徳島県徳島県の郷土料理

たらいうどん

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たらいに入ったうどん

「たらい」と聞いて何を思い浮かべるだろうか?昔の洗濯?行水?一寸法師?人によっては、ほとんど目にしたことがなく、絵本や時代劇の中の存在かもしれない。実際、プラスチック製のものや金たらいはまだしも、木製のものを見たことがない、という人もいるだろう。洗濯機ができる以前は、洗濯をする際に、洗濯板と共に必需品だった「たらい」。衣服のみならず、顔や身体を洗う際に用いられたり、保温性の良さから産湯に使われたり。夏は果物などを冷やすときにも使われたという。

そんな「たらい」に入れられた「たらいうどん」なるものがあるというので、徳島県に行ってみた。

たらいうどんに会いに行く

目指すお店はたらいうどんの平谷家さん。徳島自動車道を土成ICで下り、国道318号線を北上していく。進行方向左手に道の駅が見えてきたら、もうすぐそこだ。道の駅の少し先の細い道を左に折れる。大きなオレンジ色の看板が立っているので迷うことはない。しかし、曲がった後の道はとっても細い。確かに看板の所を曲がったので、道を間違えているはずはないのだが、もしかして違うかな?と不安になるほどに細いのだ。もし、大きな車で行かれる方や運転に不慣れな方は要注意だ。対向車が来たら困ってしまう程の細い道が続く。しかし、それにめげずに進んでいくと綺麗な店構えの平谷家さんが見えてくる。

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平谷家さんの開店は今から40年以上前とのこと。この周辺一帯のうどんは、「御所のたらいうどん」と呼ばれ、鳴門の「なるちゅるうどん」と共に、徳島の名物うどんとして知られている。国道318号線を中心に10軒ほどの「たらいうどん」を出す店が点在、平谷家さんもそのうちの一つ。地元の人には、観光客にはあまり教えたくない店(混んでしまうから)とも言われている。とはいえ、もうすでにその名は広く知れ渡っており、混雑する時には駐車場に入れないほどに混むという。しかし、この日は運よく空いていた。

玄関から中に入ると、広くてきれいな座敷に通された。窓が広くとってあり、外から聞こえてくる葉擦れや虫の声なんかの「自然の音」が心地よい。どこでもお好きな場所へ、ということなので、手近な場所に陣取った。テーブルの上のメニューを手に取ると、まず、名物の「たらいうどん」。その後に「焼き鳥」「鳥唐揚げ」「沢がに唐揚げ」「山芋とろろ」と続く。どれも心惹かれる。「あめごの塩焼き」なんかも美味しそうだ。お酒と共に頂きたいところだが、ぐっとこらえて、とりあえずお目当ての「たらいうどん」を注文した。

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少々お待ちください、とのことなので、お店に入る時に気になった東屋の方へ散策に行く。東屋は駐車場からすこし下りた場所にある。少々肌寒いものの、木々の間を抜けてくる風が肌をなでて気持ちいい。

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聞くところによると、夏場はこの東屋で食事もできるとか。すぐそばにきれいな川が流れており、周囲は緑に包まれている。そもそも国道を走っている時点で緑豊かではあったが、お店の周りはさらに緑が濃いのだ。ほっと落ち着ける空間。自然はやっぱりいい。こんな空間で、幾人かで食事をしたり酒を飲んだら、さぞ楽しいだろう。

川の清らかな空気を何度か深呼吸。気持ちまで清らかになったような気分で座敷に戻る。いい感じだ。

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注文してから15分ほどだろうか。部屋に戻って少しすると、「たらいうどん」が運ばれてきた。洗面器よりも幾回りか大きなたらいに、たっぷりのうどんが入っている。あらかじめ、写真でどんなものかは知っていたが、やはり現物を目の前にすると、中々のインパクト。思わず、目を見張ってしまう。

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たらいうどんは、かつては山仕事に従事していた人たちの食べ物だったという。始めはうどんを茹でた釜を皆で囲み、釜から直接食べていたのだとか。それがいつしか、たらいに入れられるようになり、現在のようなユニークな「たらいうどん」となった。出汁も独特だ。山間部である為、いりこ(煮干し)ではなく、この地域では「じんぞく」と呼ばれる川魚「ゴリ(カワヨシノボリ)」が使われるようになったのだという。

では、さっそく食べてみよう。たらいからうどんを箸でつまみ、つゆにつける。

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手順としては、釜揚げうどんを食べるのとなんら変わりはないのだが、うどんが入っている容器が「たらい」というだけでどうにもテンションが上がってしまう。「非日常」感がなんか楽しいのだ。

箸でつまんだうどんをつゆにつけて一息にすする。コシがしっかりしていてうまい。つゆも見た感じは関東風かと思えるほどに濃い色をしているのだが、見た目ほどには味が濃いわけではなく、コクがあるのにさっぱりしているという感じだ。

今までにあまり食べたことのないような独特の風味というか香りがするが、これが「しんぞく」なのだろうか。思い込みもあるのかもしれないが、海よりも山や川になじみがよさそうな、そんな香りだ。うどんをすする度にその香りが鼻を抜けていく。その香りを楽しみながら、またうどんをたらいからつまみ、つゆにつけ、そして食べる。その繰り返しが幾度ほど続いただろうか。気が付いたら、たらいの中にうどんはなくなっていた。

たらいうどんのススメ

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徳島県阿波市の山の中。かつては不便であったかもしれないその場所は、現代ならあっというまに行けてしまう。あっという間に行けてしまうが、それでもそこは山の中。自然の息吹が包み込んでくれる場所だ。そんな自然の息吹の中で、自然から頂いた素材でとった出汁のつゆをつけてうどんを食べること。思わず、にっこりとしてしまう体験だ。

「たらいうどん」は、容器が特徴的なだけのうどんではないことを、是非とも実際に体験してみて頂きたい。

そうそう。メニューに載っていた「焼き鳥」。今回は食べるチャンスがなかったが、使用しているのは放し飼いの鶏の肉とのことで、とっても美味しいともっぱらの噂。うどんだけで足りなそうな方は、焼き鳥もぜひ!

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Japan Web Magazine 編集部

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