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横手のかまくら おとぎ話のようなメルヘンの世界 冬の夜の夢のような光景

横手のかまくら

ドイツの建築家と昭和初期の日本の情景

ドイツ生まれの建築家、著名な都市計画・集合住宅の専門家であり、1933年に日本にやってきて三年半滞在、その時の経験・見分を元に「日本美の再発見」「日本文化私観」「日本 タウトの日記」といった本を著し、桂離宮を世界に広めたといわれるブルーノ・タウト。彼は日本滞在中に様々な場所を訪れ、その地域の人々と交流を持ち、建物や集落などを見て回ったが、そんなブルーノ・タウトが著書「日本美の再発見」で褒め称えたのが、秋田県の「横手のかまくら」の情景だ。

「すばらしい美しさだ。これほど美しいものを私はかつて見たこともなければ、また予期もしていなかった。これは今度の旅行の冠冕(編集部注:「かんべん」=いちばんすぐれているもの。)だ。この見事なカマクラ、子供達のこの雪室は!」
「子どもたちは甘酒を一杯すすめてくれるのである。こんな時には、大人たちはこの子たちに一銭を与えることになっている。ここにも美しい日本がある。」

彼は1936年に横手を訪れ、素朴ながらも簡潔で美しい情景を見て、そう絶賛した。

ブルーノ・タウトは、桂離宮のようなシンプルで質の高いデザインを好み賞賛した一方で、日光を訪れた際に見た東照宮の豪華絢爛な装飾を「華美すぎる」として嫌っている。人の好みはそれぞれなので、どちらが良い悪いではないが、とにかくブルーノ・タウトにとっては、桂離宮や伊勢神宮、東照宮、修学院離宮、平安神宮、比叡山、琵琶湖、祇園といった(彼が訪れた)日本国内の並みいる建物、錚々たる場所と比較しても「この旅で最も素晴らしい!」と感じたのが「横手のかまくら」だったのである。

「かまくら」とは

そもそも「かまくら」は、冬でも雪のない場所に住む人にとっては、ある種憧れのイメージさえあるような「雪」の大きな塊で作る「室」「雪洞」だが、本来は秋田や新潟などの雪の多い地域で伝統的に行われてきた小正月(の行事)の一つのこと。

「小正月(こしょうがつ)」とは、正月の15日に行われるもので、正月三が日でさえ開いているお店も多い現代の都市部においては次第に廃れてきている風習の一つだ。地域によっては小豆粥やぜんざいなどを食べたりして邪気を払って無病息災を願ったり、どんど焼き(とんど焼き・どんと焼き・さいと焼き・左義長)と呼ばれる火祭り、焚き上げを行ったりする。

秋田や新潟などではいつの頃からか小正月に雪洞を作り、中に設けた祭壇で水神様を祀るようになったという。それが「かまくら」だ。その歴史は諸説あるが江戸時代には既に行われていたといわれ、一説には450年以上、一般的にイメージされる「かまくら」とは少し異なるものの、よしずを天井にかけた「カマクラ」を作り正月飾りなどと共に燃やして無病息災を祈る「六郷のカマクラ行事」はなんと700年以上続いているといわれる、長い歴史を持つ伝統行事なのである。

水神様を祀るとともに「かまくら」の中で子供たちが餅などを焼いて食べたり、甘酒を飲んだりして過ごすようになり、また、水神様をお参りに来る大人たちに「入ってたんせ(かまくらにお入りください)」「おがんでたんせ(水神様をお参りください)」と言って招き入れ、「あがってたんせ(おあがりください)」といって餅や甘酒をふるまうようになった。そうした、おもてなしを含めた一連の行事が「かまくら」というわけだ。

かまくら内で祀られる水神様「かまくら」内で祀られる水神様

「横手のかまくら」

今日はそんな「横手のかまくら」のおとぎ話のようなメルヘンの世界、夢のような光景をご紹介しよう。

横手のかまくら

横手のかまくら

横手のかまくら

横手のかまくら

横手のかまくら

横手のかまくら

横手のかまくら

横手のかまくら

横手のかまくら まとめ

今でこそ、夏も冬も各地のお祭りや行事などでは夜になるとLED照明が煌々と灯り、カラフルで明るく賑やかな雰囲気に満ちているが、昔は祭りや行事の日といえどもそれなりの暗さに包まれていたであろう夜の時間。ましてや江戸時代ほどではないとはいえ、ブルーノタウトが訪れた1936年(昭和11年)当時、屋外に作られた「かまくら」の周囲は夜になればある程度の闇に包まれていたであろうことは容易に想像できる。

そんな暗闇との対比。寒い屋外との対比。温かな色味を持ちながらも(LEDと比較すれば遥かに)ほの暗い灯明の火がゆらゆらと揺れるかまくら内の美しさや温もり、そして周囲の闇とのコントラストは、さぞや素晴らしいものであったに違いない。(ちゃんちゃんこなどを着た)和装の子供たちの無邪気な笑顔。朴訥とした、素朴な美しさに満ちていたに違いない。

そんなことを感じさせられるのが「横手のかまくら」だ。そして、ブルーノ・タウトが体験したであろう、その美しさ、素晴らしさは現代においても(いや現代だからこそ)特筆すべきものだ。

江戸時代と比較すると驚くほどにテクノロジーは進歩したとはいえ、まだまだそれがいかに鮮明な映像であろうとも雪の冷たさ、風の厳しさが伝わり切ることはないし、香りや匂いも未だお茶の間に届けられることはない。お祭り、行事全般に通じることではあるが、特に「横手のかまくら」は現地に行って、「寒さ」「冷たさ」も併せて全身で感じてこそ、その素晴らしさを体感できる行事といえる。例年2月15日・16日に行われる「横手のかまくら」、ぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。

JAPAN WEB MAGAZINE Tomo Oi

浅草在住。ウニとホヤと山と日本酒をこよなく愛しています。落語好き。

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