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名寄のひげ猫

名寄のひげ猫

名寄の商店街の一角にある小さなお店に入って食事をし終え、外に出ると時間は夜の12時を回っていた。氷点下15度。この気温になると、そろそろ寒いというよりも痛い、という感覚になってくる。外気に触れている部分が、みるみる間に感覚がなくなっていく。

白い息を手に吹きかけながら早足で歩いていると、ふとベンチの所に何かが居るのが目に入った。

近づいてみるとそれは、猫。こんな日は、猫はこたつで丸くなっているのではなかったか。ふさふさもふもふの格好をしているからそんなに寒くはないのかな。

こちらを見てじっとしている。きりりとした良い目だ。口元にはチャップリンのような立派な髭をたくわえている。話しかけたら、人間の言葉が返ってきそうな利発そうな顔をしている。

「一緒に、ホテルの温かい部屋に行くかい?」

こちらの滑舌が悪くて聞き取れなかったのか、興味がなかったのか。彼は、やにわに身体を起こし、ベンチからぴょんと飛び降りるとゆっくりと歩きはじめた。

その堂々とした歩き方はどうだ。「のっし、のっし」とでも聞こえてきそうなほどの貫録だ。この世の酸いも甘いも噛み分けたもののみが出せるオーラを放ちながら、歩いていく。ただものじゃない。いや、ただネコじゃない。

そんなこちらの心の中を見透かしたのかは知らないが、数メートルほど進んだところで、彼はこちらを振り返った。そして一言。

「あばよ」

あっけにとられているこちらをよそに、そのまま彼は雪の町に消えていった。

真冬の北国で出会った、あるひげ猫の話だ。

撮影場所

Japan Web Magazine 編集部

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