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駒ヶ根ソースかつ丼 駒ケ根のソースかつ丼を食べずにかつ丼を語ることなかれ

駒ヶ根ソースかつ丼

甘みと脂の親和性

たっぷりとした動物性の脂と砂糖の甘みにこれほどまでに親和性があることに初めて気がついたのは一体誰だろう。

例えば、甘みをまとった牛肉がほろりと口の中でとろけるスキヤキ。優しい口づけのような甘美で強烈な浸透力。有無を言わさぬ場面転換力。気がつけば、惚けた顔をして、「ああ、うまい」なんてありきたりの台詞をありきたりの顔をして呟いてしまうほどの、圧倒的な力強さ。

普段、「デザートでもない料理に砂糖が入っている事」に漫然とした嫌悪感をもっていても、その旨みの前にはそんなものも吹き飛んでしまう。甘いこと、それは「もてなし」でもあった、という一昔前の料理に対する「短絡的」な発想。そんなものへの高慢な卑下は、波が砂浜に打ち寄せる「間」よりも早く消え去ってしまう。それは脳幹に働きかける快楽。説明不要な直線的推進力。ただひたすらにまっすぐに、それは味蕾へと働きかける。

まっすぐな視線でもって、見つめられてしまう。そこに余計な説明は要らないのだ。頭で理解する必要は無い。言葉はいらない。身体が自動的に反応してしまう。勝手に、自ら、応対してしまうのだ。基幹細胞の存在意義を根源から揺るがすような激情的なベクトルなのである。

駒ヶ根ソースかつ丼

あれこれと調べてみると、多くの人が抱いているカツ丼=揚げたカツを煮て卵でとじてご飯に乗せたもの、というイメージは必ずしも全国共通ではないことが判る。以前に紹介した上州カツ丼の群馬県前橋市、高崎市を始め、福井県、新潟県新潟市、山梨県甲府市、そして福島県会津若松市などでカツ丼といえば、多少のスタイルの差こそあれ「ソースカツ丼」を指す場合が多い。寧ろ「カツを煮て卵でとじたカツ丼」を「煮カツ丼」「卵とじカツ丼」とわざわざ別の呼び名で呼ぶほどに、それらの地域ではカツ丼といえばソースカツ丼のほうが一般的だったりするのだ。

そのエリアで育った人が、進学や就職で上京してカツ丼を頼んだら「卵でとじたカツ丼」が当然の様に出てきて、小さなカルチャーショックを受けた、なんて話もあるほど。自分の「常識」が必ずしも他人の「常識」ではない、というのは誰しも生きている間に何度も痛感するものだが、こと食べ物に関してはその傾向が強いだろう。海外はもとより、狭い国土の日本の中でも食文化に関して言えば、まだまだその違いは大きいのである。

長野県南部、天竜川に沿って南北に伸びる伊那谷は中央アルプス(木曽山脈)と南アルプス(赤石山脈)を望める風光明媚な盆地だ。その伊那谷の中央部に位置するのが駒ヶ根市。綺麗な空気と水を利用した稲作のほか、精密工業が盛んな土地柄でもある。有名な薬酒「養命酒」の発祥地もこの駒ヶ根だ。その駒ヶ根の名物にもなっているカツ丼もいわゆるソースカツ丼である。

駒ヶ根ソースかつ丼

駒ヶ根ソースカツ丼の由来

卵でとじたものではなく、ソースのカツ丼が駒ヶ根のカツ丼の主流になった理由については他の地域と同様、正確なところはわかっていない。ただもっとも信憑性が高そうなのが、昭和3年創業の駒ヶ根カツ丼の老舗「きらく」の創業者が当時流行り始めていた洋食カツライス、カツレツなどに着想を得て始めたというもの。食道楽で、食通でもあったというこの創業者の発想が、地域の人々の好評を博し、いつしか駒ヶ根のカツ丼といえばソースカツ丼になった、というわけ。

さて、駒ヶ根のソースカツ丼、そのお味は、というと。まず、運ばれてきた瞬間、その存在感と、いわゆる一般的な「(卵とじ)カツ丼」との見た目の違いに驚く。「トンカツ定食の、トンカツとそれに添えられているキャベツをご飯の上にどんと乗せて、ソースをかけました」的な、まさにそのままという感じの見た目だ。卵やたまねぎ、海苔なんかがのっていない分、カツの存在感がすごい。そして見るからにジューシーで美味しそうだ。

駒ヶ根ソースかつ丼

あつあつのご飯の上にのった千切りのキャベツ。そしてその上に乗せられている、斜めに切られた揚げたてのカツ。その身にはソースの滲みた衣をまとっている。

それらをがっつりと箸に取り一口でほおばる。

はぐっと噛み締めた瞬間、口の中に広がるのは、「ソースの甘みとキャベツのシャッキリ感と肉の旨みとジュワーととろける脂」のたたみかけるようなハーモニー。

決して楚々とした上品なソナタなんかではない。それは華やかに燦然と鳴り響くシンフォニー。

例えるならば、テンシュテット指揮のマーラー「巨人」の第2楽章終盤部。ムラヴィンスキー指揮のブラームスの交響曲第4番4楽章、はたまたショルティかハイティンクのブルックナー交響曲第9番第3楽章。

金管が鳴り響き、弦が流麗に歌うように弾けるように、口の中に広がった旨みのファンファーレは身体の中に響き渡る。

まさに動物性の脂と砂糖の甘みの親和性が「美味」となってほとばしる瞬間。当然、砂糖の甘みといってもソースに含まれている様々な野菜や果物などの甘み、旨みを加味しての事。

その複雑な甘みが、肉の旨みを引き立て、そして脂の旨みと合わさり、キャベツの旨み食感とご飯の香り、味と合わさって、交響曲を奏でる。陶然としてしまう。いや、脳の一部はうっとりとしたまま、その快楽をさらに希求する心は次の箸を繰り出す。咀嚼する。嚥下する。そして丼は空となる・・・。

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JWM Tomo Oi

浅草在住。ウニとホヤと山と日本酒をこよなく愛しています。落語好き。

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