奈良県吉野郡下北山村
2011年9月に紀伊半島を襲った台風12号は、降り始めからの3日間で、奈良県上北山村で1652ミリ、同県十津川村で1303ミリ、三重県大台町で1519ミリを記録するなど、未曾有の大雨をもたらし、各地に甚大な被害を残した。1652ミリといえば東京の年平均降水量1466.7ミリを超える雨が一度に降った、という量だ。
この大雨により、土砂崩れや川の氾濫がおき、紀伊半島の奈良県、和歌山県、三重県だけでも60人を超える方がなくなり、19人の行方不明者を出した。山深い紀伊半島にあって、迂回ルートがない基幹道路が各所で寸断され、孤立した集落も多かった。山が大規模に土砂崩れをおこしてその形をかえてしまう山体崩壊も起こり、その土砂が河川をせき止めて洪水が起き、またその水を含んだ土砂に襲われた集落もあった。
写真は、翌年の3月の今日、紀伊半島を車で走っていて遭遇した、台風災害の爪痕が大きく残っていた場所だ。
夏になるたびに、ニュース映像などで頻繁に目にし、台風の猛威の恐ろしさは頭では理解しているつもりでも、それは実体験の伴わない表層の知識でしかなかった。実際に、「人が作ったもの」がいとも簡単に破壊されている姿を見ると、やはり「自然」に対して畏敬の念を抱くと共に、おのずと謙虚な気持ちにならざるを得ない。
どれほど文明が発達し、科学が進歩しても私たち人間は「自然」に敵うことはない。「自然」に生かされ、「自然」から糧を得、時に「自然」に振り回され、日々を暮していく。「自然」を克服する、打ち負かす、組み伏せる、ということではなく、いかに「自然」と共に暮らしていくか、上手に共存していくか、何か起きた時にどう対処していくか。テクノロジーに囲まれて生活する現代の私たちにとって、今後ますます重要な課題になっていくのかもしれない。