土塀と瓦
「瓦」と聞くと一般的に屋根を思い浮かべる方が多いと思うが、「瓦」は屋根に使われるだけではない、というのをご存じだろうか。
「古い町並み」が今も残されている場所に住んでいらっしゃる方や、町の散策や寺院めぐりが好きな方は目にする機会が多いと思うが、「瓦」は屋根に葺かれる以外にも、庭に埋められたり、土塀に埋め込まれたりするのだ。
日本庭園などの一画で、土に半分ほど埋められた「瓦」。これは多分にデザイン的な要素を含むのだが、一方で壁に埋められる瓦にはデザインだけではなく実用的な意味がある。
「土塀」とは文字通り、土でできた塀のことで、いつからかブロック塀などにとって代わられ、それこそ古い町並みや神社仏閣の周りなどでなければ中々目にする機会も少ない「塀」だが、かつてはこの土塀がそこかしこで屋敷や神社仏閣の建物・境内と道とを隔てていた。高さや厚さなどは、その屋敷や神社仏閣の格式や規模などにより様々だが、例えば江戸時代後期に撮影された武家屋敷の写真などに、立派な土塀があるのを確認することができる。
この土塀、地域や格式などにより種類はあるものの、基本的には、木や竹、藁、石などで骨組みが組まれ、粘土や、油や石灰やフノリなどを混ぜた土などが盛られたり、表面に漆喰、真砂土などが塗られたりして作られるのだが、そこにさらに瓦を埋め込む「瓦土塀 」にすることにより、意匠の美しさのほか、塀の強度を上げるという効果、土塀に浸みこんで強度が低くなる要因の一つとなる雨水などがよく「捌ける(はける)」ようにする、という効果もあるのだ。使われなくなった瓦を利用し、塀の見た目を美しく飾るだけではなく、さらに強度も上げるという実用性も兼ねた先人たちの知恵なのである。
今度、旅先のどこかで土塀を見かけたら、間近に寄ってよく観察してみてはいかがだろう。職人仕事の技の巧みさや美しさに改めて気が付くことだろう。すっと通り過ぎただけでは気が付かなかった、細やかな手仕事の跡や意匠を発見したりするかもしれない。日常生活で気がつかなかったことに気が付く、というのもまた旅の醍醐味の一つだ。