赤コンニャク

赤コンニャク

地元の人々には至極当然でも、他の地域の人が見ると驚きの食材は色々ある。それは例えば、他地域ではあまり食用にしないものだったり、あまり見かけない食材だったり、あまりしない味付けだったり。そして、「色」だったり。今回ご紹介する「赤こんにゃく」はまさに、その「色」が驚きの食材。織田信長ゆかりともいわれる、戦国期からの長い歴史を持つ滋賀の郷土色豊かな食材です。

近江八幡の赤コンニャク

あれは数年前、滋賀県のあるお店に食事に入った時のことだ。定食をお願いすると、ほどなくして運ばれてきたお盆に煮物の小鉢がついてきた。見かけは普通の旨そうな煮物なのだが、よく見ると赤いプニプニとした物体が入っている。なんだろう、これはと思いつつ食べてみる。見た目通りプニプニっとした食感。少し甘いが旨みのある出汁がしみていて美味しい。が、いかんせん、初めて遭遇する食材。脳みそが戸惑うのか、舌が泳ぐのか、それがなんなのか、全くもって判明しない。「麸?」「練り物?」「レバー・・・ではないよなぁ・・・。」

結局それが何かは分からずじまい。その赤い物体にはその後数度ほど遭遇したが、結局分からないまま月日は過ぎていった。普段なら、お店の人や仲居さんに聞くのだが、なぜかその食材に関しては不思議とその都度聞きそびれていた。

そして、その正体は突然判明することとなる。滋賀県内の、とあるスーパーで棚を見ていると、赤い色をした商品の一群がまるで、望遠レンズのカメラが合焦するように目に飛び込んできたのだ。その表にはデカデカと「こんにゃく」と書いてある。右側には近江八幡の文字。

「!!」「あの時のあれも、その時のそれも、これだ!!!」その瞬間、全てが繋がった。「赤い物体」を頂いた時、「もしかしてこの食感はコンニャクかな?」と思った事もあったが、コンニャクが赤いなどと思いもよらなかったので、それがコンニャクのはずがないと思い込んでいたのだ。

しかし、なんと言えばいいのだろう。目の前の棚に並ぶ赤いモノたち。四角いレバーの塊のような、水に浮いたレンガのような、コンニャクといわれても俄には信じがたいルックスをしている。コンニャクとは灰色や白いものではなかったか。自分の中の「常識」という名の固定観念が、グラグラと音を立てる。

手にもってみた感触は確かにコンニャク。裏を見ると、原材料の所に「三二酸化鉄」というものが含まれている。これがこのコンニャクが赤い要因か。あとは取り立てて変わったものは入っていない。

その日はまた移動しなくてはいけなかった事もあり、購入には至らなかったが、「赤い彗星」ならぬ「赤いコンニャク」はその後、しばらく心の片隅を占める存在となったのだった。

赤こんにゃくが赤い理由

赤こんにゃくが赤くなった理由、調べてみるとそれは織田信長にたどり着く。派手好みだった信長が、地味な色をしたコンニャクを赤く染めさせたのがその始まりだとか。派手なものが好きとはいえ、コンニャクにまで色をつけなくても・・・と思うのは常人の発想か。普通の人と違う思考を持ってこそ、何かを成し遂げられるのかもしれない。また、別の説では、全国を回って商品を売っていた近江商人が、郷土の祭「左義長まつり」の山車に飾られる赤紙をヒントに思いついたアイデアというのもある。いずれにせよ、未だに(地元の人々を除く)沢山の人を驚かせていることを考えると、彼らのアイデアは成功したといえるだろう。この赤いコンニャクはいつしか近江の人々の間に浸透し、日常食としては勿論、冠婚葬祭には欠かせない食材になったという。

赤コンニャクを食べる

さて、その赤コンニャク、実際に食してみることにしよう。味や食感は前述のように以前に食べたことがあるので分かってはいるつもりだが、それでもやはりそれと知って意識して食べるのは初めてなので、調理前の実物を目の前にするだけでもドキドキワクワクだ。袋を開けてみると、香りは通常のコンニャクとなんら変わらない。触った感じもほぼ一緒だ。赤コンニャクは通常のコンニャクと同じように使えるという。煮物に田楽。煎り煮も美味しいとか。地元の人は天ぷらにしたりもするという。勿論、さっと湯がいて、酢味噌でもいける。という訳で、まずは薄切りにして、湯通しして刺身のように頂いてみよう。塩で軽くもんでから沸騰したお湯にいれ取り出してから冷ます。皿に盛ったその見た目は、マグロかレバ刺しか。刺身コンニャクは珍しくない筈だが、色が赤いというだけで、印象は別物だ。食べてみると、味はやはり普通のコンニャクとほぼ変わらないが、食感は通常のコンニャクよりもややもっちりとしている感じだろうか。ゴマ油と塩で食べたら、それこそレバー刺し風だ。次に煮物。これもあらかじめさっと湯通ししたものを、野菜と共に出汁でたく。一晩冷まして味を染み込ませてから、頂くと・・・「!」やはり、数年前に頂いた、あの謎の赤い物体はこれだった。コンニャクと分かっていても、色を見ると頭が混乱する。知らなければわからなくても無理もないわけだ。味はやはり通常のこんにゃくと大差ないのだが、こちら(煮物)の方が、より普通のコンニャクとの食感の違いがわかりやすい。通常のコンニャクの食感をプルッぷるんだとすると、赤コンニャクはぷにぷにン、という感じだろうか。微妙な差かもしれないが、なんとなくネットリ感があるような気がする。そのほか、チャンプルーなどに入れて頂いた。いずれも美味しかったが、やはり色の印象は大きい。インパクトがあるのは確かだ。たかが、色。されど色。食は文化。色も文化、といったところだろうか。

この赤コンニャク、滋賀県内のスーパーや道の駅、土産物店等で買える他、通販で、また東京都内なら銀座にある滋賀県のアンテナショップでも購入可能だ。

赤コンニャク
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