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犬吠埼の夜の風景

日本の夜景

しばし呆然と立ち止まった後、我にかえって歩き始めた。滑りやすい斜面を一気に上り詰める。

上りきったその先には、36キロ先まで照らすという犬吠埼の灯台が雄々しい姿で立っていた。幻想的な空気から一転、そこには逞しく世界を照らす光の塔が在った。青空ならば、よく映えるであろう白亜のレンガの建物は、夜空にぼうと浮かび上がりながら、規則正しく世界を照らしていた。それは月の光と交差して、闇夜に光の粒を撒き散らす。

この犬吠埼の灯台が出来る前、この岬のそばで座礁事故が起きた。幕府の軍艦が暴風雨に遭い、岩礁に乗り上げて沈没、乗組員がなくなったのだ。その痛ましい事故もきっかけの一つとなって、この灯台が出来たのだという。1874年に光を放ち始めて以来140年近くの間、どれほどの数の船がこの光を頼りに、航行してきたことか。どれだけの船を命を護ってきたことか。でも本人は、そんなことは意に介さずに、今夜ももくもくと仕事をしている。与えられた使命を全うする。今日も明日も明後日も、ただ闇夜を照らし続けるのだ。

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