オンブバッタ
山梨県都留市の、富士急行を見下ろす小高い山にある勝山城跡で、オンブバッタに出会った。
子供の頃、野山で走り回っていた人ならよく見かけたであろう、さして珍しいバッタではないが、ご存じない方のために説明すると、「オンブバッタ」とは、写真のように片方のバッタがもう片方のバッタをおんぶしているバッタだ。
このオンブバッタという呼び名はニックネームなどではなく、バッタ目オンブバッタ科に属するバッタのれっきとした正式名称。親が子をおんぶしていると思う人もいるかもしれないが、実際はメスがオスをおんぶしている。
昆虫の世界ではメスの方がオスよりも大きくて強いケースは珍しくなく、例えばカマキリもメスがオスを食べてしまったりするし、昆虫ではないが蜘蛛もメスがオスの数倍の大きさの体を持ち、しかも目が悪い為に、オスがメスに交尾を挑もうと近づいても、メスが餌と勘違いしてオスを食べてしまったりもするのである。
オンブバッタも、オスが体長2.5センチメートル前後の大きさに対し、メスは体長4.2センチメートルほどと、2倍近い大きさをしており、オスがメスの上に乗っている状態でいることが多いのだ。ほかの種類のバッタも交尾の際は同じようにオスがメスに乗るのだが、交尾を終えるとオスはメスの背中から離れることがほとんど。しかし、このオンブバッタは、通常の時でもオスがメスの上に乗っており、一緒に移動したりもするのだ。
オンブバッタのオスがメスの上に乗る正確な理由はわかっていないが、オスがメスを見つけた時にほかのメスに取られないように常に背中に乗っている、といわれている。一見、常にメスの上に乗って楽をしている「ヒモ」のようにも見えるオスだが、生存競争の激しい昆虫界で確実に自分の子孫を残そうとするオスの涙ぐましい努力の一環なのである。見方を変えれば、メスに対する愛情、愛着の現れなのである。それを裏付けるかのように、メスが先に死んでしまった後、上に乗っていたオスが悲しそうにしばらくメスのそばに寄り添っていた、という状況をオンブバッタを飼っていた人が目撃している。交尾が終わったらさっさといなくなってしまうどこかのオスと比べたら、よほど愛情をもってメスと接しているようにも思えないだろうか。もちろん、真相(バッタの愛情の深さ・有無)は神のみぞ知るところだが、そういう風な目で見ればなんとも仲良しのカップルにも見えるオンブバッタなのである。