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亀山みそ焼きうどん

亀山みそ焼きうどん

三重亀山のスタミナ食

混雑している駐車場の片隅にようやく一台分の駐車スペースを見つけ車を止めた後、吹き付ける冷たい風をさけるように小走りで店に飛び込んだ。外の肌寒さとは一転、店内は熱気と活気に満ち満ちている。席は満杯だ。入り口のすぐ脇には数人が順番待ちをしていた。店の中を見渡すと目に飛び込んでくるのは、和気藹々と、または黙々と混ぜたり炒めたりしている人。もしくは、むしゃむしゃパクパクと一心不乱に食べている人。食べ終わって、幸せそうな顔で充足感に浸る人。耳に飛び込んでくるのは、じゅーじゅーと鼓膜と食欲を刺激する炒め音。それに混じって注文をする声、注文を取る声、その注文を厨房へ通す声。そして、鼻に飛び込んでくるのは、芳ばしくも強烈な鉄板料理特有の煙だ。こんがりと味噌の焼ける甘い香りだ。最早、その時点で食欲メーターは振り切れんばかりとなっている。

ここは三重県北部の町、亀山市。古くから東海道の要衝にあたり、江戸時代には鈴鹿峠越えを控えた亀山宿の宿場町として、また伊勢亀山藩の城下町として栄えた所だ。現在の人口は約5万人ほど、「世界の亀山モデル」のキャッチコピーで有名なAQUOSが生産されるシャープの亀山工場がある場所としてその名を知っている方もいるだろう。そんな亀山のご当地グルメとして、数年前から話題となり、注目を浴びているのが味噌ダレで味付けをしたうどん、「亀山みそ焼きうどん」だ。

亀山みそ焼きうどんの歴史

モータリゼイションの普及で日夜トラックが行きかうようになった昭和30年代の日本。西と東を結ぶ交通の要であるこの亀山にもひっきりなしにトラックが通るようになる。そんな亀山の、トラックの運転手達が休憩をかねて食事をしに訪れていた焼肉店でみそ焼きうどんは生まれた。

当時、日増しに交通量の増える国道沿いには次々に焼肉店が出来たが、それらの焼肉店は、主にホルモンを提供していたという。今でこそ、ホルモンも美味しいメニューの一つになったが、その当時は安いものの代名詞。処理も充分でなく、臭みも強かった。そんなホルモンの臭みを和らげ、味を良くするのに最適だったのが、赤味噌。これにニンニクや唐辛子、みりん、ラードなどを足し、香りとまろやかさと旨みを増した特製の味噌ダレがいつの頃からか供されるようになった。

鉄板に無造作にぶちまけられるホルモンとキャベツのぶつ切り、それに味噌ダレ。後は全部客まかせ。各自が銘々勝手に焼くのである。鉄板にのせられ熱を加えられて程なく、キャベツやホルモンから水分が出てくる。それを味噌ダレと混ぜ、さらに焼く。そしてそれをご飯の上にのせてかっ込むのだ。肉体労働で疲れた身体には堪らない味だったという。

丼のご飯がカラになる頃、鉄板の上には味噌ダレとホルモンとキャベツが渾然一体となったものが少し残る。そこに、どんっと「うどん」を投入するのだ。肉汁やキャベツの水分と、ほどよく焼けて芳ばしくなった味噌ダレのエキスをうどんが吸い、極上の一品が出来上がる。一度で二度美味しいスタミナたっぷり食だ。誰ともなく始めたこんな食べ方が、いつしか定着し、みそ焼きうどんとなった。

ざっかけながらも、食べやすくて美味しい上にスタミナもつく。濃い味のみそ焼きうどんはトラック運転手達に加え、近隣の工場勤務の人々にも評判がよかった。始めは裏メニューとして出していた店もいつしか表メニューに加えるようになったり、店で食べた客が家庭でも再現するようになった。こうして亀山にみそ焼きうどんが浸透していったのである。

2008年には、この地元亀山で愛されるみそ焼きうどんを核に地域おこしをしようと市民運動が起き、「亀山みそ焼きうどん本舗」が発足する。ごく自然に食べられていた食べ方なので、当初は決まった名前も無かったというが、呼称も亀山みそ焼きうどんと統一することに決まり、次第に提供店も増えるようになる。地道ながらも精力的な宣伝普及活動の結果、ついには2011年に開催されたB-1グランプリ中日本・東海支部大会にて二位を大きく離して一位に選ばれるという快挙も成し遂げたのだ。

亀山みそ焼きうどんを食べる

亀山みそ焼きうどんの生い立ちがわかったところで、早速亀山みそ焼きうどんを食べてみよう。訪れたのは亀山みそ焼きうどんの元祖ともいえる店、亀八食堂だ。

しばし、入り口で待った後、席に通される。ここで、テーブルの上においてあるメニューを見るが、みそ焼きうどんという文字を探すと些か混乱することになる。そんな文字はどこにも見当たらないからだ。そう、ここはみそ焼きうどん屋ではなく、あくまで焼肉屋。昨今、亀山のみそ焼きうどんの存在が広まって県外からもみそ焼きうどんを求めて多くの人々が集まるようになった結果、時間帯によってはみそ焼きうどんを食べる人が大半だったりもするが、本来焼肉がメインでありメニューにはみそ焼きうどんの文字はない。好みの肉やホルモンを頼むと野菜と味噌ダレがついてくるので、それらを一緒に焼き、別に注文したうどん玉を入れて「みそ焼きうどん」を自分で作り上げるのだ。(市内の提供店の中には「みそ焼きうどん」とメニューに表示してある店もあり、あらかじめ厨房で作って運んでくれる店も多い。)

というわけで好みの部位を選択し、注文しよう。お腹の減り具合にも寄るが、肉1~2人前にうどん一玉くらいがバランスがいい。もちろん、食欲と相談の上で、肉一人前とご飯、うどん玉のような組み合わせもいい。肉とホルモン、うどん玉もいい。要は、食べたいものを食べたいだけ、食べたい風に食べるのが亀山みそ焼きうどんだ。

亀山みそ焼きうどん
焼肉でおなじみの牛の各部位のほか、豚肉、鶏肉、ホルモンなどが並ぶ。値段は取材時のもの
亀山みそ焼きうどん

注文して数分、ざくぎりのキャベツともやし、肉と味噌ダレが運ばれてきて、無造作に鉄板にあけられる。

亀山みそ焼きうどん

それらを焦がさないように手早く混ぜながら炒めていく。自分がこれから食べるものを自分の手で仕上げていくという心踊るひととき。

亀山みそ焼きうどん

亀山みそ焼きうどんに使われるうどん。コシのあまりない、どこのスーパーでも見かけるような普通の柔らかなゆでうどんだが、味噌ダレと共にいためると、よく味の滲みたもっちりとした食感になる。

亀山みそ焼きうどん

   
   
   

亀山みそ焼きうどん

にんにくや唐辛子などが入った特製甘辛味噌。これこそがまさに亀山みそ焼きうどんの味の骨子だ。味噌ダレに配合されるものや割合は店によって異なる。それぞれの店にそれぞれ秘伝のタレがあるのだ。店によってはパックに詰めて小売もしている。

  
   
   

亀山みそ焼きうどん

肉や野菜に火が通って水分が出てきた所で、うどんを投入する。はじめは無理にほぐさずに、徐々に炒めながらほぐしていく。勿論、うどんを投入する前に、肉と野菜をご飯の上に乗せて食べるのもアリ。

亀山みそ焼きうどん

よく混ぜながら炒めていく。やがて、うどんが一本一本、つやつやとしてくる。肉や野菜の旨み、味噌ダレの旨みを吸い込むことで、美味しくなっていくのだ。

亀山みそ焼きうどん

うどんに火が通り、芳ばしい香りがしてきたら出来上がりだ。もちろん火の入れ方はお好みで。

亀山みそ焼きうどん

亀山みそ焼きうどんの味

仮にもし、かなりの空腹時なら、作っている最中は半ば拷問の様にさえ感じるかもしれない。じゅーじゅーという勢いのある炒め音と、芳ばしくて甘い味噌の匂い。もうくらくらするだろう。でも、その我慢は報われる。皿に盛るのももどかしく、直接口に運ぶと、ずっと漂っていた香りがやはり期待通りであったと即座に証明される旨みが身体を抜けていく。見た目通りにかなり味は濃い目だが、甘くて辛い味噌にニンニクやキャベツや肉の旨み、香り、エキスが入り混じり、それらがもっちりとしたうどんに吸い込まれ、なんともいえない味わいになっている。これはむしろコシのない柔らかなうどんだからこそ為せる技かもしれない。舌の上を甘く滑りながら絡みながら滑らかに喉の奥に消えていく。肉の脂の悦びが滴りながら、体の奥に消えていく。明快で晴朗でわかりやすい美味しさが、色艶のある食感を伴って優しく味蕾を刺激する。それは波紋の様に広がって、全身に喜びを満たしていくのだ。

亀山みそ焼きうどん

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亀八食堂  亀山みそ焼きうどん

亀山みそ焼きうどんを食べられる店

大雑把に言えば「味噌でうどんを焼くこと」ぐらいしか制約はないという亀山みそ焼きうどん。しかし、だからこそ味噌の味が重要で、各店各様工夫を凝らし、店独自の配合や味付けで個性を出している。現在市内で亀山みそ焼きうどんを提供している店は30店ほど。

Japan Web Magazine 編集部

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