宍道湖
公開日: 2008年6月1日 | 最終更新日 2015年6月25日
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美しき景観と美味なる味覚
美しい静止画のような情景は、コマ送りされながら音もなくゆっくりと続いていた。それはまるで映画のワンシーンかなにかの様に、淡色の空気を漂わせながら、そこにあった。芳醇と混沌と興奮と高揚が、穏やかに囁きあう。冷静の裏に情深く、荘厳の向こうに純粋がある。うごめく静寂と澄み切ったざわめきが圧倒的な生命力を伴って共存していた。それは例えるならば、遠き日の思い出を頭の片隅にそっと連れながら、てくてくと歩いていく旅人の、一陣の風がさっと吹き抜けた後の心の奥底。大きく深く吸い込んだ陽だまりの午後の空気みたいに、懐かしい優しさと、心地よい温かさに満ちていた。
時折、透き通った風がふわりふわりと水面を渡っていく。軽やかに優雅に、水面を渡っていく。細胞さえも、空に溶け込んでいくその光景はどこか、夢の中の景色にも似ていた。幻想的な空気の手はつっと湖面に触れ、静かなる波紋は揺れながらひろがっていく。明かりを持て余した街燈が一人、ぽつねんとその波紋を見つめながら立っていた。波紋は次から次へと繋がって、やがて静かに消えた。ゆらり揺れながら、そっと消えてしまった。そのかたわらに立つアオサギは、物思いに耽りながらただ湖面を見つめている。青色の夢の光景は、やがて来る荘厳なる一日の幕引きへと続いていく。
宍道湖
面積79.1km2。国内で7番目の大きさを誇る宍道湖は島根県の東北部に位置する湖だ。出雲地方、船通山に源を発し出雲平野を潤す一級河川「斐伊川(ひいかわ)」を始め、20数本もの河川が流れ込み、境水道、中海、大橋川を介して流入する海水と入り混じって湖水を形成する汽水湖で、多種多様な魚介類が棲息している。また、その豊かな自然環境は、240種類を越える鳥達のオアシスでもある。2005年(平成17年)には、ラムサール条約にも登録されている。
宍道湖とシジミ
豊かな魚介類の中でも特に有名なのが、ヤマトシジミだ。宍道湖は、青森の十三湖、小川原湖や茨城の利根川、三重県桑名の木曽川、揖斐川、長良川などと並ぶシジミの名産地なのである。宍道湖だけで実に全国の約半分近くの水揚げ量を誇る。かつては上流でたたら製鉄(砂鉄と木炭を使った製鉄法)をしていたほどにミネラル豊富な斐伊川が流れ込む宍道湖のシジミは鉄分やカルシウムを豊富に含んでいるのだ。
シジミを取るための道具「ジョレン」。ものによっては重さ30キロ以上もあるこのジョレンをたくみに操り、湖底をさらうようにしてシジミをとる。かつては一人一日150kg獲っていたしじみも、宍道湖の干拓・淡水化でシジミが減少したために120kgに制限、さらに週4日(月、火、木、金)、1日3時間(機械掻き)もしくは4時間、一人一日90kgという制限を設け、シジミを守っているという。現在、およそ300名の漁師が操業、麗しき宍道湖の味覚を日々食卓に届けている。
松江周辺では味噌汁の他、刺身、殻蒸し、煮物、赤貝ご飯・赤貝ののっぺい汁などにして食べる。
宍道湖七珍(しんじこ しっちん)
宍道湖七珍(しんじこ しっちん)とは、宍道湖で獲れる多彩で豊富な魚介の中でも特に美味いものとして挙げられる味覚。松井柏軒が、1930年(昭和五年)、松陽新聞に「宍道湖の十景八珍」として発表し、連載したのが始まり。しかし、地元の食通を始めとした宍道湖の味覚を愛する人々の間で、何を入れて何を除くかで議論になり、最終的に現在の七珍に落ち着いたという。ゴロ合わせで「ス・モ・ウ・ア・シ・コ・シ」と覚える七珍は「スズキ、モロゲエビ、ウナギ、アマサギ、シラウオ、コイ、シジミ」の七つ。
宍道湖十景
宍道湖十景とは、1951年に松江市が選定した宍道湖周辺の景観十選。「松江城の雪」、「天倫寺の晩鐘」、「秋鹿の出雲富士」、「一畑寺の月」、「平田の愛宕山の秋色」、「宍道の宿の夕鴨」、「玉造灘の春霞」、「嫁ヶ島の残照」、「白潟沖のえびかがり」、「大橋の朝霧」が選ばれている。
松江城と宍道湖
一畑電車
出雲市駅から川跡駅を経由して出雲大社の最寄駅・出雲大社前駅を結ぶ一畑電車は出雲大社へ電車でアクセスするには欠かせない交通手段だ。松江しんじ湖温泉駅~園駅間は宍道湖に沿って走り、車窓から宍道湖の風景を楽しむことができる。
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宍道湖(しんじこ) DATA
- 場所: 島根県松江市、出雲市、簸川郡斐川町
- 交通(公共交通機関で): JR松江駅から徒歩15分、他。
- 交通(車で): 国道431号(北岸)、国道9号(南岸)。
- 駐車場: あり
- 期間: 通年
- 問い合わせ: 0852-55-5214(松江市観光文化課)
宍道湖
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