河童伝説の川のミヤマカワトンボ
河童の伝説・伝承が残る川は九州と東北を中心に日本の各地にある。例外もあるが、くちばしのような口、頭頂部には皿があり、手足には水かき、背中には甲羅の様なものを背負っているというのが、その共通したイメージだ。
水辺で作業をしている人間や泳いでいる人間を川の中に引きずり込んだり、尻子玉という肛門の所にあると考えられた玉を抜いて、殺してしまうという悪事を働くものから、いたずら好きだが憎めないものまで、その性質は様々で、中には悪事を働いていたものの人間につかまって改心し、良い(?)河童になるものもいる。
岩手県一関市を流れる曽慶川も、そんな河童の伝説が残る川の一つだ。周囲を鬱蒼と生い茂る緑に囲まれ、川岸には大きな畳岩、ところどころに淵があり、いかにも河童が住んでいそうな雰囲気に満ちている。
この川に残る河童伝説は、「川下と川上にそれぞれ住んでいる別の河童達が、雨が降らずに皿が干からびそうになった時、「旱魃の時にも水の涸れない」というこの畳岩の噂を聞きつけやってきて、初めは争って水の取り合いをするものの、やがて仲良くなる」という微笑ましいもの。
そんな仲良し河童が出てくることをちょっと期待しながら、川岸の岩の上でのんびり日向ぼっこをしていると、ひらひらと美しい色をしたミヤマカワトンボがやってきた。
まるで宝石のような輝き。それほど大きな個体ではないものの、そこにスポットライトがあたってでもいるかのように、圧倒的な存在感を放っている。自然の中に身をおいていると、時々はっとするような美しさのほとばしりに出会うことがあるが、この時もそうだった。ミヤマカワトンボ自体はそれほど珍しいものではないし、その美しさも何度も見て知っていると思っていたが、この日の空気や光、その個体の輝き、様々な条件が違っていたのだろうか、とにかく美しいのだ。写真を何枚か撮った後は、ひたすら見惚れていた。
みずにちょんちょんとお尻をつけたり、また岩場に戻って体を休めたり。そんな姿を眺めながら、空を穏やかに流れる雲のように、思考もゆるやかに流れてゆく。いつしか、ぼんやりと物思いにふけっていると、突然、すぐ鼻の先をトンボが行き過ぎた。時計を見るとびっくりするほどの時間が経っている。
畳岩の向こうの淵で、「ひたひたひた、ちゃぽんっ」と大きな音がした気がする。笑い声のような何かの声がして、魚のような独特の匂いが目の前を一瞬通り過ぎてゆく。
直射日光にやられただけなのか、それとも・・・。
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