天鏡閣で出会った小さなバッタ
福島県猪苗代町の、猪苗代湖にほど近い場所にある天鏡閣は、旧有栖川宮・高松宮翁島別邸であった建物。ルネサンス様式を取り入れた和洋折衷の建築様式で、大理石のマントルピースや、シャンデリアなど、優雅で壮麗な内装と調度品が目を引く。漢詩を好まれた大正天皇が、皇太子時代に滞在された際、窓から見える猪苗代湖の湖面を鏡に例えられ、李白の詩句「明湖落天鏡」より「天鏡閣」と命名されたといい、本館、別館、表門が国の重要文化財に指定されている。
そんな天鏡閣の中庭、建物のすぐ目の前に広がる気持ちの良い芝生の上に置かれた白いテーブルに座りパンフレットを広げていると、どこからともなく小さなバッタがやってきた。
透き通るような薄緑色をした、小さな小さなバッタだ。草むらからぴょんと飛び出して、勢いあまってテーブルの上に着地してしまったのだろう。しばし、戸惑った感じでテーブルの表面を確かめるように佇んでいる。そうして佇んだまま、一分ほど経っただろうか、また突然何かを思い出したように、ぴょんとはねて芝生の上に消えていった。
なんということもない細やかな出来事なのだが、なぜだか小さな幸福感を覚えた出来事だった。