シロツメクサとアイヌの恋人たちの話

シロツメクサ

穏やかな夕暮れ、薄紅色をしたシロツメクサの花は柔らかな陽光を浴びて、静かに風に揺れていた。透き通った花びらがとても美しい。花にもし表情があったなら、きっととても和かな顔をしているだろうなと感じるほどに、あたりにはのんびりとした気が満ちていた。

ぼんやりと花を眺めていたら、ふと昔の事を思い出した。あれはいつの事だろう、小さな船が行き交う夕暮れ間近の川の河川敷、無邪気に土手を転がりながら、体全身で草の匂いを感じていた。見よう見まねで花の付いた茎を編んだり、四つ葉のクローバーを探したり。どうでもいい事を無我夢中でやっていた。それが何になるとか何のためになるとか、そんな事は考えずに、ただただ純粋に体は動いていた。時間は無尽蔵にあった。心には一片の迷いもなかった。

あれからいったい、どれほどの月日が流れたのだろう。どれほどの季節がめぐり、どれだけの想いが体の中を揺らめいただろう。

シロツメクサ

シロツメクサにまつわる、アイヌのこんな悲しい話がある。

相思相愛の仲であったアイヌの青年アッパと少女イロハ。二人はとても仲の良い恋人同士であったが、ある日アッパの乗っていた船が湖の真ん中で突風に煽られて沈んでしまう。アッパはなんとかイロハの元に辿りつこうと、懸命に泳ぐがやがて力尽きて湖の中へと沈んでしまった。アッパが遅いことを心配したイロハは必死にアッパを探すが、ようやくイロハが見つけたのは変わり果てた恋人の亡骸だった。イロハは悲しみのあまり、アッパの体を自分の体に紐で結びつけ、水の中へと身を投げてしまう。そして、その翌日、湖の周りには二人の永遠の愛を約束を示すかのように、シロツメクサの花が咲き乱れていたという。

Japan web magazine’s recommend

シロツメクサは、江戸時代の弘化年間(1844年から1847年)、ヨーロッパから日本に渡ってきたと言われる植物。オランダから輸入されたガラス器のクッション材としてこの花が沢山詰められていた事から「白詰草」の名がついたのだという。クッション材として花が沢山詰められていたなんて、なんともロマンチックではないか。

今では日本各地に分布、河川敷や野原、牧場などで見かけるごく普通の花だ。別名はクローバー。世界には約300種類分布し、家畜用の餌としてのほか、ミツバチが蜂蜜を摂るための植物としても利用されている。ちなみに世界で最も生産量の多い蜂蜜はこのクローバーの蜂蜜だ。

Share