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冬の大内宿

冬の大内宿

冬の宿場町

山の中に突如現れる、奇跡の様に美しい景観。「日本の美しさ」を純化して凝縮したような静謐な風景。ぎし、ぎしっと雪を踏む自身の足音さえ飲み込まれそうな静けさを背に、真っ白な雪に埋もれたその町並みは、ひっそりとそこにあった。

夏には多くの観光客が訪れる宿場町。バスが何台も乗りつけ、買い物や食事、散策を楽しむ人々で賑わう町も、冬の夕暮れには人もまばらにしんと静まり返っていた。

それは、さながら江戸時代の冬のたそがれ時にタイムスリップしたかのような皮膚感。太陽が山の端に翳る頃には、辺りはさらに静けさを増し、ゆっくりと美しい青色になる。手足かじかむ寒さの中でも、人のぬくもりを予感させる萱葺き屋根の連なり。雪の中、かんじきを履いて何里もの道のりを歩き続けてきた旅人は、この光景を目にしてどれほどほっとしたことだろう。

1月某日。江戸の残り香をそこかしこに纏いながら、厳しさと美しさをやんわりと内包する南会津の宿場町、雪の中に佇む「大内宿」を訪れた。

冬の大内宿の魅力をフルスクリーンで見る

断続的に降り続いていた雪もいつの間にか止み、見上げると雲の隙間には青空さえ顔をのぞかせていた。窓を開けると、鮮烈な冷気が車内に流れ込んでくる。エアコンで少し澱んでいた空気は一気にフレッシュさを増した。ナビに時折目をやりながら、看板の指示通りに道を進んでいく。県道329号線へと入り、カーブを幾つ過ぎただろう、ようやく目指す大内宿への入り口の看板が見えてきた。

駐車場に車を止め、エンジンを切って扉を開け慎重に足を踏み出す。数日前の日差しで雪が解け、そしてまた凍結したのだろう、雪を纏ったその下はがちがちに凍っている。滑って転ばないように慎重に歩みを進めながら、町の入り口へと向った。雪の無い季節ならそこかしこにいる観光客もほとんど見当たらない。嬌声の代わりに耳に飛び込んでくるのは「静寂」の音だ。

何度か足を滑らせながら、大内宿の入り口にたどり着く。

緩やかな傾斜のある一本道の両側に、こんもりと雪を乗せた萱葺き屋根の家が続いている。年季の入った建物の木の色と雪の色のコントラストが美しい。つららが何本も軒下にぶら下がっている。建物の側面に吊るされた干し柿。そして、一際目を引くのが雪の白さとはまた違う障子紙の清純な白さ。どこもかしこも雪だらけだというのに不思議と温かさを感じるような光景だ。




所在無げな簾。雪が積もらぬように横倒しにされた木の椅子。何気ないもの全てに美しさが宿る。木材のくすみや、戸板のシミ。そんなものさえも雪とのコントラストで、存在感を放つ。軒下の影にさえも、美がある。闇があるからこそ、光が美しく輝くように、世界が真っ白ならば今度は逆に、陰影の存在感が際立ってくるのだろう。

その陰影は、もちろんただの影ではない。人の手で作り上げられたものに「時間」という、人の手だけでは作り出せないものが加わり、それをさらに「自然」が包み込んで初めて生まれ出ずるもの。人の心さえも内包している。それは、現代的な都会の生活の中では決して見つけることの出来ないものだ。快適さと便利さの中で置いてけぼりにされる素朴で優しい美だ。

建物を横目に見ながら歩みを進めると、左手に鳥居が見えてきた。雪の中に立つ鳥居の、その上にも雪が積もっている。

   

道はやがて行き止まる。が、左斜め前方の細い道を進むと、さらに上に進めるようになっていて、登りきった場所から大内宿の全景を見渡す事が出来る。

夕方になって、殆どの店が閉まる中で、一軒の土産物屋が店を開いていた。

大内宿は、会津と下野(日光今市)を結ぶ街道の、会津から見て第二番目の宿場として、江戸時代初め頃(1640年頃)に整備された宿場町だという。

確かに地図を見る限り、会津の町とこの大内宿までは旧街道を使って30キロ弱。健脚であった昔の人なら、二日で歩けるであろう行程だ。とはいえ、車で会津から辿ってきても、それなりの遠さを感じる距離。その道のりは険しかったに違いない。

当時は殆どの人が、山道を徒歩で越えていた。ましてや雪の降る季節。それなりの装備を整えていたとしても、その道程はどれほどハードであったことだろうか。雪に埋もれそうになりながら、一歩一歩ようやく進んだ日もあったに違いない。それぞれの目的や事情は違えども、雪の季節でも行かねばならなかったそんな人達の、文字通り拠り所となり、オアシスとなった冬の大内宿。今も、そんな昔の人々の「想い」の片鱗を感じることの出来る場所だ。

「時の流れの積み重ね」のみが生みだすことのできる空間を、真っ白な雪が覆う事によって作り出される極上の雰囲気。辺りに漂う穏やかで優しげなる、えもいわれぬ美しさ。

この街道を通り過ぎた色々な想いが、この地に息づいてきた様々な感情が、絡み合って入り混じり、融合して昇華して、そうして初めて現れるであろう「平穏」という名の光模様。そこには時間があり、感情があり、心があり、風があり、光があり、空気がある。かけがえのないものがある。自然を征服するのでも、自然を破壊するのでもない、自然の中で、自然によりそうように生きる姿。それは自然物と人工物が美しく融合した或る一つの理想的な光景だ。

冬の大内宿 取材メモ

雪が降り積もっている時期は、寒いのは当然として足元が大変すべりやすい時があるので十分お気を付けください。その日の気温や路面の状況にもよりますが、ちょうど雪が降り積もったところであればザクザクと滑らずに歩ける時もありますが、一度溶けてから凍結していたりするととても滑りやすく、場合によってはすぐに転倒してしまうこともありえます。滑りにくい、そこがしっかりした靴を履いていかれるのをおススメします。また、手に色々持っていると転んだ時に思わぬケガをしてしまうこともあるので、滑りやすい日にはなるべくなら両手は空けて、腰を少し落としてゆっくりと歩くのがコツです。雪の大内宿の絶景、ケガ無くじっくり堪能してくださいね。

大内宿 詳細データ

会津若松と日光・今市を結ぶ会津西街道の宿場町の一つとして栄えた。寄棟作りの建物が街道沿いに整然と並ぶ。

冬の大内宿

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Japan Web Magazine 編集部

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