階段、階段、また階段
公開日: 2015年4月9日 | 最終更新日 2022年10月14日
瀬戸内海に面した町「尾道」は、「坂の町」として知られる。特に尾道駅の東側は、山が海岸線間際まで迫っており、その山肌に寺社や住宅が密集している。縦横に走る無数の路地、軒を連ねる建物、そして穏やかな瀬戸内海。この風景を愛し、志賀直哉や林芙美子はこの地に居を構え、小津安二郎や大林宣彦はこの地を舞台に映画を撮った。時代を経て建物や道の舗装こそ変わったものの、戦火も免れたこの町は、「西の京都」ともいわれる美しさを今も残しているのだ。
とはいえ、その美しさと日々の生活の大変さは別の話。国道2号線から山陽本線の踏切を渡り、千光寺方面へと上がっていく道を見上げるとよくわかる。行く手が霞むほどに、坂道と階段が延々と続く。
あなたはきっとこう思うだろう。「地元の人達、郵便や宅急便の人達。この道を毎日のように行き来する人たちの大変さはいかばかりだろう・・・。日々の往来もさることながら、大きな物の移動、例えば冷蔵庫とかソファとか箪笥とかの移動は一体どうするのだろう・・・。」
そんなことをぼんやり考えながら、階段をようやく上り、ふと振り返った時の瀬戸内海の美しさ。その瞬間、あなたの心は、志賀直哉や林芙美子や小津安二郎や大林信彦のそれと重なるのだ。
目の前に広がる町並み。橋や島、そして海。それは心の柔らかい部分にすーっと入ってくる。
美しさでお腹は一杯にはならなくても、ある瞬間の美しさで、人は生きていかれる時もある。
関連ページ:尾道の風景