港の見える丘公園 一匹と一人

港の見える丘公園の猫

その猫は得意げに、まるで自分の庭を案内してくれるかのように、とことこと前を歩いていく。時折、「ちゃんとついてきているかにゃ」、といわんばかりにこちらを振り向く。こちらは「ちゃんとついていってますよ」と精一杯素直そうな顔をして、おとなしくとことこと後をついていく。

ここは神奈川県横浜市。「港の見える丘公園」だ。横浜港を見下ろす高台にある公園で、その素晴らしい景観と、大佛次郎記念館や横浜外国人墓地資料館、山手資料館、神奈川近代文学館といった歴史と文化の香り漂う建物が周辺に点在するロケーションで、休日は勿論、平日でも散策を楽しむ人々で賑わう。特に、穏やかな日差しののどかな昼下がりなど、浮世の憂さもしばし忘れられるような心地よさだ。爽やかな風が抜け、心にほっこり笑みが浮かぶような、そんな気分になれる。

横浜ベイブリッジを眺めながら、ベンチに座っておにぎりを食べていると、どこからか一匹の猫がやってきた。足元にじゃれつくというわけでもないが、かといってどこかに行ってしまう風もなく、近くをうろうろとしている。別に食べ物を欲しがっている感じでもなく、「遊んで遊んで」と甘えている風でもない。なんとなくそこに佇んで、こちらと視線が合うと、「特段、大事な用があるわけでもないにゃ」という感じでそっぽを向いて口笛を吹いている。

ところが、おにぎりを食べ終わり、大佛次郎記念館へ行こうと立ち上がると、「ほい、待ってたにゃ」といわんばかりに、突然歩き始めた。こちらが立ったから逃げる、ということでもなく、先導するようにゆっくりとことこと歩いていく。その足取りは、確信と自信に満ちていて堂々たるもの。尻尾をぴんと立てて、公園の通路のやや端を歩いていく。

猫と数メートル離れて後ろを歩く昼飯を終えたばかりの人間。その姿ははたから見たら、案内人と案内される人、というより、ボスと家来、という感じだろう。もちろん、前を行く猫がボスで、後ろを歩く人間が家来だ。とことこと歩く姿は、いつのまにかのっしのっしに変わっている。人間は、ボスの機嫌を損ねないように一生懸命ついていく。

気が付けば、ボスは分かれ道を右の方へ。「ボス、私が行こうと思ってたのは大佛次郎記念館なんですが・・・。」とてもそんなことが言える雰囲気でもなく、ボスはのっしのっしと歩いていく。

そうして、一匹と一人は、公園の向こうへ歩き去っていきました。長閑な昼下がり。一匹の猫と人間のお話でした。(写真はクリックで拡大します)

撮影場所

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