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かっぱ橋道具街

かっぱ橋道具街

揃わぬものは無いと言われる町

東京浅草から程近い一角に、子供も大人も目を輝かせるような場所がある。美味しそうだけれども決して食べられない「料理」の王国。料理なのに食べられない?そう、料理なのに食べられないのだ。

かっぱ橋道具街かっぱ橋道具街

日本は世界でもトップクラスの技術の国だ。誰もが知っている車や電化製品はもちろんの事、それらに使われる部品やネジ、それこそ直径何ミリの部品の加工生産技術に至るまで、世界のトップシェアを占めているものが沢山ある。出来上がった製品とは違い、消費者が直接目にする機会も少なく、あまり表に出ることが無いので、一般人は殆ど知ることはないのだが、いわゆる町の工場で製造される部品が世界でも一流の精度を持ち、ベンツ、BMW、フォード、クライスラー、DELL、H&Pなど世界に名だたる企業の製品にも採用され、無くてはならない存在となっている。零コンマ何ミリというごく僅かなズレもない高度な加工技術は、NASAに認められ採用されたりもしているのである。それらは全て工場で働く人々の日々の切磋琢磨、勤勉な労働、長年研鑽を積んだ成果であって、その水準と熱意は感動的でさえあるのだ。世界の人々の生活を町の工場の人たちが支えているといっても決して過言ではない。

こんな話がある。ある時、海外のパソコンメーカーの生産ラインがストップしてしまったことがあった。調べてみたら、ある半導体部品が納品されず、それゆえに全生産ラインがストップしてしまっていたのである。では、なぜその部品は納品されなかったのか。他社の代替品はなかったのか。さらに調べると、その部品は日本の町の小さな工場から納入されていて、実にその工場の世界シェアがほぼ百パーセント。そして肝心の部品が納入されなかった理由というのが、その日本の工場が火事にあっていたから、ということ。このメーカーはその事実に驚愕し、慌て、それ以後自分達でも部品を調達できるように対策をとった、という話なのだが、これは何も特殊な話ではなく、小さな小さな部品であろうとも、生産量が世界シェアの7割以上を占めているような日本の町工場は幾らでもあるという。

「プロ」というのは妥協しない人の事を言うのだろう。技術にしても製品にしても素材にしても道具にしても、常に最善最高の物(者)や状態を求める。我が身を磨き、常日頃から研究し、よりよいものを求め、よりよいものを作る(造る・創る)為にありとあらゆる努力をする。どんなジャンルであれ、それが本物のプロと呼ばれる人々である。

かっぱ橋道具街

料理の世界も決して例外ではない。例えば日本料理、板前の世界。追回しと呼ばれる、板前が河岸へ買い出しに行く際のかご持ちから始まり、道具出し、洗い方、つけもの(野菜係)焼きもの、八寸(盛りつけ係)向こう板、焼き方、煮方、脇板、そして立ち板。材料を吟味し、包丁捌きを学び、器の見分け方を覚え、盛り付け、味付けから細やかな心遣いまで。一人前になるまでに最低でも十年以上はかかるという厳しい世界。本物の「プロ」の世界である。当然の事ながら、使用する道具も妥協はしない。料理人の命である包丁はもちろんのこと、まな板、鍋、箸、器、当たり鉢(すり鉢)、おろし金、箸置などなど。素材を捌くため、調理をするため、盛り付けるため、そして提供するための道具は、繊細で美しさを旨とする日本料理、ゆうに数百種類にのぼるという。それらの道具を揃え補充する。一流と呼ばれる店になればなる程、料理の素材と共に、道具に対するこだわりも並大抵のものではない。よりよいものを求めて南北東西へ奔走する。新しいものでもいいものがあると聞けば試してみたりもする。全ては最高のものを作る為。最高の味と空間を提供するためだ。

そんな本物のプロ達が、通う場所、それが東京、浅草のかっぱ橋道具街である。

かっぱ橋道具街
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かっぱ橋道具街

かっぱ橋道具街の歴史は大正時代に遡る。大正元年、数軒の道具屋、小間物屋、古物商が現在の合羽橋通りで商売を始めた。その後同業者が次第に集まり、噂が噂を呼んで、料理人などのプロ御用達の店が連なる場所として、有名になり、現在のような一大道具街へと発展してきたのである。途中、関東大震災や東京大空襲などで街は大きな被害を被ったが、その度に人々が協力し合って苦境を乗り越えてきた。昭和47年にはアーケードも完成し、雨の日の買い物も便利になる。現在では東京のみならず、日本中からプロの料理人や店のオーナーが集まる「なんでも揃う道具街」として、その名を轟かせている。また一般家庭の主婦や料理好きの人々、はたまた海外からの観光客まで、まさに素人プロを問わず、料理と道具を愛するありとあらゆる人々の集まる賑やかな街なのである。

食べられない料理

さて、冒頭の食べられない料理。察しのよい方はもうお解りだろう。どこでも見かける食べ物屋さんのショーケースに並ぶ食べ物の形をしたイミテーション、食品サンプルだ。子供の頃に誰もが一度はショーケースの中の宙に浮いているフォークを見て不思議な思いに囚われたのではないだろうか。ときに本物よりも本物っぽいその見た目。実に精巧に出来ている食品サンプル。かつては蝋(ロウ)で作られていたサンプルは現在はプラスチックで作られている。実物と見まがうほどリアルに彩色された天ぷらや鍋、今にも泡が弾けんばかりのビール。随所に職人技が光るそんな物たちも、かっぱ橋道具街で手に入る。

この食品サンプル、日本独自の技と文化だというので、海外からの観光客にとても人気がある。確かに、慣れ親しんだ者にとっては例えば食べ物屋の店頭で特に何も感動も無くちらっと見て選択肢のちょっとした助けにするくらいだが、初めて見る人々にとってはあれ程よく出来ていてわかりやすいものもないだろう。触りさえしなければ気がつかないくらいに本物そっくりに出来ているサンプル達。滞在日数の長いアメリカ人が、来日した友達に得意気に日本の知識をひけらかしながら、日本には食品のサンプルがあって、それがいかに精巧に出来ているか、という話をしつつ店頭に並んでいたサンプルを指で触ってみたら、それは本物だった、なんていう笑い話をどこかで読んだが、いかに食品サンプルの出来がいいかを逆に示す逸話だろう。そんな食品サンプルも買うことが出来るというので、かっぱ橋道具街は海外からの観光客に人気なのである。サンプルを見ながら色々な国の言葉で、楽しそうにはしゃいでいる光景も、今やかっぱ橋で日常的に見られる風景だ。

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まるで刀のような棒の正体は?蕎麦を打つときに生地を延ばすのに使う打ち棒。

     

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Japan Web Magazine 編集部

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