多彩なる日本料理・日本各地の食べ物
殊に食に限っての話だが、人類の英知が生み出した最高にして最大の発明(発見)、それは発酵食品ではないだろうか。味噌に醤油に酒に酢に鰹節に納豆、チーズにワインにパン。全て微生物や酵母、酵素などによって発酵して得られた飲食料、調味料である。それらは始めはたぶんに偶然の産物によって生成されたのであろう。ただ何も知らずに置いておいた、運んでいた、発酵した状態のものをたまたま発見したなどなど。
海外の例をあげれば、例えばチーズやバターがそうだ。冷蔵庫もない時代、人々は様々な工夫をしながら保存したり輸送したりしていた。紀元前20世紀頃、ヤギの乳を動物の胃袋を干して作った皮袋に入れ運搬していた際に、ラクダの歩みと共に揺られ、分離した乳脂肪が皮袋内の発酵微生物によって発酵し出来たのがチーズやバターだといわれている。
気象条件、温度、湿度、素材の具合、その他諸々の条件がある一定の状態になった時、食べ物は腐敗せずに発酵(腐敗と発酵のメカニズムはほとんど変わらない。人にとって有益の場合「発酵」となる)した。カビやその他の醗酵微生物、菌類が「腐敗」を抑え、ヒトの舌にとっての旨みを増したのだ。この「発酵(醗酵)」という過程を発見したことによって、ヒトの食卓は劇的に充実した。ヒトの智慧と知識の積み重ねと偶然のコラボレーションが、今の私たちの食卓を豊かにしてくれているのである。
発酵には特に湿度と温度が重要な要素で、湿度及び温度の高い日本を含めたアジアではことさら発酵食品が多く生まれた。味噌に醤油、魚醤などの発酵調味料は、日本のみならずアジアのあちこちにある。他所から伝えられたものもあり、同時発生的にそれぞれの場所で生まれたものも多い。発酵食品の中には、匂いのきついものも少なくなく、見た目も溶解していたりカビが目に見えたり、初めて食する人には抵抗があるものもあるが、科学的に見ても明らかに旨み成分が増しているそれらの発酵食品は、一度好きになったら(馴れたら)、もう病みつきになる。
さて、今日は、そんな発酵食品の中から発酵調味料を、特に戦後の食卓欧化ゆえに今では地元の人及びグルメ以外にはあまり馴染みの無くなってきた魚醤をご紹介しよう。
魚醤とは読んで字のごとく、魚から作った醤(ひしお)。醤(ひしお)とは元々塩漬け、塩辛のことで、魚を塩で漬ける際に、塩をして重石を乗せ、じわりと染み出てくるものが魚醤となる。塩分の浸透作用で魚から水分が抜け出て旨みが凝縮される上に、身のタンパク成分がアミノ酸へと変化して旨みと成る。まさに旨み成分がぎっしりと詰まった最高の調味料なのだ。魚から作るがゆえに、多少の魚臭さ、生臭さがあるのは否めないが、慣れればそれも病みつきになる。苦味と臭みはある種大人の味、「成熟」の味なのだ。さらに、火を通すことによって、生臭さは消え、純粋に旨みだけが残る。その濃厚な旨みがゆえに、下手をすると昆布などの他のダシを必要としないほどだ。
秋田の郷土料理に欠かせない調味料、それがしょっつるである。ハタハタを塩漬けにし、じっくりと発酵熟成させてつくる。生で舐めると多少塩からく、生臭さもあるが、火を通すとまるみのある旨みへと変化する。雪深い冬の凍てつくような夜、囲炉裏端で、ハタハタと葱とセリを入れ、しょっつるで味をつけただけのシンプルな「しょっつる鍋」をはふはふと突っつくだけで、しょっつるとハタハタの深くて優しい旨みがしばれた身体をぽかぽかと温め、幸せな気分にしてくれる。
秋田でしょっつる鍋を食べるなら いろりや
呼んで字のごとく、贅沢にも鯛から作ったひしお。温かいソーメンに少し加えるだけで高級感溢れる鯛ソーメンの出来上がり。
こちらは秋刀魚を材料に、じっくりと熟成させて作ったひしお。料理に少々たらすだけで、味にコクと深みが出る。
石川県能登半島で主に製造され、食されている「いしる」・「よしる」。
アミノ酸がたっぷりの魚醤は、色々な料理にあう。カレーにたらせばシーフードの香りが出るし、漬物にたらせばまた違った味わいとなる。インスタントラーメンなどにもおススメだ。ただのインスタントなラーメンが、魚醤をたらしただけで、行列の出来るラーメン屋のラーメンのように一気に味わい深い立派なラーメンとなる。注意する点は使用する分量。ものによって差はあるが、魚醤は大抵かなりしょっぱいので、その都度、味をみながら入れること。また入れすぎると生臭さが消えないので、バランスを見極めるのが大事だ。しかし、一度(ひとたび)コツを掴んだなら、手軽に深い味わいを出すことが出来る、まさに魔法の調味料と化してくれることだろう。