黄金色に輝く葦
河川敷などでよく見かける葦は、簾(すだれ)や屋根を葺く素材などにも使われてきた植物。軽くて丈夫な葦は、昔は船を作る材料にもなった。葦原は、天然の浄化作用を持ち、水生動物や鳥など、多くの生物の拠り所にもなっている。
2月の或るよく晴れた日の夕方、荒川の河川敷をてくてく歩いていると、前方右手の橋のたもとで風にそよぐ葦の姿が目に飛び込んできた。橋が二本並んだその手前、冬枯れの明るい茶色をした姿で、日の光を浴びて気持ちよさそうに揺れている。
鉄橋の近くまでやってきて、土手から下に降りて葦原に近づいてみた。足元が少し悪いが葦の方へと歩いていき、そうして何気なく顔を太陽の方へむけると、先ほどまで茶色だったはずの葦が、突如、日の光に透けてきらきらと黄金色に輝き始めた。
それはまるで、ガラスか何かで出来ているもののように、きらきらと煌めく。さわさわと風に揺れながら、きらきらと輝く。
それを何とはなしに見ていたら、突然不思議な思いに包まれた。子供の頃の夕方の風景か。それとも別の世界で見た光景か。黄金色の情景が、目の前にぱっと広がていく。
そして、懐かしさと切なさの入り混じったようなものが、ふと舞い降りた次の瞬間、轟音と共に電車がやってきて、鉄橋の上をあっという間に駆け抜けていった。
長いことそこに立っていたような気もするが、太陽の高さを見るに、5分も時間は立っていないのだろう。狐につままれたような気持ちで、また葦を見る。黄金に輝く葦は、素知らぬ顔でただ風に揺れていた。大きく動いたり、時折、小刻みにざわざわと動きながら、ただ風に揺れていた。