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奇岩連なる北の秘境「仏ヶ浦」

仏ヶ浦

日本の秘境

日本の法律に「半島振興法」というものがあるのをご存じでしょうか。

これは、三方を海に囲まれ、平地に恵まれず、水資源に乏しい等の理由により、産業基盤や生活基盤を整備する上で他地域に比較して制約の多い半島に対して、減税などの特別な措置を施して振興を図り、半島地域の自立的発展及び住民の生活向上と国土の均衡ある発展に資する事を目的に作られた法律です。

要は、他地域と比較して何かと不便なことの多い半島地域を活性化させようという国の方針で出来たもので、北は北海道の積丹地域や渡島地域、南は大隅地域や薩摩地域に至るまで、全国23地域が指定されています。この半島振興法の対象地域となっているエリアは、都市部から比較的容易にアクセスできる地域もある一方、アクセスするのが大変な場所も多く、中には「日本の秘境」とも呼べるような場所も数多くあるのです。

関連ページ 死ぬまでに一度は訪れたい!日本の秘境。

下北半島にある「仏ヶ浦」もそんな場所の一つ。

JR青森駅から陸奥湾沿いに車で4時間。津軽半島側の蟹田から平舘海峡を船で渡って脇野沢を経由するルートもありますが、それでも3時間近くかかる遠隔地です。様々なメディアに取り上げられ今でこそかなり名前が知られるようになりましたが、断崖絶壁が連なるその地形は陸上からは容易に近づくことができず、かつては地元の漁師など一部の人達だけが知っていたという奇勝でした。

約2キロメートルにわたって巨石、巨岩が立ち並ぶその景観は圧倒的で、そのスケールの大きさとアクセスの困難さは、まさに「日本の秘境」と呼ぶにふさわしい場所なのです。

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そんな「仏ヶ浦」を訪ねてみました。

秘境「仏ヶ浦」へ


仏ヶ浦

「仏ヶ浦」へ車のみで行く場合には、青森市内から東へ針路を取り、浅虫温泉を通過、野辺地町を抜け、菜の花で有名な横浜町を越え、むつ市へとドライブしていきます。時折、現れる陸奥湾の美しい光景や、道路の両側に並ぶ木々、巨大な風車、どこか懐かしさを覚える二階建ての小学校、赤や青の屋根の家々などを眺めながらの運転は、道がよく車の流れもスムースなこともあって快適そのもの。所要時間を感じさせない楽しい道のりです。

途中で、道の駅やスーパーマーケットに寄り道しつつ、特産のホタテを使ったホタテおこわ(250円・・・価格は取材時のもの)や、ほたての揚げ物(100円・・・同)、はたまた陸奥湾で捕れた新鮮捕れたてぴちぴちの天然のホヤをその場でさばいてもらった刺身(280円・・・同)などをつまみながら、出発してから約4時間。くねくねの山道を睡魔と闘いながらしばらく走った後、ようやく駐車場に到着しました。

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ホタテおこわ

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さくさくぷりぷりホタテフライ

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絶品!天然ほやの刺身

 

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車を降りたったそこには、目を見張るような光景が・・・といきたいところですが、目的地はまだ少し先でした。駐車場から、さらに階段やでこぼこ道の連続する遊歩道(山道)を20分くらい下りなければなりません。

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時々山道を登ってくる人とすれ違いながら、帰りは大変そうだなと思いつつ、道を下っていきます。途中に東屋があったり、木のベンチが設置されていたりします。木々の合間から見える海がキラキラと輝いてとてもきれいでした。

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期待に胸を躍らせながら道を下っていくと、ようやく視界が開け、奇岩の連なりが見えてきました。

海岸に下りるすぐ手前に洞窟があり、小さなお地蔵さんが三体。その先に簡素なお堂がありました。「仏ヶ浦」はかつて「仏宇陀」とも呼ばれており、地元の人々は荒々しくも美しくて不思議なその景観に「浄土」のイメージを重ね合わせ、聖なる場所としてお参りしたといいます。

「浄土」とは、仏教における概念で「清浄で清涼な世界」のことであり、一部の上流階級の人々を除き、今よりもはるかに暮らしがきつかった昔の人々は、まだ見ぬ「浄土」をこの奇岩連なる「仏ヶ浦」と重ね合わせ、安寧を祈ったのかもしれません。

今も、洞窟の中の三体のお地蔵さんは綺麗に装飾が施されて、供え物がしてあり、大切にされている様子が窺えました。洞窟の奥を覗きこもうとしゃがみこむと、おりしも木々の合間から漏れ来る光が洞窟の入り口に差し込み、ゆらゆらと揺れながら輝きました。そのささやかな出来事が、透明感を伴って抜けていきます。小さくて優しい幸福感です。

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遊歩道を抜けると、目の前に広がっているのが「極楽浜」と名付けられた場所。この周辺では珍しく砂浜が広がっている場所です。右手に見えるのが「屏風岩」。左手には、「蓬莱山」と名付けられた岩峰が連なります。

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極楽浜

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頂部が鋭利な刃物のようにとがった屏風岩。下の方は波風に削られ、複雑な曲線を持った形状をしています。

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波打ち際に遊歩道が整備され、小さな桟橋(1991年に観光船の接岸を目的に建設されたもの)まで続いています。右手奥にはお手洗いがありました。

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桟橋までてくてく歩いて来たところに、観光船がやってきました。4月下旬から10月下旬まで佐井から観光船が出ており、「仏ヶ浦」へ海からアクセスすることができるようになっています。気象条件などに左右されるリスクはあるものの、山道を歩かずにすむという大きなメリットがあるので、あまり歩きたくない方や、山道の苦手な方はこちらを選択するのもよいかもしれません。この日は結構海は時化ていましたが、うねる波間をぬって、観光船はやってきました。

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青緑色をした海の水は驚異的な透明度でした。目を凝らすと泳ぐ魚や海底にいるウニなども見えました。この海の色の美しさも、この「仏ヶ浦」を「浄土」と重ね合わせる理由の一つなのかもしれません。

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まるで生きている何かのように迫ってくる奇岩。荒々しくも美しい光景です。

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極楽浜を左手の方に進んで岩の間に設置された板の上を進んでいくと、「如来の首」や「仁王の顔」と呼ばれる巨石群が林立している場所に出ます。どれもが見上げるほどの大きさで、それぞれに個性的な形をしていました。

地質学的には、今から2000万年ほど前に、海底火山の活動によってできたものといわれ、凝灰岩が波や風雨に削られ、長い年月を掛けて出来上がったとのことですが、不思議な形状の岩を見上げていると「自然」に何かの意思があってこのような形になったのではないかと思えてくるのが不思議です。

偶然や必然という言葉さえあいまいになってしまうような、独特の観念が心の中を突き抜けていきます。

ある人はそこを「浄土」の入り口であるといい、ある人はそこを「霊界」の入り口であるといいます。ある人は石を見て「如来の首」であるといい、ある人はそれをただ波風が作ったものというのです。

あまりのスケールにただ圧倒され、感覚が少し横にスライドしてしまうのでしょうか。それとも、そこにはやはり何かがあるのでしょうか。

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如来の首

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仁王の顔

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天蓋岩

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人間には作りえない、複雑で巧みな形をした岩々が林立しています。

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十三仏

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仏ヶ浦の観光シーズン

仏ヶ浦の観光シーズンは、4月下旬から11月初旬くらいまで。特に9月は晴天の日が多いといい、観光にはもってこいです。5月、6月は霧が出やすく、真夏はアブが多いので注意してください。一方、冬の寒さ厳しい下北半島は雪が積もり、各所が通行止めになることもあってあまり観光には適さないのですが、凍てつく寒さの中の仏ヶ浦も魅力的です。ただでさえ荒々しい景観が、雪や寒さでさらに厳しさを増す中、そこかしこに透明な美が潜んでいるのです。

ただ、駐車場は雪の為に使えず、片道30~40分、膝まで潜る雪の中を歩かなくてはいけない場合もあるので、冬場に行かれる場合は対策は十分に自己責任でお出かけくださいね。

 

仏ヶ浦

国道338号線から見る冬の仏ヶ浦。

関連ページ 冬の仏ヶ浦

仏ヶ浦へのアクセス

◇車:
●車で訪れる場合は、むつ市中心部から、大畑~風間浦~大間を経由する北まわりのルートが最も整備されていて、走りやすいです。佐井村周辺は、冬季通行規制がかかり閉鎖される道路が多いので、冬季は注意してください。所要時間の目安は、JR「下北駅」から約1時間30分。新幹線「七戸十和田駅」から約3時間。新幹線「新青森駅」「八戸駅」からそれぞれ約4時間。三沢空港から約3時間30分。青森空港から約4時間。

◇公共交通機関:
●船で:青森市内からなら、仏ヶ浦へ行く際の拠点となる佐井村へは、青森港と佐井港を結ぶ定期船が早いでしょう。冬期(10月1日から翌年4月30日まで)は一日1便のみですが、夏期(5月1日から9月30日まで)なら1日2便出ています。青森港から佐井港への所要時間は約2時間半ほど。ただ、青森港へと戻る船が佐井港到着の30分後に出てしまうので、ゆっくり仏ヶ浦を観光したい場合は片道利用ということになります。(編集部注:青森市から仏ヶ浦を結んでいた便は、コロナ禍等の影響により、2023年3月をもって営業を終了しています。)

佐井港から仏ヶ浦へは、春~秋なら観光船 (仏ヶ浦海上観光株式会社)が出ており(営業運航期間は4月25日~10月末日)、上陸時間30分込みで、片道約30分ほどで仏ヶ浦へ行かれるので便利です。

●鉄道とバスで:青森駅から公共交通機関を使って、陸上で仏ヶ浦にアクセスする場合は、まず青い森鉄道で野辺地駅へ。野辺地駅で大湊線に乗り換え下北駅へ。下北交通のバスに乗り換え、佐井村へと向かいます。運賃は2,500円(2023年度)。所要時間は下北駅から佐井村まで約2時間10分前後。最新の時刻表・運賃は下北交通のサイトで「佐井線(むつ~佐井方面行き)」をご確認ください。

●観光周遊バスで:春~秋(4月~10月)にかけては、下北の各地を巡る観光周遊バス「ぐるりんしもきた観光ルートバス」も利用可能(運行日注意)。大湊駅を出発、ホテルや港に立ち寄りながら大間崎恐山、仏ヶ浦といった下北半島の観光スポットに立ち寄るので、効率的に下北半島の観光地を巡りたい場合は、大変便利でおすすめです。基本料金は大人16,500円、小人15,000円。

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Japan Web Magazine 編集部

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