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真夜中の法師温泉で、一人静かに「ほっ」とすること

法師温泉

誰もいない真夜中に、穏やかな光の中、ゆっくりと昇っていく湯気を眺めながら、のんびりと柔らかなお湯に浸かる事、これを越える幸せは中々ないのではないだろうか。

南の島の澄んだ青い海も、カリブ海のクルーズも、ロンドンの最高級ホテルも、雪山の夕暮れも、山盛りの生ハムも、てんこ盛りのうに丼も、この幸福感の前には霞んでしまう。これを越える幸せがあるなら誰か教えてほしい。

まさに、最高の、極上の、至福の時。

疲れも憂いもゆらゆらと、湯気と共に消えていく。

群馬県利根郡みなかみ町の山の中にある一軒宿、法師温泉長寿館は、創業140周年を迎える歴史ある温泉宿。趣ある木造の建物は国の登録有形文化財にもなっており、鉄筋コンクリートの建物では絶対に醸し出すことの出来ない、温もりのある雰囲気が魅力の宿だ。館内も部屋も食事も素晴らしいのだが、なんといっても最高なのはやっぱりお風呂。ステンドグラスがはまっていそうなデザインの窓がある和洋折衷の建物に覆われた浴場は、昼間はたっぷりと入る光が美しく、夜は行燈調の優しい照明が最高の雰囲気を作り出す。お湯はあくまで滑らかで気持ちよく、その心地よさは、知らず知らずのうちに幸せの吐息が漏れるほどだ。

ぽこぽことお湯の底から湧き上がる小さな泡。底に敷き詰められた石の間から上ってくる。なんとはなしに、その泡を手のひらで受け止めているだけでも、肩の力がゆっくりと抜けていく感じだ。

お金も名誉も美しさも大切なものなのかもしれないが、人間、やっぱり何より幸せなのは、心から「ほっ」っと出来る時間なのではないだろうか。何も心配せず、何も考えず、何も構えず、飾らず、肘を張らず、心からゆるりとすること。

勿論、毎日こんな時間は持てないからこそ、幸せを感じるのも確かだ。日々、雑事に追われ、心配事やストレスが積み重なるからこそ、こんなひと時が特別で格別なのだ。

もし、毎日毎日、こんな風にゆったりのんびりと、このお湯に浸かることが出来たら、果たして幸せだろうか・・・。

うん、それはそれでやっぱり幸せだ。(笑)

このまま、お湯に溶け込んでゆっくりと湯気になって上って行きたい気分だ。何のしがらみもなく、自由に、気ままに、気の向くままに・・・。

撮影場所

JAPAN WEB MAGAZINE Tomo Oi

浅草在住。ウニとホヤと山と日本酒をこよなく愛しています。落語好き。

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