埼玉県埼玉県のB級グルメ・ご当地グルメ

豆腐ラーメン

豆腐ラーメン

優しい味わい

天明2年(1782年)に出版された「豆腐百珍」は、その名の通り、豆腐を使った料理を百種類掲載した本だ。飛竜頭(がんもどき)や田楽、やっこ豆腐、焼き豆腐などの日常的なものから、雷豆腐、雲かけ豆腐、玲瓏豆腐、光悦豆腐や阿漕豆腐といった耳馴染みのないものまで、様々な調理法と味付けで頂く豆腐料理が大きく六つにカテゴライズされて百種並べられている。およそ豆腐好きなら、読んでいるだけでヨダレが出てくるような良本で、出版された当時、巷で好評を博し、続編の「豆腐百珍続編」「豆腐百珍余録」、さらにその人気にあやかって鯛や卵、大根にコンニャク、甘藷の百珍本まで出るほどの一大ブームになったという。今も、豆腐好きな人は多いが、庶民が口にできる食品の種類が限られていた江戸時代、人々は豆腐を愛し様々な料理として食べていたのだ。

そんな江戸時代の人々がもし口にしたら、「おっ!こいつァ中々イケルねぇ。」と膝を打ったであろうに相違ない品が、埼玉のご当地グルメとして最近その知名度が頓に高まっている「豆腐ラーメン」だ。

豆腐にラーメン。ありそうであまりないこの組み合わせ。確かに、麻婆豆腐がラーメンと一緒になった麻婆麺(麻婆ラーメン)はたまに目にするから、豆腐ラーメンと聞くと似たようなものかと思われるだろう。果たして一体どんなものか。ということで豆腐ラーメンを生み出したと言われる主の切り盛りするお店へ早速出かけてみよう。

トーフラーメン幸楊

お邪魔したのは、埼玉県さいたま市にあるお店「トーフラーメン幸楊」だ。JR武蔵野線「西浦和駅」から徒歩5~6分。バス通りを歩いていく方が分かりやすいが、往来が結構多いので、一本内側の閑静な住宅街をノンビリと歩くことにする。とはいえ、散歩がてらテクテク歩いていると気が付けば辿り着いてしまう距離だ。団地通りを抜けると、道の向かいに、青いテント地に白字でトーフラーメン幸陽と書かれた店があった。なんとも潔い看板。お店の「ウリ」が一目瞭然だ。信号が青になるのを待って道を横断し、扉を開けて店の中に入る。

豆腐ラーメン

店内は清潔感があってすっきりとしている。中華系のお店にたまにありがちなベトベト感があまりなく、綺麗に掃除が行き届いている感じがして嬉しい。女性客もこれなら安心だろう。ティッシュペーパーの箱にもカバーがかけられている気の細やかさ。

カウンター席に通されたので、椅子に腰掛け、一応メニューをざっと見てから、トーフラーメンを注文する。600円也。毎月12日はトーフラーメンの日としてトーフラーメンが500円になるそうな。今日は・・・12日ではなかった。残念。ふと壁を見ると、様々な切り抜きが貼ってある。新聞や雑誌などに取り上げられているらしい。それらをななめ読みしているうちに、徐々に期待が高まっていく。記事にイイことが書いてあったから、という訳ではない。勿論、紹介記事なので、イイことが書かれているのだが、そうではなく、読んでいる間に漂ってくる香りゆえだ。そして音だ。さらには、お客さんが帰る時のやり取り、新たにやってきたお客さんへの対応。これは後から知ったことだが、厨房にいる主の娘さんがフロアを担当していて、その女性が実に和やかにテキパキとしているのだ。手際が良くとも、決して押し付ける感じではなく、あくまで穏やかで丁寧な感じなのである。その看板娘と、厨房にいる寡黙ながらも一本筋のとっていそうな主が、お店に独特の居心地の良さを生み出しているのである。一言で言えば、「いい感じ」なのだ。

豆腐ラーメン

「お待たせいたしました。」記事を読んだり、店内をキョロキョロしたり、厨房をちょっとのぞき込んだりしている間に、お目当ての「トーフラーメン」が出てきた。美味しそうな湯気が立っている。いい香りだ。

見た感じの印象は、どこにでもありそうな麻婆豆腐だろうか。「丼になみなみと盛られた麻婆豆腐。」今何も知らずに入ってきたお客さんがこれを見たら、普通にそう思うだろう。でも香りは麻婆豆腐のそれとは少し違う。香辛料のツンとした感じはない。早速、レンゲで豆腐の「アン」を一口すくって食べてみる。ん~美味しいっ!

豆腐ラーメン

アンのぬくもりは、まさに店主の心意気を表しているかのようだ。味付けも食感もちょうどいいのである。くどすぎず、甘すぎず、辛すぎず。丁度いい。穏やかで優しく丁寧な店の雰囲気が丼の中にも現れている。絹ごし豆腐と挽肉とネギ。それらが、それぞれの持ち場を大事にして、しっとりと存在している。豆腐が、アンが、柔らかく口の中でとろけていく。とろける柔らかさは幸せだ。それだけで惚けてしまうくらいに。

このトーフラーメンは、40年ほど前、このお店の主・高木利三さんが当時働いていたレストラン大手門の賄いで振舞ったのが誕生のきっかけだという。豆腐を使い、ラーメンに合う味を、と試行錯誤した結果生まれた。初めはその見た目に誰もがびっくりしたそうだが、食べてみてとても気に入り、後日正式にメニューとして取り入れられたのだとか。そんな主がトーフラーメンを出す店をやりたいとこの場所に店を開いたのが、2002年6月の事だ。以来、「父と一緒に仕事がしたい」と店に入った娘さんと共に、お店を切り盛りしているのだ。

豆腐ラーメン

さて、一通り幸せな柔らかさを堪能したら、麺も頂いてみよう。箸を入れて、おもむろに持ち上げると、アンをかき分けて、黄金色の麺が登場。それを一気に口元まで運び、啜り込む。麺にとろりとアンが絡み合い、豆腐やひき肉の、アンやスープの旨みが、麺と共に口の中に吸い込まれていく。アンだけを頂いた先ほどとは違い、お腹が安心するような、炭水化物のどっしり感も共にやって来る。旨み自体も、アン単体で食べる時よりも、より引き立つというか、麺と絡み合うことでお互いの良さが引き出されるような感じだ。もう、こうなったら止まらないのだ。ちょっと熱いのなんて、なんのその、麺は箸を経由して、どんどんお腹に吸い込まれていく。丼が目の前に出てきたときは、食べきれるかなと思った量も、見る見る間に減っていく。

豆腐ラーメン

「トーフラーメン」・・・一見するとただの麻婆豆腐のような見た目、しかし、その実態は、あっさりとした鶏がらベースのスープにまろやかな絹ごし豆腐と挽肉の入ったアンがかけられたラーメン。辛味が抑えられている代わりに店主親子の愛情がたっぷり詰まっているような優しい味わいの餡かけラーメン。これからの寒い季節には特にオススメだ。体も心もあったまる事間違いなし。ただ一つ、くれぐれも火傷には注意して。美味しさに焦ると、後で口の皮がめくれる羽目になりますよ。

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豆腐ラーメン

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Japan Web Magazine 編集部

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