アワビの煮貝

アワビの煮貝

甲州名物

海のない山梨県。今でこそ、新鮮な魚介類も容易に手に入るが、かつては隣国・駿河(静岡)で取れた貝類などを醤油漬けや塩漬けにして遠路はるばる馬や船で運んでいた。ある時、駿河湾で取れたアワビを醤油で煮しめ、それを運んだところ、馬の背に乗せられて長時間揺られたためか、馬の体温の為か、味がアワビの身にしっかりと染み込み、いい具合に熟成されてとても美味なるものになっていたという。以来、「煮貝」は甲州の名物となったのだ。

調べてみると、安静時の成馬の平熱は37.0~37.8度と高め。重い荷物を運んで山道を歩いている時は、もう若干高くなることだろう。今なら、低温管理されたトラックで一気に運んでしまう道程を、この常時少し保温している位の温度を保ちながらゆっくり運ぶことによって、醤油で煮しめた貝にしっかりと味がしみこんだのだ。実際、馬の体温が、どれほど荷物に伝わったかはわからないが、いずれにせよ、ゆっくり時間をかけてこそ、生み出された一品なのである。もちろん、現在では、馬に乗せて運んで作ることはしていないが、甲府にある老舗の店では昔ながらの製法で、丁寧にじっくりと作っている。「海のない県で貝?」と偏見を持たず、江戸の頃より受け継がれてきたこの甲州の名物、機会があればぜひ一度味わってみてはいかがだろう。

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