豊郷駅

豊郷駅

薄昏の駅

その駅は、周囲を氷で覆われていた。雪ではなく、一歩踏み出すのも慎重を要するようなつるつるの氷なのだ。何日か前の昼間の温かい日差しで雪が解けて水たまりとなり、それがこの数日の寒さで凍ったのであろうか。こじんまりと建つ駅舎が、まるでスケートリンクの待合室であるかのように、駅舎のまわりが一面氷なのである。

車を止めた後、スタッドレスの威力に感心しながら、滑って転ばないように細心の注意を払いつつ、駅舎に近づいた。

豊郷駅

北海道沙流郡日高町。苫小牧から襟裳岬方面へ車で約1時間、ししゃもの水揚げで知られる鵡川を過ぎ、日高町の役場を通りすぎるとほどなく見えてくるのが日高本線の駅「豊郷駅」だ。

1924年(大正13年)9月6日に日高拓殖鉄道の波恵駅(はええき)として開業、日高拓殖鉄道が後に国有化され、以後は日高本線の駅として近隣の人々の移動拠点となった。1944年(昭和19年)4月には、現在の豊郷駅に名称が変わっている。

近隣の人々の移動拠点とはいえ、やはり車の移動が多い北海道にあって、この豊郷駅の利用客も次第に少なくなり、1981年度(昭和56年度)の1日の乗降客数は11人、1992年度(平成4年度)には、多少増えているが、それでも1日乗降客数は34人となっている。実際、この日も、一日10本に満たない汽車が二本ほど駅に到着しては発車していったが、乗降客を見かけたのは二人きりだった。

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「うぃーん」というディーゼルならではの唸りを上げて、汽車は去っていく。この音を聞くと懐かしいような切ないような気持ちになるのはなぜだろう。

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日高本線は海沿いをゆく路線で、車窓の眺めの素晴らしい路線の一つとして知られる。この豊郷駅も太平洋のすぐそばに立ち、ホームからは海が見える。汽車を待ちながら潮風に吹かれるというのは、普段都会に暮らす身にとっては特別な感覚だ。

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