Look beyond the cliche, reach for the real Japan
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「豆酩(とうべい)」
熊本の山間部・五木村、五家荘(ごかのしょう)地域に壇ノ浦の合戦の後落ち延びてきた平家の落人らにより、800年もの昔から保存食として作られ、食べられてきたといわれているのがこの豆酩(とうべい)、豆腐の味噌漬け(豆腐のもろみ漬け)だ。水を切った豆腐を味噌(もしくはもろみ味噌)に漬け込み、発酵、熟成させることにより、芳醇でコクがありながらもまろみもある、えもいわれぬ味わいの食べ物となる。それは例えるならば、チーズから動物性の臭みを一切取り除き、植物性タンパク質が発酵したものならではの品のある香りを付加した「旨みの塊」のようなもの。ねっとりじっとりしていながらも、いやらしさもしつこさも無い。あなたがもし酒飲みならば、想像しただけで、これが酒のつまみにぴったりであるのがすぐにわかるだろう。そして、それがもし極上のものならば、ひとなめした途端に、うーむと唸って言葉が出ないだろう。そこには自己顕示や自己陶酔はない。憂愁も沈鬱もない。とげとげしさも押し付けがましさもなく、ただただコクと深い旨みを湛えた柔らかくて奥ゆかしい存在が静かにある。そう、それは言わば「発酵」の素晴らしさを具現化し、さらにそれをぎゅっと濃縮して、ふわりと手を開いたようなもの。黙っていても隠していても思わず旨みがじわりと滲み出てしまう、そんな味わいなのだ。
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