三徳山三仏寺投入堂の麓にて
子供の頃、山の中で初めて青大将に遭遇して以来、一体何回蛇に出会っただろう。とかげやヤモリは大好きだが、蛇は何回出会っても、一瞬緊張して体がこわばってしまう。決して嫌いとかではないのだが毒があってもなくても、「一生命体」として本能的に危機を感じるのか、それともただビックリするだけなのかはよくわからないが、身体が固まった後、少ししてからやっと動けるようになる感じだ。どちらかというと畏怖の念に近いだろうか。古くから世界各地で、蛇が神聖なものとされ、崇敬されてきたのもどこかうなずけるような気がする。理屈とかではない、観念を越えた「何か」を発しているような感じがするのだ。
鳥取の秘境であり、日本で最も参拝が困難な場所の一つともいわれる、断崖絶壁に立つお堂「投入堂」から降りてきて、一息ついている時に遭遇した蛇は、その直前まで流れていた安堵感を一気に再び緊張感に戻すと同時に、一種独特の清らかさと凛とした空気を漂わせながら、まさに真打がすっと登場したような感じさえ受けるほどに、神秘的で不思議な雰囲気に満ちていた。何かを見つめる目が、怖いまでに美しい。そのなめらかな皮膚。手も足もないが、むしろ生き物としての一つの究極の完成型をそこに具現化したような形状と動き。威圧感と寛容という相反するものを全身から放出しながら、数秒そこにとどまった後、一瞬だけこちらを見、そして次の刹那、音もなく岩の間に消えていった。