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不老不死・長寿の水 「恐山冷水」

恐山の冷水

青森県むつ市金曲から北西方向へ向かい、薬研温泉を経由して北東方向、むつ市大畑町へと至る青森県道4号線は、途中、東北地方でも最大級のパワースポットであり、比叡山、高野山と並ぶ聖地の一つとして知られる「恐山」のそばを通ることから、通称「恐山街道」とも呼ばれる道路。市街地を抜けると林の中を通る一本道がくねりながら続いていく。走るにつれて、道のところどころに姿を現す石仏が、次第に恐山に近づいていることを教えてくれる。

そんな恐山街道を進むこと約15分、恐山まであと約4キロメートルほどの場所に見えてくるのが、「不老不死」「長寿」「若返り」の水として知られる「恐山の冷水」が湧き出している地点だ。

鬱蒼と生い茂るヒバの林を背景に、路肩が少し広くなっている。石が組まれた上に樋があり、そこから清らかな水が滔々と流れ落ちている。その傍らにはお供え物が置かれたお地蔵さん。その少し下には長靴が三足ほど置かれている。

その雰囲気は独特だ。清らかで澄み切っている、というわけでもなく、かといって濁っているというわけでもない。爽やかで気持ちいい、というのとも少し違い、重厚で圧倒的に迫ってくる何かがあるかというとそういうわけでもない。ただ、何かがゆったりと漂っているような、静かに淡々と何かが湧き上がっているような、不思議な感じなのだ。

この「恐山の冷水」と呼ばれる湧き水は、古くから、恐山へ参拝する人々の喉を潤す役目を担ってきたという。ペットボトルはおろかしっかりした水筒などもない時代、遠路はるばるやってきた人たちの貴重な飲み水となったことだろう。いつしか、この湧き水は、霊験あらたかな水として、人々に大切にされ、1杯飲めば10年若返り、2杯飲めば20年若返り、3杯飲めば死ぬまで若返ると言い伝えられるようになった。また一方で、この場所は俗界と霊界の境目であるともいわれ、人間のみならず、恐山へ集まってくる霊も飲みにやってくるのだと言い伝えられている。

俗界と霊界というものがどういうものなのかはわからないが、なんとなく肌で感じた独特な雰囲気、不思議な空気は、確かにほかではあまり感じたことのないものだ。

人々は、「恐山の冷水」で、渇きを癒し、手や口を漱ぎながら、これから訪れる恐山で会えるかもしれない、今はここに居ない愛しい亡き人を思ったのであろうか。それとも、恐山で久しぶりに会うことの出来た親しき人の面影を胸に、また元の生活に帰っていくためのきっかけとしたのだろうか。

誰かを思う心、想い、願い。いくらテクノロジーが発達しても依然私たちは、いつかやってくる別れから逃れることはできない。去らざるを得ない人の想い。残された人の想い。強くて深い、そんな様々な想いたちが、俗界と霊界の境目であるというこのあたりには、静かに漂っているのかもしれない。

関連リンク:恐山

撮影場所

Japan Web Magazine 編集部

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