味噌カレー牛乳ラーメン

味噌カレー牛乳ラーメン

青森のソウルフード

まるでシチューのような乳白色をしたスープ。いや、光の加減によっては乳白色というよりも金白色に近いだろうか、艶やかな色をした液体が満たされたどんぶりに、チャーシューとメンマ、ワカメともやしがのっている。そしてもう一つ、存在感のある佇まいでどんぶりの真ん中におわすのがバターだ。スープにもあらかじめ溶け込んでいるのだろう、バターのものらしき脂がつやつやと浮いている。その脂のきらきらした斑点がこのスープをよりシチューの様な見た目にしている。そして香りだ。一言で言えば、芳しい、食欲をそそる香り。ミルキーな香りの所々にカレーの香りがまとわり付いたような複雑な芳香。そして、その奥に香るのは味噌の香りだろうか。

何も知らない人の前に突然このどんぶりを差し出してこれは何かと尋ねたら、おそらく一瞬答えに窮するに違いない。

一体、これが本当にラーメンなのか。

巷には、味噌、塩、醤油、トンコツ、魚介、など様々な調味料と出汁で作られた魅力的なラーメンがあり、それぞれスープの色も見た目も香りも様々だ。しかし様々ながら、それぞれ「らしい」色と見た目と香りをしている。多少のレンジ(範囲)はありながらも、ラーメンといえば、ある枠内に収まる。少なくとも、今まで生きてきた経験の中で、刷り込まれた「あるべき形」の範疇に入る。一般的なラーメン屋に入れば、それがどこのラーメン屋であろうが、通常、脳はそれほど驚く事も無く、すんなりと目の前に置かれたものがラーメンであるという認識をする。しかし、今眼前にあるもの。そのスープの色と香り。それはあまりに通常のラーメンとかけ離れている。丼の形とレンゲ、いかにもラーメンのトッピングでございという、乗せ物以外、この品がラーメンである事を証明するものはどこにも無い。しかし、メニューに「ラーメン」とある以上、これも歴としたラーメンなのだ。それを証拠に、箸を使って、スープをまさぐってみれば、これまた黄金色のラーメンの麺が顔を出す。

金色がかった乳白色をしたスープのラーメン。その名は、「味噌カレー牛乳ラーメン」。ラーメンらしからぬ文字の組み合わせを持った名前のラーメン。しかし、このラーメンこそが、地元の人及び青森を訪れた人の心を掴んで離さない、今や青森のソウルフードとも呼ばれるラーメンなのだ。

というわけで、今回は青森発のご当地ラーメン「味噌カレー牛乳ラーメン」を紹介しよう。

青森味噌カレー牛乳ラーメン

味噌カレー牛乳ラーメン

子供の頃(いや、大人になってからでさえも)、遊び心で、ちょいと一味工夫する目論見で、はたまた食べ飽きた味を変えるために、普段食べている食べ物に色々な調味料を試しに足してみた、という経験がある人は多いのではないだろうか。それはほんの少しだけ調味料を足してみる「ちょっとしたアレンジ」であったり、明らかにまったく系統の違う物を足してみる「大きなチャレンジ」だったりしたことだろう。人生にも通ずる事だが、無難な行動は無難な味を生む一方、大それた冒険は、良くも悪くも大いなる結果を生む。大きな失敗をする可能性がある一方、素晴らしい結果を生む事もある。まさにハイリスク・ハイリターン。当然、一度、二度の失敗で諦めてしまえばそれまでだが、トライアンドエラーを繰り返しつつも行われる少々大胆な試みの連続は、時に思いもかけない奇跡を生むのだ。「味噌カレー牛乳ラーメン」もまさに、そんな繰り返しの挑戦と遊び心、人によっては、ときに少々やりすぎとも思えるほどの、アレンジ、チャレンジから生まれた品なのである。

味噌カレー牛乳ラーメンの誕生

時は、昭和も中盤を過ぎた頃、今から約40年ほど前のこと。「味噌ラーメン」の本場、札幌のラーメン店「満龍」で働いていた故・佐藤清氏が店から独立し、いよいよ自慢のラーメンを全国に広めようと東京での出店を決意、青函連絡船に乗り、青森へ渡った所から、「味噌カレー牛乳ラーメン」の歴史は始まる。初めて降り立った地、青森が楽しく、ついつい飲み歩いた佐藤は、ふとしたきっかけで地元の銀行の人間と知り合いになる。そして、その人の仲介もあって、青森駅や青函連絡船乗り場からも程近い一等地、青森市古川の地に店を出す運びとなった。その店こそが、のちに味噌カレー牛乳ラーメンを生む事になる「味の札幌」である。

札幌から味噌ラーメンを持ち込んだものの、すぐに受け入れられた訳ではなく、青森の人の口に合うように研究を重ね、研鑽を積みながら、「味の札幌」のラーメンは青森独自の味噌ラーメンへと進化を遂げていく。そして徐々に若者を中心とした地元の人々に浸透していくのである。リーズナブルながらも美味しく、かつスタミナもつく味噌ラーメンは特に育ち盛りの学生の格好のおやつとなり、次第に店は学生達で賑わっていく。そうして五年ほど経ったある日の事。

その頃、店ではラーメンに様々な味をブレンドする事が流行っていた。そう、始めはちょっとした、いたずら心、好奇心だったに違いない。より美味しくしようという、探究心もあっただろう。いずれにしても若者特有の遊び心と既成の枠にとらわれない自由な発想が、新しい味を生み出していた。マヨネーズ、ワサビ、唐辛子。コーラを入れてみたり、少々度を越した悪ふざけに近いものもあったという。アイデアマンだった店主自身も、調味料を混ぜ、みそ塩しょうゆカレーなどの7色で「レインボーラーメン」等を作っていた。そんな中、ひとりの高校生が注文したのが、「味噌ラーメン」にカレーと牛乳をいれた「味噌カレー牛乳ラーメン」。これが、客も店の主も驚くほどの美味しさだったのだ。その美味しさは瞬く間に学生達の間に口コミで広がり、裏メニューから表メニューへ、そしていつしか「味の札幌」を代表する看板メニューとなったのである。伝説は、学生達の好奇心と自由な発想から生まれたのだ。

味噌カレー牛乳ラーメン

味噌カレー牛乳ラーメンの味

食べる前のイメージは、正直、少々色物に近いような、ただ数種の味を混ぜて奇をてらっただけの、たまにあるC級グルメのようなもの。牛乳とラーメンが果たして合うのか。味噌と牛乳・・・?しかし、店に入った瞬間に一抹の不安は、一気に期待へと変わる。店内に充満するのは、温かさ。その温かさは厨房の熱からのみ来るものではない。美味しいものを作る人、そして美味しいものを食べる人から放出される類(たぐい)の一種独特の温かさ。誰も彼もはふはふと一心不乱に食べている。

注文から暫らく、ラーメンどんぶりが運ばれてきた。目の前に出された途端に鼻腔をくすぐる芳ばしい香り。期待は確信へと変わる。たまらず、れんげでスープをすくい口に運んでみると、一気に口の中いっぱいに広がるコクと甘みとまろやかさ、そしてほどよい刺激。コクは味噌とバター、そして出汁そのものから来るもの。甘みはこれまた味噌とバターと牛乳、同じく出汁そのものから。まろやかさは牛乳が担当。じっくりと煮出された具材の甘みが味噌、牛乳、バターなどと手を取りあいながら、まったりと融合している。さらに、鼻を抜ける心地よい香り、ほどよい刺激はカレー粉だ。それらが複雑に絡み合いながらも絶妙なバランスで舌を包み込み、口腔内にじんわりと拡がっていく。まさに「絶妙」。思っていたほど、ミルク臭くも無く、カレー香が強すぎもしない。各々がそれぞれの役割をきっちりと演じながらも、主張しすぎず、過不足なく、それぞれを互いに高めあいサポートしているような、見事なバランスなのだ。

そして、麺。味噌ラーメンのスタンダードともいえる、太くてコシのある縮れ麺が、箸で手繰り寄せるほどにスープと絡み合いながら、口元へとやって来て「美味しさ」となって飛び込んでくる。ラーメン好きなら堪らない、この瞬間。少々の熱さをものともせずに、音を立てて一気に啜り込む。仮にここがクラシックコンサートの会場であっても、豪快に音を立てて食べてしまうだろう。その味。その湯気。その香り。身体に滲み入るその旨さ。麺を持った箸を上下させ、スープに一、二度浸しながら、啜り込む。吸い込む麺と汁と共に具合良く空気を混ぜつつ、音を立てて食べるこの至福。

味噌カレー牛乳ラーメン

トッピングもいい。シンプルそのものだが、もやしのシャッキリ感や甘み、メンマの歯ごたえ、そして大ぶりのチャーシューが、コクのあるスープにあう。個人的にはミルク系のスープの味とワカメがイマイチな感じがしたが、これは好みだろう。そして、始めは塊でのっていたバターが、食べ進むにつれ、少しずつ溶け出して、スープにさらなるコクと旨みを加えていく。全部溶かしてしまっても勿論、美味しいがこれも好み、脂っこすぎると感じる場合は、途中で取り除いてもいいかもしれない。何しろ、自由な発想から生まれた味だ。個々でさらなるアレンジを加えるのもまた自由。なにしろベースがきちんとしているから、アレンジが加えられても(よほど辺鄙なアレンジでは無い限り)美味しく頂けるのだ。そう、ベースがしっかりしている事。これに尽きるだろう。それは結局、これまた人生と同じ。どのような素敵なアレンジも、豊かなチャレンジも、しっかりしたベースなくしてはありえないのだ。

「味の札幌」で生まれた「味噌カレー牛乳ラーメン」は5人の愛弟子に引き継がれ、現在、青森市内の5つの店で食べる事が出来る。店によってそれぞれ味は多少異なるものの、先代の熱意を汲んだ弟子達がそれぞれにこだわりを持って日々ラーメンを作っている。初めて自分の小遣いで食べた外食がこの味噌カレー牛乳ラーメンだ、という人もいるほどに、誕生以来、青森市民に愛され続けてきたこの味。是非、青森に立ち寄った際には店まで足を運んで食してみていただきたい。

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