沼津 かもめ寿司

かもめ寿司

隠れた名店を探す旅2

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静岡県の東部、伊豆半島の付け根に位置する沼津市は、人口20万人ほどの都市だ。東京から、およそ100キロ。かつては東海道の宿場町として栄え、現在も港町として、また富士山や伊豆半島への観光の拠点として賑わっている。海岸に松が立ち並び、遠くに富士山が望める沼津の地は、皇室の御用邸があったほど風光明媚な土地でもあるが、沼津と言えばやはり、新鮮な魚介類だ。

JR沼津駅から南に2キロほどいった場所にある沼津港には駿河湾を始めとした各地で獲られた様々な海の幸が水揚げされる。→沼津魚市場の記事はこちらから

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そんな沼津港には数多くの飲食店が軒を連ね、新鮮な魚介類を供していて、休日ともなると近隣は元より東京や神奈川から多くの人々が美味を求めてやってくる。それぞれの店舗が質や量を謳い文句に、工夫を凝らし、客の目を引き足を止まらせる。店の前に山と詰まれた魚のから揚げ。これでもかと盛られた見本の丼。大きなモニターを設置して、魚を捌いている様子を客に見せる店もある。そんな中、小路の端っこで比較的地味な店構えで営業しているのが、今回の主役「かもめ寿司」だ。系列店を含めた周囲の店が派手にディスプレイをし、人を立たせて宣伝する中、正直、店に入るのが躊躇われる程に地味なのである。

さて、勇気を出して(笑)店に入ってみよう。少々入りづらかった外観とは違い、内部はなんとなくほっとする雰囲気。心地よささえ漂っている。それは、その後じんわりとやってくる幸せな時間を予感させるものだった。明るく、はきはきとしていながらも、少しも押し付けがましさのない板さんが出迎えてくれる。やんわりと、ラストオーダーの時間を告げながら。そう、入店した時間は、閉店時間の少し前だったのだ。少々恐縮するこちらをよそに、気持ちよく「どうぞどうぞ」とカウンターの席を勧めてくれる。

言うまでもないが、よい店の絶対条件。それは人だ。味や価格もさることながら、「人」、これが欠けていては、まさに画竜点睛を欠くというもの。いや、むしろ、「人」こそが全てを握っているかもしれない。味がよかろうが、価格が大納得だろうが、「人」(すなわち雰囲気)がよくなくては、全て台無し。読者の方々にも一度や二度は、経験がおありだろう。味もよく、値段もリーズナブルなのに、「人」のせいで、台無し、気分を損ねたというような事が。勿論、どれほど人が素晴らしくても、味や値段が駄目なら、元も子もないのが飲食店の難しいところだが、何はともあれ、よい店の大切な条件、それが「人」なのは、大なり小なりご賛同いただけることと思う。

閑話休題。さて、まずはお目当ての「生しらすの軍艦」。何を隠そう、実はこの時、美味しい生シラスを求めて、既に二軒寿司屋に入っていたのだが、到底納得のいくものではなかった。しかし、三軒目のこの店で出てきた「生しらすの軍艦」。もう、見た瞬間にその鮮度と味が伝わってくるのだ。ぷりぷりの身。岩場で育った事を伝える少し黒味がかった体色。きらきらした目。一瞬沸き起こる罪悪感も、ちょんと醤油をつけて軍艦をほおばった瞬間霧消する。口腔内を支配するのは、甘くてほろ苦い、シラス達。それは脳へと旨みと喜びを運んでくれる。

沼津 かもめ寿司

「生シラスの軍艦」

いさき

「いさき」

お次はいさき。赤みがかった身が美しい。醤油をつけて食べてみる。若干、脂のノリが足りないが、旨い。板さんによれば、4月も下旬に近くなると、さらに脂がのって旨くなるという。

沼津 かもめ寿司

「太刀魚」

続いて太刀魚。きらきらとした皮。艶やかな身が素晴らしい。当然味も。

沼津 かもめ寿司

「青柳」

そして、青柳。握りを見せた板さん、おもむろに「叩いてもいいですか」と問う。なにやら判らずに、「ええ。」と応える。すると、板さん、握りの青柳の表面を絶妙な力加減で、ポンっと叩いた。するとどうだろう。叩かれた青柳が、むくむくっと起き上がった。驚きながらも、目の前に置かれた握りを手に取り、それを口に運ぶと、瞬時、口に中に海が来る。新鮮な海が来る。貝好きの人々は勿論、貝がそれほど好きではない人も納得してしまう、臭みのなさと、旨みの濃さだ。貝はこうでなくては。

金目鯛

「金目鯛」

しかし、何といってもこの日のハイライト、「かもめ寿司」の真面目(しんめんもく)が発揮されたのが「金目鯛」であった。思い出すだけでも、悶絶してしまう。目の前に出された瞬間から、目が釘付けになる色気のあるその身は、口に入れた瞬間に、美味しさが身体を突き抜けた。上品な脂の旨み。柔らかさな甘みと幸福がDNAのように螺旋を描きながら、口いっぱいに広がっていく。そして緩やかに、ゆっくりとその旨みは身体に浸透していく。脳天を殴られたような衝撃と官能が身体を包み込む。目くるめく美味の世界へといざなわれる。心は完全に被支配状態。完全幸福かつ完全降伏である。

人は、見た目で判断してしまう。何度失敗しても、見た目に振り回される。人の見た目。店の見た目。大事なのは、中身。そんな事は百も承知なのだが、それでも同じ過ちを犯す。アメリカのある統計によると、一般的に、見た目が美しく優れている人のほうが、そうでない人に比べて、出世が早い傾向にある、という。その調査の真偽の程はともかく。「見た目で判断してしまう」、なんと愚かなことか。そう判っていても、中々難しい。

かもめ寿司・・・店の外観や表の雰囲気で、大して期待をしていなかったのも、功を奏したのかもしれない。しかし、それを差し引いても、大変満足なひと時だった。大変美味しかった。人も店も先入観はいけないと、外見で判断してはいけないと、改めて気付かされたのだ。魚介は文字通り、生もの、絶対的な安定はない。当然、日によって、そして食べる人によっても評価は変わるだろう。一応お断り申し上げておく。上記体験は、多分に主観的、パーソナルな体験であったと。しかし、私事ではあるが、これだけは断言できる。今後、沼津に訪れたら、必ず足を運ぶ寿司屋、それは「かもめ寿司」だと。もし、少しでも興味をお持ちになった方は是非足を運んでみてほしい。タイミングがよければ、至高の体験が出来るだろう。

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