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田沢湖

田沢湖

田沢湖と辰子像

伝説と神秘の湖

田沢湖

東の空が次第に明るみ始め、徐々に「田沢湖」がその全貌を現し始めた。少し前まで辺りを照らしていた月は西の山の向こうに沈み、東側の湖面が帯状にゆっくりとオレンジ色に染まっていく。凛とした透明な美しさ。北国にある湖特有のどこか神秘的で静謐な佇まい。ぐるり周囲を緑に囲まれ、その後ろに烏帽子岳、秋田駒ケ岳などの山が連なる。一周およそ20キロ。面積約25.8平方キロメートル。東京、銀座、秋葉原、池袋、新宿、渋谷を全部合わせたのとほぼ等しい大きさの湖だ。

田沢湖

田沢湖

あまりの深さゆえに真冬でも凍ることがない田沢湖は深さ423メートル、日本一の深さを誇る。岩手県盛岡市と秋田県秋田市のほぼ真ん中に位置するこの湖はかつて透明度においても38メートルと、摩周湖に続く日本第二位の透明度を誇る美しい湖であった。しかし1940年代に始まった発電所建設及び治水工事により、別の水系である強酸性の玉川の水が流入するようになり、次第に酸性化、湖の生態系は崩れ、生き物も死滅してしまった。その後石灰による中和が行われ、ウグイなども放流されたが、固有種であったクニマス(木の尻鱒)を始め、絶滅してしまったといわれる生き物も少なくない。水の色は場所(深さ)によって、その表情と濃さを変え、深い藍色から淡いヒスイ色まで多様な青色を見せることから、日本のバイカル湖(世界で一番深い湖)とも呼ばれる湖だ。

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田沢湖

田沢湖は謎の多い湖だという。火山の噴火に寄って出来たカルデラ湖と目されてはいるが、正確なその成因さえ未だ詳しく判明していない。そんな田沢湖にはある有名な伝説がある。

辰子伝説

昔、田沢湖畔の院内村神成沢の三之丞に辰子という一人娘がいた。父を早くに亡くし、母一人子一人の貧しい暮らしであったが、娘は明るく朗らかで何より大変美しかったそうな。

成長するにつれ、益々美しさを増した辰子は次第に自らもその美しさに気がつくようになった。水面に映る自分の美しい姿を見、その美しさがいつか衰え、年老いた姿になるのを嘆き怖れるようになった。美しさをいつまでも保ちたいと願った辰子は神仏に祈ることを思い立つ。百日の願掛けをすることにしたのである。

畑仕事で疲れて寝入った母を尻目に、夜な夜な辰子は山道を行き、観音様にお祈りをした。「どうかこの私の美しさを永遠のものとしてくださいますように。」と一心に祈ったのである。季節は移ろい、木々が美しく色づき、そしてその葉も風に吹かれて落ち、やがて粉雪も舞うようになった頃、辰子の百日参りはようやく満願を迎えることとなる。そしてついに辰子は「雪が消えて春になったら、北に一里ほど行った場所に湧く泉の水を飲め。さすればそなたの願いもかなうであろう」という観音様のお告げを聞くのである。

やがて本格的な冬が来て、周囲一帯は雪に閉ざされてしまった。ごうごうと風吹きすさび、雪が後から後から降ってきて全てのものを覆い隠してしまう。寒くて暗くて長い冬。それでも、辰子の心は明るかった。春になれば自分の美しさは永遠のものとなるのだから。

冬の田沢湖

真冬の田沢湖畔

冬来たりなば、春遠からじ。雪がとけ、次第に水もぬるみ始め、春がやって来た。ふきのとう、わらび、うど、ほんな、しどけなどが顔を出し、蝶があたりを舞う。そしてある日、辰子は泉を目指して北にむかった。院内岳を越え、森の中を進んでいくと、お告げ通りに泉を発見する。それは苔生す岩に囲まれて、こんこんと湧いていた。家から歩き通しで、喉も渇いていた辰子は、これこそがお告げの泉だと喜び、一口手ですくって飲んでみた。清らかな泉の水は、なめらかに喉を滑り落ちてゆく。それは艶美な歓喜の味だった。

ところが、思わぬことに辰子はさらなる喉の渇きを覚えたのである。重ねて水をすくって飲んでみたが、飲んでも飲んでも喉の渇きはおさまらない。ついには泉につっぷすようにして直接顔をつけ水を飲み始めた。飲めば飲むほどに喉の渇きは激しくなっていく。そうして全てを飲み干して、泉の水も涸れる頃、辰子はいつしか竜の姿になっていた。

自らの身に起きた報いを悟った辰子は天を仰ぐ。すると一天俄かに掻き曇り、大粒の雨が降ってきた。そして突如、大音響と共に辰子の周囲の地面が陥没し、大きな湖となった。竜へと姿を変えた辰子は湖の底深くへともぐり、その湖の主となった。

田沢湖

一方、家に帰らぬ娘の身を案じた母は、辰子を探しに出かけた。辰子の名を叫びながら、見慣れぬ湖のほとりにたどり着くと、突然大きな竜が姿を現した。そしてその竜こそが可愛い娘の変わり果てた姿であることを知る。嘆き悲しんだ母が手に持っていた松明を湖に投げ込むと、それは魚へと姿を変えいずこへと泳いでいった。母はそれを木の尻鱒と名づけた。

こうして竜神が棲むようになった湖は、冬でも凍ることがないのだという。

冬の田沢湖

田沢湖

   
    

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田沢湖

田沢湖

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JAPAN WEB MAGAZINE Tomo Oi

浅草在住。ウニとホヤと山と日本酒をこよなく愛しています。落語好き。

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