北海道 秋の絶景 北見市留辺蘂のキカラシ畑
公開日: 2015年10月3日 | 最終更新日 2023年5月19日
10月初旬の北海道北見市の留辺蘂(るべしべ)で、不思議な光景に出会った。車で走っていると突如目に飛び込んできた光景。
なだらかな丘一面鮮やかな美しい黄色に染まっている。春先ならば、菜の花、真夏ならばひまわりとわかるのだが、暦はもう10月。温かい地域ならいざ知らず、この時期の平均気温は10度前後、あとひと月もすれば平均気温は2度前後となり、真冬にはマイナス15度になる、寒い北海道の内陸部だ。向こうの山では既に紅葉が始まっている。
紅葉している秋の山と、まるで春先の菜の花の様な一面黄色の丘。時空が少しゆがんだ不思議な世界にふらりと迷い込んでしまったかのような違和感を覚えて、しばしその光景を眺めていた。
ところで、皆さんは「緑肥」というものをご存じだろうか。作物を栽培されている方や、園芸をされている方ならよくご存知かもしれないが、「緑肥」とは、畑に生えている植物を収穫せずにそのまま土にすきこんで肥料にすることだ。有機物が増えて、土の中の微生物が繁殖することにより土壌がよくなる効果や、それにより病害虫を防ぐ効果、透水性、排水性がよくなる効果などがあり、空気中の窒素を同化するクローバー、大豆、レンゲソウ、ウマゴヤシなどのマメ科や、ライムギやトウモロコシ、オーツ麦などのイネ科、アブラナ科などの植物がよく用いられる。
この北見の丘のみならず、美瑛からオホーツクにかけてのエリアでは、夏から秋にかけてそこかしこで黄色の花が咲き乱れるが、実はそれらも緑肥用として植えられた植物たちである場合が多いのだ。(観光用に植えられているものもあり。)
黄色の花の正体は「キカラシ(キガラシ)」。菜の花と同じアブラナ科の植物で、1週間から10日ほど一面を黄色に染めた後、耕運機で一気に土にすきこまれる。そうして、次に栽培される作物(馬鈴薯、小麦等)の肥料となるわけだ。
元々、その為に植えられているとはいえ、今を盛りと花を咲かせたら、あっという間に土にかえってしまうキガラシ達。春の桜がはらはらと散るのも、儚さを感じさせられるものだが、桜は沢山の人の目を楽しませ、喜ばせた後で散っていく。一方、北海道の広大な大地で秋に咲くキガラシの花々は、沢山の人に見られることもなく、ひっそりとその命を終えていくのだ。