蔦沼

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スノーシューのススメ

いうまでもなく人類の歴史は自然と共にある。自然から恵みを受け、自然に育まれ、自然と共に歩んできた。しかし、自然は人間の思い通りには決してならない。時に人類を試すかのように、苛烈で厳しい側面を見せることもある。そして、そんな自然に少しでも適応するために、有史以来人類は様々な道具や機械を発明し、駆使してきた。雨が降れば傘を差し、日差しがきつければ帽子をかぶる、そんな日常的な道具や機械から、台風などの大きさや進路を予知するためのレーダー類や解析機器、宇宙から地球の気象を観測する衛星まで。あまり公(おおやけ)のニュースにはならないが、雨雲を散らして強制的に天気を晴れにする機械まであるという。今や、天候そのものさえ操作しようとしている時代なのだ。天候に限った事ではないが、何か「一線」を越えてしまっているような発明や開発のニュースを見聞きするたびに、「バベルの塔」の話を思い出してしまうのは、考えすぎなのだろうか。

閑話休題。皆さんは「かんじき」というものをご存知だろうか。年配の方ならその存在自体は普通に知っていらっしゃるかと思うが、今や、雪の多い地方でもない限り、実際に目にし、足につけたことのある方はそれほど多くないかもしれない。かんじき木のつるや竹などで作った、履物の下に縛り付けて使う道具で、深い雪に埋もれずに歩く為のものだ。昔は雪の多い地方では蓑、傘と共に日常的に使われていた。近年ではアルミパイプなど軽量で丈夫な材質で作られ、登山者や冬期に山の中で仕事や作業をする人々に主に使われている。思うに、これなどは自然を思い通りにするという(傲慢な)発明ではなく、いかに自然と共に暮らし、より便利に快適に過ごすかという発想の元に作り出された、在り来たりの表現をすれば「自然に優しい」発明品だろう。動力は人間の力のみだから、排気などで自然を汚す事も無い。元々は必要に迫られて出来上がったものとはいえ、現代では、自然を身近に感じ、自然に学び、接するためには格好の道具だ。

さて、その「かんじき」をさらに快適に便利にしたような道具がある。ご存知の方も多いだろう、「スノーシュー」だ。読んで字のごとく、「雪の靴」、雪の上を歩くための道具である。「かんじき」が靴に結びつける紐以外可動部分のない楕円形のフレームであるのに対し、「スノーシュー」は形もより複雑で、可動部があり、踵部分に高さを調節するためのこれまた可動式の金具があるものなど、色々な状態の雪面でも歩きやすいように様々な工夫、改良が加えられている。底部分もよりしっかりとしたギザギザ、滑り止めがついているので、傾斜がある場所にも対応できる。グレードやメーカーによって様々な製品が出ていて、中には本格的な登山のアプローチに使用できるような高性能な製品もあるのだ。今、そんな「スノーシュー」を携えて、これまでには中々容易に行く事のできなかった雪の森や雪原に出かけて、「スノーウォーキング」「スノーハイキング」を楽しむ人たちが増えている。

雪の蔦沼

蔦沼は青森県の八甲田山近くにある周囲1キロ、面積約6haほどの沼。森の中を分け入っていくと、神秘的な雰囲気の中にひっそりと佇む美しい沼が現れる。近くに鏡沼、月沼、長沼、菅沼、ひょうたん沼といった大小の沼が点在し、周囲一体には湿原植物や高山植物が生育している。すぐそばに蔦温泉があり、付近のほかの沼々を巡るための遊歩道も整備されていて、一周しても小一時間。水芭蕉の群生地や清らかな渓流を眺めながら手軽にハイキングが出来ることもあり、特に新緑の頃や紅葉の季節には訪れる人の多い人気のエリアだ。しかし、一体は八甲田山に代表される雪の深いエリア。冬には数メートルに達する積雪があり、通常の装備では容易に近づける場所ではない。

ところが、そんな場所も「スノーシュー」を履けば、比較的手軽に行かれてしまうのである。勿論手軽といっても、「何も装備がない状態に比較して」のことで、積雪の多い場所には隠れた穴や想像以上に雪の深い所など危険な箇所が多々あり、経験者やガイドが一緒に居ないと思わぬ大事故に繋がるのにはかわりない。しかし、そのポイントさえ押さえれば、今まで行かれなかった場所に行く事の出来るという、さながら「小冒険」のような楽しみを享受できる。そしてこの蔦沼はその「小冒険」にもってこいの場所なのである。

蔦沼巡りへの入り口は先ほどの蔦温泉の右側にある。雪の無い季節なら、木の遊歩道が続いているのですぐわかるだろう。しかし、雪の多い時には遊歩道の柵さえも雪に埋もれており、どこから道でどこが柵なのかさえもわからない。とりあえず、しっかりとスノーシューを装着したら、そんな雪の積もった遊歩道(見た目には白い雪の盛り上がり)を慎重に進みはじめる。ストックを使ってバランスを取りながら一歩一歩雪を踏みしめていく。スノーシューが無ければ膝まで容易に潜ってしまうようなふかふかの雪だ。そんな雪をものともせず、歩けるのがスノーシューの力。スノーシューの魅力。何度も使って知っていても、改めて感動してしまう。

訪れる人の殆ど居ない冬の蔦沼、空気は凛と澄み切っていた。その澄み切った空気がすーっと肺の中に入っていくのを感じる。身体の中から透明になってしまいそうな清澄な空気。すぐそばをこれまた素晴らしく清らかな渓流が流れている。岸の窪んだ部分は凍っている。その凍った部分が太陽の光を反射してきらきらとダイヤモンドの様に煌めく。見上げると、薄い白墨を棚引かせたような綺麗な空に向って、ブナやミズナラがその枝をぐっと伸ばしているのが目に入る。

蔦沼
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数箇所、予想以上に雪の深い場所を慎重に通り過ぎ、看板を右に入り、しばらくすると蔦沼が見えてきた。沼畔近くまで雪の降り積もった沼は所々凍りながらも青々とした美しい水を湛えてそこにあった。白い雪面に映える柔らかな薄茶色をした枯れ草が、右に左にかしいで遊んでいる。凍った水面に対岸の山と木々と空が写りこんでいる。まるで「透明」を題材に描かれた一枚の水彩画の様。そこだけ時が止まってしまったかのような、清らかで静謐な空間。

蔦沼の大自然の魅力をフルスクリーンで見る

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平らな箇所で、試しにスノーシューを取って一歩足を踏み出した途端、腿まで雪に埋もれてしまった。スノーシューの力を思い知る瞬間。

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蔦沼(つたぬま)

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