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三斗小屋温泉へ 山の中の絶景温泉と夏の那須の風景と

三斗小屋温泉 煙草屋 露天風呂

江戸時代から知られる那須の名湯と街道の関係

写真・文 JAPAN WEB MAGAZINE登山部 Tomo Oi

栃木県北東部、福島との県境に位置する場所に「那須町」と呼ばれる地域があります。中ほどを東北自動車道と東北新幹線が通り、「那須どうぶつ王国」や「那須サファリパーク」「那須高原りんどう湖ファミリー牧場」「那須ハイランドパーク」「那須モータースポーツランド」など、子供から大人まで楽しめるテーマパークや、「那須国際カントリークラブ」をはじめとするゴルフコースも数多く点在、中でも那須岳(那須連山)のすそ野に広がる「那須高原」は標高が高く、夏は涼しいため、避暑地として発展してきました。(那須の御用邸があることでも知られます。)

美味しいと評判のレストランやスイーツ店も軒を連ね、お土産店も充実、北関東有数の行楽地、避暑地として知られています。

夏の那須の美しい風景夏の那須の美しい田園風景

関東にお住まいの方はご存じの方も多いかと思いますが、そもそも「那須」といえば長い歴史を持つ温泉地・湯治場として有名。古くは630年に開湯したと伝えられる「鹿の湯」をはじめ、「大丸温泉」「弁天温泉」など江戸時代から「那須七湯」と呼ばれて称えられてきた名湯が那須連山の主峰である茶臼岳(那須岳)のふもとにいくつもあり「那須温泉郷」として栄えてきました。「テルマエ・ロマエ」のロケ地となった「北温泉」は特に有名です。現在、那須全体の温泉の数は実に150を越えるといいます。

さらには那須は、江戸から栃木を通り、会津やさらにその先の東北地方を結ぶ「街道」が通っていたこともあり、近隣はもとより江戸からも数多くの湯治客が訪れたという、古くから知られた温泉地・保養地だったのです。江戸時代に発行された温泉番付「諸国温泉功能鑑」では「上州草津の湯(群馬県の草津温泉)」についで、関脇「野州那須の湯(栃木県の那須温泉)」として東の二位に選出されています。

諸国温泉功能鑑

諸国温泉功能鑑(一部)

右側、大関「上州草津の湯」の隣に関脇「野州那須の湯」の文字が読める

ところで今しがた「街道」について触れましたが、歴史や地理の時間などでも習った通り、古来より奈良や京都、大阪、そして江戸といったそれぞれの時代の中心となる都市を起点に、各地の都市、交通・交易の要衝となる場所、著名な神社仏閣などの人が集まる場所等を結ぶ数多くの「道」「街道」「脇往還(脇街道・脇道)」などが整備されました。

それらはさらに枝分かれし、全国津々浦々まで伸びましたが、一方でそれらの「道」「街道」の中には、もっと便利で大きな道が通ったことにより、次第に交通量が減少して寂れ、廃れていった道もありました。さらには噴火や地震などの天災などにより通行止めとなり、新たに別の道が整備されるようなケースもあります。

今日の主役である「会津中街道」もそうして出来た道の一つ。

1683年6月~10月にかけて頻発した「日光地震(天和日光地震)」により男鹿川(鬼怒川の支流)が土砂崩れでせき止められて湖ができ、それまでのメインの街道であった「会津西街道」(会津若松城下から下野の今市に至る街道)の一部が水没し通行できなくなったため、1695年(元禄8年)に代替の街道として、会津藩の第三代藩主・松平正容公によって整備された街道です。

「会津中街道」と那須岳

「会津中街道」のルートは、

「氏家宿-乙畑宿-川崎宿-矢板宿-山田宿-石上宿-横林宿-高林宿-百村宿-板室宿-三斗小屋-大峠-野際宿-松川宿-弥五島宿-小出宿-桑原宿-舟子峠-小塩宿-香塩宿-面川宿-会津若松札之辻」

となっており、それまでの「会津西街道」のルートは、

「今市宿-大桑宿-高徳宿-大原宿-藤原宿-五十里宿-中三依宿-横川宿-山王峠-糸沢宿-川島宿-田島宿-楢原宿-八幡峠-倉谷宿-中山峠-大内宿-大内峠-氷玉峠-関山宿-福永宿-上米塚渡し-会津若松札之辻」

となっていました。

大内宿会津西街道 冬の大内宿

その後、この「会津中街道」は、「会津西街道」が復旧・新たに整備されたことにより、次第に使われなくなっていくのですが、今回はそんな「会津中街道」にまつわるお話です。

タイトルや写真から「那須岳や温泉の話だと思っていたのに、山や温泉はどこ行っちゃったの?」と思われている方もいるかもしれません。「会津中街道」と、標高2,000メートル近い那須の山々と一体何が関係あるの?と。

勘のいい方(もしくは先ほどの会津中街道の詳細ルートの文字を逐一追った方)はもうお気づきですね。そう、この「会津中街道」こそ、氏家宿から矢板宿、横林宿、板室宿を経て、那須山中の三斗小屋(三斗小屋宿)を通り、標高1468メートルの大峠を越え、野際宿、松川宿、桑原宿などを経由して、会津城下へいたるという、日本有数の山越えルートを通る街道だったのです。

というわけで、今回の目的地「三斗小屋温泉」への道のりと、三斗小屋温泉の風景、周辺の風景、山々の景色、そして那須岳の絶景をお届けしましょう。

三斗小屋温泉へ

あらためて、今回足を運んだのは栃木県那須塩原市の那須山中にある「三斗小屋温泉」という場所です。那須にそびえる那須岳(※1)は、那須火山帯の南端に位置する火山であり、周辺には沢山の温泉が湧いています。

(※1.「那須岳」と呼ばれる単体の山はなく、標高1915メートルの主峰・茶臼岳をはじめ標高1896メートルの朝日岳、標高1916.9メートルの三本槍岳という三つの山(那須連山)の総称です。那須岳=茶臼岳単体を指す場合もあります。)

上でも少し触れましたが、西暦630年に発見されたと伝えられる「鹿の湯(元湯)」(那須湯本温泉)をはじめ、大丸温泉(おおまるおんせん)、北温泉、弁天温泉、八幡温泉、高雄温泉といった那須温泉郷の七つの湯(温泉)を「那須七湯(※2)」と呼ぶのですが、こちらの「三斗小屋温泉」もその「那須七湯」の一つに数えられています。(※2. 新那須温泉を加えて那須八湯の数え方もあります。)

北温泉北温泉

今回の目的地である「三斗小屋温泉」は、1142年に発見されたという温泉で、車やロープウェイ利用のできる現代においてもなお、少なくとも徒歩で2時間前後かかるという山中の秘湯。

いつの頃からか「秘湯ブーム」が巻き起こり、町のちょっとはずれにあるような温泉宿でも「秘湯」などと呼ばれていたりする昨今、山の中を2時間歩いてようやくたどり着く、という本物の秘湯なのです。

とはいえ、先述したように江戸時代には険しい山道ながらも「街道」が通っていたという歴史があり、往時には五軒も温泉宿があったともいいます。今は山歩きの前後に寄る人も多く、人里離れた一軒宿の静かな隠れ家的「秘湯」というより、那須の山中にある歴史漂う素晴らしき温泉といった感じなのです。

温泉のある一帯は、冬は雪深いため、現在では営業は4月中旬頃から11月下旬頃までとなっています。かつては通年で営業していたそうで、現在でも冬季の臨時営業の場合もありとのことです。

三斗小屋温泉へのアクセスは、まず那須ロープウェイ山麓駅そばの無料駐車場へ。駐車場までは東京から東北自動車道経由で車で2時間半前後です。宿のチェックインは13時から出来るとのことだったので、11時ころ駐車場到着を目指して出発したのですが、途中で朝ごはんを食べたりしたこともあり、那須ロープウェイ山麓駅そばの無料駐車場に到着した時には12時を過ぎていました。

那須ロープウェイ山麓駅

那須ロープウェイ山麓駅

お手洗いを済ませ、荷物を確認し、靴ひもを結びなおしてから、ストレッチをし、歩き始めます。

ちなみに駐車場の場所ですが、往復ロープウェイ利用の場合や復路ロープウェイ利用の場合は山麓駅そばの駐車場に止めるのがおすすめですが、往復とも歩く場合は山麓駅よりもさらに上がったところに峠の茶屋駐車場がありますのでそちらに駐車するほうが歩く時間が少なくなります。

標高も高く曇り空とはいえ、やはり夏の山、多少の風で時折涼しい瞬間がありながらも、むしむしと暑い登りが続きます。道としてはそれほど険しいわけではないのですが、笹などが多くて風があまり通らない場所が多いので快適な登りというかんじではありません。

三斗小屋温泉 登山道

400メートルほど進んだところに出てきた看板曰く、三斗小屋温泉まで4.3キロメートル。初めから「山登り」だと思っていれば普通の距離ですが、のんびりと入る温泉を目指して歩く距離と考えると、そこそこの距離に感じてしまうから不思議です。暑さもあって気持ちは萎え気味。まずは標高1725メートルの場所にある峰の茶屋跡の避難小屋を目指します。

とにかく一歩一歩進んでいきます。暑くても。蒸していても。元気があってもなくても。進まないことには温泉にたどり着けません。

そうこうしているうちに、次第に視界も広がってきました。県営駐車場から700メートル、中の茶屋跡(標高1610メートル)です。峰の茶屋跡までも700メートル。

三斗小屋温泉 登山道

身体も慣れて、少しずつ楽になってきます。登山や運動をされている方なら何度も体験している方もいるかもしれませんが、動きはじめはしんどくても、そのまま動き続けているといつの間にか少し楽になってくるから不思議です。

身体の中でエンドルフィン等が分泌されるからなのでしょうか。それとも気持ちも身体も惰性がついて、そのまま動けるようになるからなのでしょうか。とにかく、蒸し暑さや傾斜などはそれほど変化がなくとも、身体も気持ちも少し楽になってくるのです。いや、植生が変わって視界も開けたことにより風が通るようになって、さらに標高も上がったので気温が下がり、少し涼しくなった結果、シンプルに身体が楽になったのかもしれません。

道には火山らしく、大きな石がごろごろと転がっています。傍らではガンコウランが実をつけています。どんよりと曇っていた空も、雲の切れ間から青空が覗くようになってきました。いい感じです。

登り始めてちょうど1時間くらいでしょうか。ようやく峰の茶屋跡の避難小屋に到着です。那須岳は、北西方向(福島~新潟方面)に風を遮るような高い山がないこともあり、風が非常に強い山として知られていますが、特にこの峰の茶屋から朝日岳にかけての付近は地形的に日本海側から吹き付ける風が一気に抜けていく形状になっているため、とても風が強い場所として有名です。過去には強風のために動けなくなった登山者が低体温症にかかったという遭難事故も発生しているとか。

峰の茶屋跡避難小屋峰の茶屋跡避難小屋

実際、この日はそれほど風が強い日というわけではなかったのですが、この峰の茶屋跡では時折強い風が吹き抜け、初めは「涼しくていいな」と思っていたものの、次第に、「これで風のとても強い日なら怖いだろうな・・・」と思うような風の通り抜け方をしていました。(気圧配置や季節風の関係で特に冬から春にかけて風が強くなるようです)

避難小屋の中を覗いてみたのですが、小屋の中に入ると「ほっ」っとする感じでした。

峰の茶屋跡避難小屋

しっかりとした作りの峰の茶屋跡避難小屋内部 宿泊は不可とのこと

ちなみに駐車場あたりからすぐ圏外となり、時折少し電波が入りながらもアンテナ状況の悪かったスマホが、ようやくこの峰の茶屋跡の避難小屋でまた通じるようになりました。

キャリアによって多少異なるとは思いますが、三斗小屋と周辺は(2023年現在)携帯電話が通じず、宿の方も公衆衛星電話の利用(昼間の発電時のみ利用可)となっています。

小屋の脇で風に当たりながら10分ほどのんびりしたでしょうか。ここからはほぼ下りなので気が楽です。避難小屋のそばに立っていた碑には、三斗小屋まで2.9キロメートルの文字。そう、主に下りとはいえ、距離はまだまだ結構あります。なおかつ火山の山道ならでは、ですが、溶岩石、溶岩礫、砂礫、小石、岩がごろごろしていて足元が非常に悪く、滑りやすくて歩きにくいのです。

時々ズリっと滑りながら下って行く、そんな道がしばらく続くと、次第にまた道は木々の中へ入っていきます。那須岳避難小屋を過ぎ、延命水を目指します。

那須岳避難小屋 こちらは宿泊可能とのことです。(取材時。最新の情報はお確かめください)

延命水を越えると、道の両側にはまた笹が生い茂る場所が増えてきました。クマザサでしょうか。そう、この辺りは度々クマが出没するという話もあり、今回はクマよけ用の鈴を持ってきています。鈴の音だけでは少し心許無いので、さらに歌を歌いながら歩きます。

歌を歌いながら歩くなんて、都市部で道を歩きながらそんな行動をしていたら「変な人」認定されること必至ですが、山の中ならば大丈夫。とくに今回は時間が少し遅め(この時点で14時を過ぎていました)のこともあり、ほとんどすれ違う人はいません。

楽しい気分でのんびりと山道を歩いていると、突然なにやら前方の草むらの中を蠢いているものが目に飛び込んできました。

一瞬で背筋が緊張し、身体が強張ります。

「クマ出没情報」などを耳にしていなければ「風かな?小動物かな?」くらいにしか思わないのかもしれませんが、脳裏をよぎるのは「クマか?!」ということ。

ものすごいスピードで「クマだったらどう対処すべきか」ということが頭の中を巡ります。北海道のヒグマと比べたら小型とはいえ、ツキノワグマでも勝てる気は全くしません。むしろ、世界的なトップクライマーの山野井さんをはじめ、クマに襲われて大けがした人の話が頭をよぎります。

「・・・」

「・・・」

「・・・!!」

しかし次の瞬間、ざわざわとした葉擦れの音と共に耳に飛び込んできたのは、甲高い鳴き声。

そして姿を見せたのは・・・

サルでした。その安堵感たるや。

中国の峨眉山山中で、夕暮れの暗い中を一人歩いている際にヒヒのような大ザル(チベットアカゲザル・チベットマカク・チベットモンキー)の集団に出会ったときはシンプルに獣の怖さを感じ、奈良の山中で野犬数匹に出会った時も、ひきつるほどの緊張感を覚えましたが、クマかもと思っていたものがサルであったのを知ったこの瞬間は、ひたすら安堵感が心中を支配しました。

そうして、15時過ぎにようやく三斗小屋温泉に到着しました。

今回予約していたのは三斗小屋温泉の煙草屋旅館。三斗小屋温泉に二軒ある山小屋・温泉宿のうちの一軒です。

三斗小屋温泉に到着すると道の右手側に最初に目に飛び込んでくる建物が煙草屋旅館さんで、左手奥の一段下りたところにあるのがもう一つの宿の大黒屋さんです。(今回は大黒屋さんには泊まるチャンスはありませんでしたが、最終日に訪問し内部を案内してもらったのですが、こちらもとても良い感じでした。)

山歩きの際、その日の目的地が見えた瞬間の安心感は、何度味わってもいいものです。建物の手前や斜め向かいにテン泊スペースが設けられてあり、この日も何張かテントがありました。

趣のある煙草屋旅館の建物外観。所々色の違う木材が、また味を出しています。

石段を登り右側に玄関があります。石段の脇には水が流れており、その傍らには水色のボックス。この日は「湯音低下につき使用不可」と札がつるされていましたが、湯音が十分な時にはこちらで温泉卵などの調理ができそうです。

階段の奥左手側には大きな水槽があり、その中にビールやジュースなどが冷やされています。自分で飲み物を選び、フロントにもっていってお金を支払います。

室内に冷蔵庫はないので、持参したものもこちらで冷やします。湧き水が流れ込んできているようですが、当然温度は冷蔵庫よりは高く、半日浸けておいても「冷たい!」とはなりませんでした。

三斗小屋温泉

宿の前には下界ではとっくに散ってしまった紫陽花が咲いていました。(訪問は7月下旬です。)

稜線からだいぶ下りてきたこともあり、思うほど涼しい!という感じではないですが、周囲に漂うのはとても気持ちの良い空気。古びた建物もむしろ趣が感じられてとても素敵です。

案内された部屋は急な階段を上った奥の部屋。多少年季は入っていますが畳敷きの雰囲気のある部屋です。

三斗小屋温泉煙草屋旅館

荷物を置いた三分後には、もう温泉に浸かっていました。

三斗小屋には室内の温泉のほかに、宿の建物に沿うようにしてある道を左手側に少し上がった場所に露天風呂(野天風呂)があります。露天風呂の開放感、そこから見る山並みの絶景は最高なのですが、室内の温泉もとてもよい感じです。

板敷の床とお風呂。大きな窓からは光りがふんだんに入ってきて、とても爽快な気分です。

三斗小屋温泉

三斗小屋温泉煙草屋旅館の共同浴場

穏やかで美しい雰囲気に包まれる共同浴場 日の光が入ってのんびりほっこりします

かつては湯治客も多かったという館内の共同浴場 利用可能時間 13:00~20:30 女性専用時間 14:30~15:30

とても気持ちのいい館内の共同浴場。利用可能時間が夜の8時半までと早いですが、宿の人によるとこれは「お湯を一旦抜いてから清掃し、その後、入浴できるレベルにお湯が溜まるまでに昼近くまで時間がかかるから」という理由だそうです。山登りで泊まる方は早寝なのであまり問題はないかもしれませんが、夜を少しのんびり過ごす予定の方は、館内のお風呂は早めに入浴されることをおススメします。混浴ですが14:30~15:30までは女性専用時間となっています。

三斗小屋温泉煙草屋旅館の露天風呂(野天風呂)

雲間から光が漏れてくる幻想的な夕暮れの空を眺めながら入る露天風呂は最高です

露天風呂も混浴ですが、女性専用時間も設けられているので安心です。露天風呂の利用可能時間 13:00~翌朝6:30 女性専用時間:13:00~14:00 15:30~16:30 18:00~19:00

露天風呂からの帰り道 柔らかな光に包まれる煙草屋旅館の建物

西日に照らし出される緑が目に優しく、まさに心が洗われるような瞬間

夕食は17時15分から。食事の時間になると宿の入り口のところにある太鼓を叩いて教えてくれます。

食事は一階の大広間で。この日はほかに20人ほど宿泊客がいました。

三斗小屋温泉 煙草屋旅館 夕食

「旅館」とはいうものの、現在ではお客さんの多くが山登り、山歩きの際に利用するという「山小屋」的な雰囲気が強いながらも、メインの鶏肉のトマト煮のほかに、サバの味噌煮や冷奴などもあり、充実した夕食のメニューでした。味も美味しく、ご飯のおかわりもできます。お水がいいのかコメがいいのか、その両方か、ご飯もとても美味でした。

生鮮食品などは宿のスタッフや歩荷さんが運び、重量のあるものはヘリで運ばれるとか。ちなみに「三斗小屋温泉」の名前の由来も、かつて荷揚げで使われていた「麦飯坂」というルートがとてもきつく、経験豊富な屈強の歩荷(ぼっか)ですらお米を三斗(約45キログラム)以上運び上げることができなかった、というところからきているのだそうで、誰が呼んだかいつしか「三斗小屋」の名がついたのだそうです。

食事を頂いた後はお部屋でのんびりと過ごします。

もちろん露天風呂や館内の共同浴場のお風呂にもゆっくり浸かり、日本酒も飲んで、那須岳の三斗小屋温泉「煙草屋旅館」一日目の夜はゆったりと過ぎていきました。

洗面所で歯を磨いておやすみなさい

翌日は朝6時に起き、朝食を済ませた後、朝日岳に登りました。絶景の朝日岳とそのお話はまた後日お届けします。

朝日岳山頂から見る那須岳(茶臼岳)朝日岳山頂から見る那須岳(茶臼岳)

ここからは三斗小屋温泉に行こうと思っている方、「煙草屋旅館」に泊まろうか考えている方向けに、三斗小屋温泉のQ&Aをお届けします。

三斗小屋温泉「煙草屋旅館」 Q&A

三斗小屋温泉「煙草屋旅館」では充電できる?

玄関わきの乾燥室(談話室としても使われます)の壁にコンセントがありスマホ等の充電が可能です。無料。充電ができるのは発電中のみ。

乾燥室兼談話室

三斗小屋温泉の電波状況は?スマホは使える?携帯電話は通じる?

峰の茶屋跡避難小屋の所でも言述しましたが、登山口付近からすでに電波状況は悪く、ほどなくスマホ・携帯電話は圏外となりほぼ通じなくなります。峰の茶屋跡のある稜線まで上がるとアンテナが数本立つようになりますが、そこから三斗小屋温泉方面に下ると再び圏外となって通じなくなります。三斗小屋温泉とその周辺では、2023年夏の時点でいずれのキャリアも電波状況は不通、もしくはほとんど通じない圏外の状態です。宿では衛星電話(衛星公衆電話)が一台あり、そちらを使うことができます。

宿の玄関にある公衆電話(公衆衛星電話)

山奥にある山小屋のような雰囲気だけど個室はあるの?山小屋のように大部屋の相部屋で雑魚寝?

実際に宿に赴くまではそんな雰囲気もしていたのですが、宿は個室(一人の場合は相部屋の可能性もあり)でした。山奥にあるとはいえ、歴史的に見ても、やはり感覚的には「街道沿いの宿場」という感じに近いのかもしれません。かつては福島の会津から栃木方面へ、または栃木から福島の会津へ向かう商人や旅人らが一夜の宿として利用するという感じであったのでしょう。

とはいえ、那須岳のアクセスには抜群の場所に位置していて、山登り、山歩きで利用する人も多く、朝も早く(朝食は6時半から)、夜も当然早い(夕食は17時15分から。発電機が止まり部屋の電気が強制的に消える消灯時間は21時です)ので、一般的な温泉旅館やホテルなどのように、夜中まで仲間内でお酒を飲んでおしゃべりして、どんちゃん騒ぎをするという楽しみ方、過ごし方はできません。

部屋を仕切っているのも襖(ふすま)一枚ですし、壁も薄く、木造なので声も良く通ります。朝日岳や茶臼岳、三本槍岳などの登山や、山歩きを目的に訪れる方は別として、「山奥の秘湯でのんびりゆっくり過ごすために行ってみたい!」と思われる方は、昼間にゆっくりのんびり楽しみ、夜は早々に寝てしまう、というほうが賢明かと思います。いずれにしても朝食の時間が6時半、チェックアウトが8時半なので、早寝早起きが基本です。

三斗小屋温泉に持っていったほうが良いもの

まず最初に持参をおススメするのがヘッドライトや懐中電灯です。普段山登りをされる方は、ヘッドライトは常備していると思いますが、山登りをあまりされない方もこれを機会に一つ購入して持参するのをおすすめします。上でも触れましたが消灯時間は夜9時。発電機が止まるので強制的に消灯します。(かつてはランプが使われていて、「ランプの宿」と呼ばれる宿の一つでしたが、現在は防火のためランプは使用されていません。)

階段の所には、トイレのある階下に降りるために小さな電気がついていますが、部屋では電気がつかないために身の回りの物を探すのにも困ります。(普段あまり感じることのない「電気のありがたみ」に気が付く時でもあります。)一番いいのは、消灯時間の前に歯磨きも入浴も済ませて寝てしまうことですが、念のためにもヘッドライトや懐中電灯があると安心です。

また、山奥の宿であり、上記のように電波も通じないので携帯電話・スマホはあまり役に立たないかもしれません。地図は紙のものを買うか、あらかじめダウンロードしておくのが良いでしょう。圏外なので通話やライン、メッセージ、SNS等は当然できませんが、むしろその環境を良しとして、日頃中々離れられないスマホから強制的に自分を切り離してみる、というのもおすすめです。とはいえ、ダウンロードしたゲームをやりたい、仕事のメモをしたい等、スマホをオフラインでも使いたい方は、やはりモバイルバッテリーが必須です。圏外ですと電波を探すために、電力消費が大きくなりバッテリーが早くなくなるので、電波状況が悪くなった時点(登山道の入口等)で機内モードにするのもバッテリーの節約のためにおすすめです。

後は持参すべきもの、したほうが良いものとして、シーツと枕用のカバーもしくはバスタオルなどがあります。煙草屋旅館ではタオルや、浴衣、洗面具などの用意もないので、そちらも持参が基本。ちなみに露天風呂(野天風呂)でも室内の共同浴場でもシャンプー、石鹸の使用は禁止となっていますので注意してくださいね。

三斗小屋温泉を訪れる際の最大の注意点

三斗小屋温泉を訪れる際に最も注意すべき点として、「早めの到着」、これに尽きるかと思います。

普段、温泉旅館などに出かける際、のんびりと宿の中で過ごしたい方は、宿指定のチェック・インの時間を過ぎたら、すぐにでも宿に入りたいという方もいらっしゃると思います。そういった方は余裕を持って宿に向かうことが多いと思うので大丈夫かと思います。

一方で、他所で観光なり食事なりを楽しんでから、のんびりと宿に入りたい、という方もいるでしょう。中には夕食時間ギリギリまで他で観光してから宿に着いてすぐにご飯、というのが理想でそのような分刻みスケジュールで動く方もいるでしょうし、もしくはせっかくの休みを目一杯予定を詰め込んで楽しみたいという方も多いかもしれません。

都市部の宿であれば、(宿やほかの宿泊者に迷惑が掛からない限り)それぞれの楽しみ方、過ごし方で全く問題ないと思いますが、こと三斗小屋温泉を訪れる際には、余裕を持った行動がおすすめです。おすすめというより、必須条件といっても過言ではないかもしれません。

景色も美しく、お風呂も最高でとても素晴らしい場所とはいえ、非常時でも車が全く通わない場所であり、最低でも2時間程度かかって徒歩でようやくたどり着く、というある意味とてもハードなロケーションです。それが故の「秘湯」でもありますが、山道では何があるかわからず、足をくじいたり道に迷ったり等、予期せぬハプニングが起きる可能性もあります。

なにより、下界と比べ日が暮れるのがとても早いです。特にこれからの季節、思っていたよりも早く、あっという間にあたりは暗くなります。そんな時、車であればヘッドライトもあり、ナビもあるので不安もなく疲れもせずに宿にたどり着くことができますが、徒歩で山の中暗くなってしまったら最悪です。

ただでさえ、荷物もある上に疲れてくると道に迷いやすくなりますが、その上暗くなってしまったら、宿にたどり着くどころか行動不能にもなりかねません。行動不能=遭難です。さらに暗くなるともう一つ、動物が出てくる可能性も高まります。サルや鹿ならば問題ないですが、それがクマだったら・・・。

ということで万が一にもそうならないよう、早め早めの到着を心がけてくださいね。普段山登りをされない方は特に、早めの行動、早めの到着が絶対です。楽しい時間にするためにも、お気を付けくださいね。

三斗小屋温泉 まとめ

アクセスは多少大変でしたが、眺めの良い露天風呂と、しっとりと落ち着くお部屋でとても素敵な時間を過ごすことが出来ました。

滞在中、屋内の温泉と露天風呂に何度も入りましたが、お湯の良さもさることながら、やはり最高なのはその雰囲気。建物自体は建て直されているとはいえ、江戸時代以前からの長い歴史を持ち、各時代に数多の人々が、それもバックグラウンドも考え方も身分も異なる多様な人々がこの地を訪れこのお湯に浸かり、気持ちと身体を整え、由無し事を考えたのかと思うと、溢れんばかりの目眩くロマンで胸が熱くなるような心持ちでした。

そして、今回山道を通って三斗小屋温泉にたどり着いた際の感想を端的に述べるならば、「あらためて昔の人はすごい」の一言です。

宿で飲むための飲み物や食料、山登り用の道具などそれなりに荷物があったとはいえ、ザックも現代の山用のもので持ちやすく、足元も山用の靴でゴツゴツとした山道でも歩きやすい装備でした。服装も同様に速乾性のシャツと山用のパンツ。さらに、往路こそロープウェイは使わなかったものの、登山道の入口まで車で行っていますし、復路はロープウェイ利用です。

そんな快適装備とルートのチート(車やロープウェイ利用)をしてもなお、それなりに大変でした。

当然、北アルプスの縦走などと比べると全然楽ではありましたが、当初の目的が念願の「奥那須の温泉を訪ねてのんびりする」というもので、そこまでがっつりとした山歩き、山登りを想定していなかったこともあって、意外にも距離と時間のかかる上り下りに、夏の暑さも加わって、そこそこ疲労感があったのでした。

そして(事前情報でかつての「街道」であったことは知っていましたが)、あらためて山道を歩きながら、服や足元の装備も現代と比べるべくもない江戸時代の人々が、やむにやまれぬ理由があったのかもしれないとはいえ、こんな山道を通って遠くの目的地を目指したのかと思うと、心から感嘆し、あらためて驚愕したというわけです。

皆さんも機会があれば、ぜひこの三斗小屋温泉を訪れてみてくださいね。片道2時間ほどの山歩きが必須ですが、眺めの良い露天風呂でのんびりする時間はまさに心が洗われるような気がするひと時。もう一つの大黒屋の宿の方曰く、毎年9月には地元の幼稚園の年長さんたちが集団でこの三斗小屋温泉にやってくるそうで、同行の大人たちに知識と経験と体力があり、夏の8月~9月の天候が安定した日であれば、頑張れば子供たちでも十分に来られる道のりです。

無理をしない、ケガをしない、というのは基本条件であり絶対条件ですが、疲れたその先に、幸せな温泉の時間が待っていると思うと、普段よりも少し頑張れるかもしれません。那須山中の秘湯、ぜひ足を運んでみてください。

三斗小屋温泉 詳細データ

地図

JAPAN WEB MAGAZINE Tomo Oi

浅草在住。ウニとホヤと山と日本酒をこよなく愛しています。落語好き。

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