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十和田バラ焼き

十和田バラ焼き

幸福の音・幸せの香

「じゅわ~~っ」「ジューー」 芳ばしい熱気が立ち上り、食欲をそそる音が周囲に響き渡る。鼓膜を震わせるその音と、鼻腔から脳に到達した華やかな香りは、朱兜隊のように疾風怒濤の勢いで押し寄せ、たちどころに食欲の扉を全開にする。その先鋭的華麗で色めく攻撃に立ち向かう術は無い。身体を駆け巡る興奮と期待。口腔内にじわり溢れ出すアミラーゼ。機を逸してはいけない。急いてはならず、過ぎても駄目だ。注意力集中力を保ちつつ、隆起し噴出せんとする食欲を抑え、絶妙なる時を捉える戦が始まる。

十和田バラ焼き

ここは青森県十和田市。県東南部に位置し、その名の通り十和田湖を有する人口6万5千人ほどの町だ。市の北西部青森市との市境に聳える八甲田山連峰のほか、御鼻部山、小母屋、月日山、隣接する市村との境に戸来岳、十和田岳、十和利岳の十和田三山などの山々が聳え、十和田湖、蔦沼奥入瀬渓流など、豊かな自然に恵まれた市だ。また谷地温泉蔦温泉、猿倉温泉、十和田湖温泉など魅力溢れる温泉地を抱える市でもある。

そんな十和田市で昨今俄然脚光を浴びているのが、十和田市民のソウルフード「十和田バラ焼き」だ。地元では単に「バラ焼き」と呼ばれるそれは、牛のバラとたっぷりの玉葱を鉄板の上で焼いただけのもの。牛バラ肉なんてそこらへんのスーパーで売ってるし、玉葱だってすぐ手に入る。それを合わせて焼いただけなんて、家でもすぐに出来るではないか、と思われる方もいるだろう。しかし、十和田市で食べるその味は「バラ肉と玉葱を焼いただけ」では到底到達し得ない大いなる魅力に溢れているのだ。

十和田バラ焼き

 

十和田バラ焼きの歴史

バラ焼きは、戦後の青森県三沢市の屋台で生まれたといわれている。三沢といえば、米軍基地。戦後まだまだ高価で一般の人々の手には入りにくかった牛肉だが、三沢では米軍払い下げ品として赤身以外のバラやモツが比較的安く手に入ったのだという。では、そのバラ肉をいかに美味しく食べようか。それを工夫し、試行錯誤して生まれたのが「バラ焼き」なのだ。三沢で生まれたバラ焼きは、同じ文化圏の十和田市に伝わり、市民権を得る事となる。家族や友人同士で鉄板を囲み、じゅうじゅうとあがる煙の中、わいのわいのと談笑しながらバラ焼きをつつく。今や十和田市内でバラ焼きを提供する店は60軒以上。子供からお年寄りまで幅広い年代に好まれるその味は、いつしか十和田市民のソウルフードとなったというわけだ。

バラ焼き大衆食堂・司

早速十和田市に出かけてバラ焼きを体験してみよう。訪れたのは、全国に十和田バラ焼きを広めるべく活動している「十和田バラ焼きゼミナール」のアンテナショップでもあるバラ焼き大衆食堂・司(つかさ)。十和田市の中心部にある屋台村「三本木1955」の入り口左手に店を構える気軽に立ち寄れるお店だ。

中に入ると気さくな女性が二人、笑顔で迎えてくれた。注文は勿論「バラ焼き」。2種類の味のタレが選べるようになっている。甘みのあるほうのタレを選択。ほどなくして目の前のコンロに、肉と玉葱がたっぷりのった鉄鍋が乗せられた。焼き方にちょっとしたコツというかやり方があるという。まず、肉を真ん中に盛り上げ、玉葱を散らしてよく炒める。肉を盛り上げるその様子から名づけて「タワー焼き」。これは火を通し過ぎると硬くなってしまう肉を真ん中に盛り上げる事によって、玉葱との熱の入り方をよい感じに調整し、玉葱の甘みを存分に引き出すための大事な技。

十和田バラ焼き

目の前に出された時点では、当然玉葱は生で辛そうな雰囲気を放ち、肉も(当然)生々しく艶やかな赤色をしている。照りのある褐色をした液体が、「バラ焼き」の命「タレ」。

十和田バラ焼き

始めは「じじじ」と。次第に煙を上げ、心地よい音が響く。

十和田バラ焼き

肉が鉄板に付かないように、すべて玉葱の上に盛り上げる。そうして玉葱をよく炒める。

十和田バラ焼き

 

次第に玉葱の水分が飛び、鍋の淵には煮詰まったタレがカラメル化して泡立つ。焦げるか焦げないかの所で、肉を混ぜ込み、一気呵成に炒めあげる。機が熟したら、一息に攻め立てるのだ。甘く芳ばしい香りが辺りに充満する。ワクワクは最高潮。ドキドキは臨界点。

 

肉の色が変わり、美味しそうな炒め色がついたら完成だ。火の通し方は好みだが、火を入れすぎると硬くなってしまうので、注意。香煙舞い立つ「十和田バラ焼き」。文字通り、肉感的で直情的な誘惑にはもう勝てない。アツアツを頂こう。

 

十和田バラ焼き

箸で肉を一切れ掴み、口の中に放り込む。舌から喉を通って、勝利の美酒ならぬ美肉が食道を滑り落ちていく。その瞬間、頭の中の自分は、両手の拳を握り締め、空高く突き上げる。もしくは身を強張らせ、頭を抱えて身悶える。甘い煙の誘惑、途中でつまみ食いをしたくなる欲望にようやく打ち勝ち、ジャストな焼き上げの瞬間を勝ち取る戦を戦い抜いたもののみが味わう事の出来る極上の幸せ。淡い恋心ではなく、原色の鍾愛だ。爽快な五月の喜びというよりも、ねっとりとした八月の悦びだ。内なる熱の放出は、突如として歓喜の放散となる。走り回って、この美味しさを世界に伝えたい。目の前に山があったなら、「うまい」の山彦がかえってくるだろう。

肉食動物の気分で、言葉を失い、理性も失い、ひたすら貪り食べる。今だけは、世間の目など気にして入られない。飴色の芳ばしいタマネギ。ジューシーで味わいのあるバラ肉。甘みとコクが絶妙に交じり合ったタレの味。この甘みは勿論タレだけの甘みではない。肉を盛り上げ、焦げ付かないように丁寧にじっくり炒めたタマネギから滲み出た甘み。そして肉本来の甘み。それらがタレに入っているであろう野菜や果物などの甘み、ニンニクなどの香味と相まって、悶えるような甘み旨みへと変わる。

そして。もうお解りだろう。このバラ焼き。ご飯に実によくあうのだ。はぐはぐもぐもぐと食べ進むうちに、丼飯はさらっとなくなってしまうだろう。勿論、コクのある動物性の旨みは酒にもあう。夏の日にアツアツを食べながら冷えたビールもよいだろう。しばれる冬の日に、はぐはぐと頬張りながら、酒を飲むのもよいだろう。ただし、しっとりとした酒ではない。豪快健気な酒が良く似合う。アルコールと共に胃の腑へと落ちていく悦びは、体中へと染み渡り、しばしの幸せをもたらしてくれるに違いない。

バラ焼きを食べに行く時に注意する事はただ一つ、匂いがついたらいけない一張羅なんて着ていかない事。もちろんバラ焼き専用の一張羅なら構わないが、匂いが服に滲みてしまうのは間違いない。家に帰って滲みついた匂いを嗅ぎながら、もう一度幸せな気分に浸る、というなら別だが。気軽な格好で楽しくやるのが十和田バラ焼き流だ。一人でカウンターでつっつくのもよし。大勢で鉄板を囲むのをまたいい。人生の楽しみはきっと普段着の中にあるのだ。

十和田バラ焼きの鍋

瞬く間に完食。鍋底にバラの文字が浮き上がるのがわかるだろうか。

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バラ焼き大衆食堂・司(つかさ)

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