない。人にとって有益の場合「発酵」となる)した。カビやその他の醗酵微生物、菌類が「腐敗」を抑え、ヒトの舌にとっての旨みを増したのだ。この「発酵(醗酵)」という過程を発見したことによって、ヒトの食卓は劇的に充実した。ヒトの智慧と知識の積み重ねと偶然のコラボレーションが、今の私たちの食卓を豊かにしてくれているのである。
発酵は特に湿度と温度が重要で、湿度及び温度の高い、日本を含めたアジアではことさら発酵食品が多く生まれた。味噌に醤油、魚醤などの発酵調味料も、日本のみならずアジアのあちこちにある。中国の豆板醤、甜麺醤、腐乳、豆鼓、蝦醤、韓国のコチュジャン、タイのナンプラーやベトナムのニョクマム、ラオスのナンパー等々。それら発酵調味料を使うことで、具材の味が引き出されたり、増幅したり、アクセントになったりと、それぞれの国、地域での毎日の食卓に欠かせないものになっているのだ。
いわゆる発酵食品や発酵調味料は、他所からその地に伝えられたものもあり、同時発生的にそれぞれの場所でごく自然に生まれたであろうものもある。発酵食品の中には、匂いのきついものも少なくなく、見た目も溶解していたりカビが目に見えたり、初めて食する人には抵抗があるものもあるが、科学的に見ても明らかに旨み成分が増しているそれらの発酵食品は、一度好きになったら(馴れたら)、もう病みつきになる。
日本の発酵食品 なれずし | 鮒ずし | かぶらずし | いずし
醤(ひしお)
さて、今日は、そんな発酵食品の中から発酵調味料を、特に戦後の食卓欧化ゆえに今では地元の人及びグルメ以外にはあまり馴染みの無くなってきた魚醤をご紹介しよう。
魚醤とは読んで字のごとく、魚から作った醤(ひしお)。醤(ひしお)とは元々塩漬け、塩辛のことで、魚を塩で漬ける際に、塩をして重石を乗せ、じわりと染み出てくるものが魚醤となる。塩分の浸透作用で魚から水分が抜け出て旨みが凝縮される上に、身のタンパク成分がアミノ酸へと変化して旨みと成る。まさに旨み成分がぎっしりと詰まった最高の調味料なのだ。魚から作るがゆえに、多少の魚臭さ、生臭さがあるのは否めないが、慣れればそれも病みつきになる。苦味と臭みはある種大人の味、「成熟」の味なのだ。さらに、火を通すことによって、生臭さは消え、純粋に旨みだけが残る。その濃厚な旨みがゆえに、ややもすると昆布などの他のダシを必要としないほどだ。最近では臭みや塩味を控えめにした製品や異なる原料を使用した新しい製品なども開発されている。各県のアンテナショップや、自然食品の店、比較的大きなスーパーなどでも手に入るので、一度見つけたら試してみてはいかがだろう。
しょっつる(塩魚汁)
秋田の郷土料理に欠かせない秋田の伝統的発酵調味料、それがしょっつるである。ハタハタを塩漬けにし、じっくりと発酵熟成させてつくる。生で舐めると多少塩からく、生臭さもあるが、火を通すとまるみのある旨みへと変化する。雪深い冬の凍てつくような夜、囲炉裏端で、ハタハタと葱とセリを入れ、しょっつるで味をつけただけのシンプルな「しょっつる鍋」をはふはふと突っつくだけで、しょっつるとハタハタの深くて優しい旨みがしばれた身体をぽかぽかと温め、幸せな気分にしてくれる。
鯛醤(たいひしお)
呼んで字のごとく、鯛で作られる醤(ひしお)。温かいソーメンに少し加えるだけで高級感溢れる鯛ソーメンの出来上がり。
さんま醤(さんまひしお)
こちらは秋刀魚を材料に、じっくりと熟成させて作ったひしお。料理に少々たらすだけで、味にコクと深みが出る。
鮭醤油
鮭を材料に杉桶で仕込んだ「鮭醤油」。蓋を開けると漂う鮭の香りがなんとも堪らない発酵調味料だ。
雲丹醤(うにひしお)
贅沢にも雲丹を使って仕込んだ「雲丹醤」。指先につけてほんの少し舐めただけでも、口の中一杯に広がる雲丹の香り。ウニ好きなら、思わず悶絶してしまうかもしれない。そのまま、ドレッシングとして野菜や白身魚につけたり、熱を加えてパスタのソースなどにも使える。福井県小浜市の特産品。
家庭で簡単に出来る雲丹醤のパスタ
シンプルなトマトのソースに雲丹醤を加えるだけで、コクと旨みの増した雲丹トマトソースパスタが簡単に出来る。
用意するもの
- トマト(缶詰または生)・・・適量
- 唐辛子・・・好みで
- 雲丹醤・・・適量
- パスタ・・・1.4mm
- イタリアンパセリ・・・適量
- 日本酒・・・30cc
- バター・・・少々
- オリーブオイル(EX)・・・適量
- にんにく・・・一かけ
- 塩・胡椒・・・適量
作り方
1.フライパンにニンニクを潰して入れオリーブオイルをしく。弱火でじっくり香りを出す。焦がさないように注意。
2.その合間に麺を茹でる。火力やお湯の量にもよるが指定茹で時間より30秒早めにお湯から上げる。
3.1にトマト、日本酒を入れ、軽く炒める。頃合を見てバター、雲丹醤を入れ混ぜる。
4. 麺が茹で上がったら、3に入れ、手早く混ぜ合わせる。
5. 塩・胡椒をして味を整え、細かく千切ったイタリアンパセリをかけて出来上がり。
いしる・よしる(いしり・よしり)
石川県能登半島で主に製造され、食されている「いしる」・「よしる」。場所や地域によっては「いしり」とも呼ばれる「いしる」は主にイカを使って作られる。一方、「よしる」(同じく「よしり」とも)は、イワシ、サバなどを原料に作られる魚醤。伝統的な製法に則っている生産者は、今も原料と塩のみを使って作る。
いしる(いしり)を使った一品
べん漬け
能登で作られるいしるを使った漬物。べん漬けとはこの地方で肉や魚を使った料理の事。なす、きゅうり、大根、山菜などをいしるを使って漬け込む旨みの濃い漬物だ。そのままは勿論、火に炙って食べるというのも独特。
貝焼き
主に大き目のホタテ貝を鍋の代わりに用いて、火にくべ、いしるを出汁にいれ、ナス、ハクサイ、ネギなどの野菜や豆腐、ホタテやイカ、エノキ等の具材を入れて鍋の様にして食べる。秋田などでも同じようなスタイルで味付けにしょっつるを使う貝焼き(しょっつる貝焼き)が食べられている。
いしる焼き(いしり焼き)
そのままを舐めると塩分が強く、塩辛いように感じるいしるも、火を入れるとより香りが立って、食欲をそそるものとなる。野菜や魚、肉などを炭火で焼いて、少し薄めたいしるを塗る。
いしるバター焼き
シイタケなどをバターで焼いて、いしるを少々たらす。醤油だけの場合とはまた違った深みのある味になる。
いしる煮
エビやイカなどをいしるでさっと煮込んだもの。同じく、醤油とはまた違った深み、コクのある味に。
いしるダレ
味噌やミリンなどにいしるを少々たらした特製ダレ。肉や魚の他、焼きおにぎりなどにも合う。
醤油の代わりに
おひたしや刺身など、通常醤油をかける品に、醤油の代わりにいしるを使う地元の人の食べ方。刺身はやっぱりイカ。白身魚も合う。
いかなご醤油
原料としていかなごを用いた魚醤。香川で伝統的に作られてきた魚醤で、しょっつる、いしると共に三大魚醤に数えられることもある。戦後になって、食の西洋化などによって需要が減り、一時生産が途絶えたが、近年になって生産が再開され、香川の特産品、土産物として、道の駅やアンテナショップなどで売られている。
JWMおススメの魚醤の使い方
天然のアミノ酸がたっぷりの魚醤は、色々な料理にあう。カレーに少したらせばシーフードの豊かな香りが出るし、漬物にたらせばまた違った味わいとなる。インスタントラーメンなどにもおススメだ。ただのインスタントなラーメンが、魚醤をたらしただけで、行列の出来るラーメン屋のラーメンのように一気に味わい深い立派なラーメンとなる。注意する点は使用する分量。ものによって差はあるが、魚醤は大抵かなりしょっぱいので、その都度、味をみながら入れること。また入れすぎると生臭さが消えないので、バランスを見極めるのが大事だ。出汁の濃さや具材との相性を見ながら、味見をしつつ、ちょうど良い分量を探したい。しかし、一度(ひとたび)コツを掴んだなら、手軽に深い味わいを出すことが出来る、まさに万能、魔法の調味料と化してくれることだろう。