一見するとキャラメルのような色をしたその物体。触ってみると、べとついた感じは無く、どちらかというとさらっとしている。薄切りにして、かけらを一つ口の中に放り込む。じんわりと口の中に広がるのは濃厚なミルク。強烈な乳の味だ。そして、ほのかで上品な甘みがどっしりとした濃厚さの後ろを控えめについてくる。それはチーズの旨みとも違う。バターのコクとも違う。懐かしさの中に新しさがあるような、初めて体験したのに何故か遠い昔から知っていたような、不思議な感覚だ。

上古の香味

あまり日常的に頻繁に使用する言葉ではないが、ここぞという時に思わず口にしてしまう言葉「醍醐味」。人が「醍醐味」という言葉を口にする時、それが趣味の話であれ、仕事の話であれ、心の中には幸せな気持ちがじんと広がっているに違いない。ややもすれば醍醐味という言葉そのものに「醍醐味」があるかのような、そんな力を持つ「醍醐」とは、ご存知の様に、かつて日本で食べられていた乳製品の事。

五味相生の譬(ごみそうしょうのたとえ)として、「牛より乳を出し、乳より酪を出し、酪より生蘇を出し、生蘇より熟味を出し、熟味より醍醐を出す。醍醐は最上なり。もし服する者あらば衆病皆除く。あらゆる諸楽ことごとくその中に入るがごとく仏もまたかくのごとし」と経典「大般涅槃経」で仏教の真理にも例えられたほどの食べ物だ。中世を境に製造が途切れ、製造方法自体も正確に伝承されていない為、いわゆる「幻の食べ物」で、その実体は研究者や学者によって様々に推測されているが、大筋でいわれているのが固形(もしくは液状)の熟成された乳製品。生乳を煮詰めて濃縮し、脂肪分を取り除いたものをさらに熟成させて作られていたようだ。味はまろやかでさっぱりとしていて極上至高の味であったといわれる。旨みが濃くてくせのないチーズのようなものだろうか。飛鳥時代頃から中世頃まで作られ、食べられていたという。

さて、今回の主役「蘇」は、その醍醐を作る途中の段階、生乳を10分の1になるまで煮詰めた状態のものだ。「蘇」も「醍醐」と同じく、いつの頃からか製造されなくなり、幻の食べ物となっていたが、近年になって奈良や宮崎で少量ながら生産されるようになった。どちらも、古代の文献を紐解き、なるべくその当時の味を再現するように丁寧に作られている。

焦げないように、ごく弱火でじっくりと煮詰めて作られる「蘇」は、牛乳の旨みがぎゅっと詰まっている。味は、チーズやバターというより、どちらかといえばその色の通り、キャラメルに近いだろうか。とはいえ、キャラメルの様な強い甘みは一切無く、感じられるのは自然のほのかな甘み。その甘みがミルクの濃い旨みの中にほんわりと漂っていて、なんとも言えぬ味わいだ。濃縮された乳製品なので、量はそれほど食べられないが、濃厚な旨みと香りは特に牛乳が好きな方なら堪らないだろう。ジャムや蜂蜜を少量加えてもよいかもしれない。白ワインと共につまむのも悪くないだろう。シルクロードを渡って日本にたどり着いたといわれるこの上古の香味。遙か1000年以上前の昔を思いながら、じっくりじんわりと味わってみるのはいかがだろう。

蘇は唐招提寺前の土産物店「西の京みやげ処きとら」、新宿みやざきKONNE館、宮崎県物産センター(宮崎県庁隣)、道の駅 都城ほか通販でも購入可能だ。

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